あなたの選んだこの時を | ナノ

Lament

忘れてはならない。永遠の楽園を築くのは、誰だったかを。
忘れてはいけない。神が永遠の楽園を築くのなら、悲劇は誰が生み出したのかを。
永遠の楽園を築くべきなのは、結局人なのだから。

『星の楽園を築く王『シュロイデリア』は、永遠の楽園を築く事を願った。だが、永遠の楽園を築く事が出来なかった王は、英雄に敗れ、深い傷を負い――死んだ。だが、永遠の楽園を築くべきだと考えた彼は、死して尚、その思いが永久に受け継がれる事に気付いた。彼にとっては、楽園が全てなのだから』

さらさらと風が流れる。全ての戦いが終わった後、竜神翔悟は消えた。ドラゴンボーンの代わりに、翔悟自身が地球の楔そのものになるという結果に終わった。風が流れ、水音が響き、心地良い風が流れる。ルークはロサンゼルス研究所の窓から、空を見上げた。
「あれから、一ヶ月…か」
一ヶ月過ぎたのだろうか。始まりの魔神と戦い、翔悟はドラゴンボーンと共に世界の楔となった。翔悟自身が――と言っても過言ではないだろう。世界が終わる事はない。何故なら、全ての戦いが終わったのだから。新たな摂理と共に、新しい世界がスタートするであろう。そう思っていたのに、肝心の翔悟が居ない。この世界は、救われた筈なのに――翔悟が、『消失』した。
「翔悟…」
ルークは、ただポツリと呟くだけだった。友として一緒に戦った彼が、この世界に居ないなんて。


「翔ちゃん?」
早穂は彼の言葉を聞いて、「うーん、分からない」と言った。ルークは「なら、そうですか」と溜息を吐きながら、早穂は「変なのー」と言った。
(肝心の早穂まで彼に関する記憶を失ってしまったか…)
この世界の概念と化した翔悟の関する記憶は、ボーンファイターすら愚か――家族からその記憶を奪った。覚えているのはルークだけ。どうしても、彼に関する情報を知らないと…ルークは何時の間にか、世界を救う為に翔悟を調べていく内に、仲間である彼を助けたいと言う思いが募っていった。最初はドラゴンボーンを守ろうと思い、翔悟に近づいたが――段々、翔悟を仲間と認識していくようになった。5人揃って、仲間の意味がある。共にダークボーンと戦い、共にケルベロスから地球を守った。その彼が、居ない。空白の一日が終わる。

「――変わったな、お前は」
父親のイアンからそう告げられたのは、日本から帰国した時の事だった。ルークは「え、そうですか?」とぎこちなく言い、イアンは「そう言う事が母さんにそっくりだ」と言った。
「母さんは――元気にしていますか?」
「元気にしているさ。地元で。そう言えば、お前は変わったな。昔は無愛想で、感情が無さそうな表情だったのに何時の間にか感情豊かになって。母さんが喜びそうだ」
「父さんにそう言われると嬉しいです」
「嬉しい。か…誰かにそう言われた気がしたよ。懐かしい響きだ」
イアンはそう言い、コーヒーカップを置いた。
「家族と言うものは楽しいものだって、誰かから言われて、私は少し懐かしい気がしたよ。ルーク、新しいコーヒー豆と砂糖が入ったんだ?飲むか?」
「え、いえ。要りません」
「甘いコーヒーを拒否するなんて珍しいな。変わったか?」
「父さんこそ、変わったじゃないですか」
イアンは「変わった、か――」と言い、窓を見上げる。窓には雲無き青空が広がっていた。ルークは空を見る。
「何だか青空が、懐かしく感じるよ…」

(やはり、父さんは翔悟の事を懐かしく感じると言っていたな…)
ロサンゼルス研究所から出た後、ルークは街中を歩いていた。翔悟が懐かしく感じ取れるのはやはり気のせいではなかったのだろう。ルークは「少し、安心したな」と言って海岸に辿り着いた。
(此処で翔悟が新たに立ち向かう決心をしたのは懐かしいな…)
丁度ダークボーンが襲い掛かった時に、苦戦を強いられていた状況に現れたのは、ドラゴンボーンを受け入れた翔悟だった。翔悟は彼等を守る為に戦う事を決心したのだ。
丁度、浜辺だった時に。
「今日はこれ位に散策を終わろうか」
散策を終わろうと帰ろうとした瞬間に、空間から誰かが現れる音がした。ルークが振り返ると――後ろに居たのは、予想だもしない人物だった。青が掛かった緑の髪、アメジストの瞳、ネポス・アンゲリスのダークボーンの一人、『ダークバット』のフレイド本人だった。

ダークボーンの一人であるフレイドが、何故自分の所に――?
疑問に思ったルークであったが、フレイドはルークの顔を見てしかめっ面をしていた。フレイドは何かを考えていた顔をしていたが、直ぐに冷たい表情に戻る。ルークはかつてドラゴンボーンを狙うダークボーンの一人が、何故こんな所に居たのか全く分からない。するとフレイドはルークの手に文字を書く。
『私は、ネポス・アンゲリスのエクェスであった――筈であった』
「…筈?」
『私は、始まりの魔神に仕える…所謂神様みたいなものだ。神の概念を持っていたが、この世界に干渉する為に殆どの力が失われた』
「……つまり、貴方は神様ではなく、ネポス・アンゲリスではない。と言う事か」
『そうだ。私は始まりの魔神の命により、ボーンの監視をしていた』
「だが、貴方はペルブランドの部下だった筈だ。彼女も監視をしていたのか」
『……それは……』
フレイドはぶんぶんと首を横に振る。ルークは「なら、説明してもらおうか」と言わんばかりの顔だった。するとフレイドは『こちらにも話がある』と語り、ルークを見た。
水を操る鮫の適合者と、空間を操る悪夢の蝙蝠の適合者。二人の邂逅が果たされた。

『私は、始まりの魔神に仕える――神的な存在だ。人ならざる存在。私は、エクェスであるが…正体を隠し続けて来た』
「なら、私も話したい事がある。竜神翔悟の記憶を――何故、私から奪わなかった?」
『其れは、私にも分からない。だが、翔悟と言う存在を監視し続けて来た君なら、分かるかもしれないが?』
「……情報有難う。だが、私は翔悟の事を忘れてなどいない。彼が戻って来るまで、その時まで戦い続ける」
フレイドはそんなルークを見て、溜息を吐いた。
『貴方は優しい人だ。大切な仲間の為に戦い続け、最初は利用しようと――』
「其れは違う。撤回して欲しい。タイロンも、アントニオも、ギルバートも――無論、翔悟も大切な仲間だ」
レナードがココアとチョコレートクッキーを置いてくれた。ルークは「有難う」と感謝の言葉を述べ、レナードは「如何致しまして」の合図をして部屋から立ち去った。
『私も分からない…だが、この世界で変わった事があった』
「変わった事?」

『ネポス・アンゲリスから、ドラゴンボーンの青年に関する記憶が奪われた。覚えているのは私一人だ。クルード様やシュトルツ様すら愚か、私の上司のペルブランド様やバーリッシュ様、挙句の果てには全エクェスから彼に関する記憶が…』

「…其れで、貴方は一体何の用で私を呼んだのだ?」
『…信じないで欲しい。この世界の『理』が、変化しつつあるのだ』
「…………!」
ルークは驚いた表情をした。フレイドは、話を続ける。
『ボーンに似た正体不明の怪物――『イド』が、現れたのだ。エクェスである彼等が立ち向かったが――歯が立たなかったらしい。私は、ある力を持ってイドを倒したが、何れ私では歯が立たないだろう。其処で、翔悟の記憶を持っている貴方ならば力になれるだろう』
フレイドは語り、ルークを見た。
『イドの正体が分かれば、ドラゴンボーンの青年に関する記憶が分かるであろう。だが、まだまだ私では歯が立たない。だから、お願いだ――力を貸してくれないか?』
ルークは考えた。もしかしたら、翔悟に関する記憶が分かるかもしれない。フレイドに一度協力をすれば…翔悟に関する手がかりが分かるかもしれない。
「―――分かった。力を貸そう」
『感謝する』とフレイドは掌に文字を書いた。ルークは「お互い様だ」と言う。