あなたの選んだこの時を | ナノ

記憶の水底

私が貴方に話す事を説明する。とフレイドはルークの掌に文字を描く。フレイドがかなりの無口である事は戦闘時には知っている。フレイドはルークの掌に、文字で説明をする。
『翔悟に関する記憶が失われただけではない』
「失われたわけ、ではない――?」
フレイドは、文字を続ける。

『レボルトと、ソキウスに関する記憶までもが奪われているのだ』

「………!!??」
ルークは絶句する。あのダークケルベロスであり、フェニックス・シュトルツを意図も容易く葬った男――レボルトと、ダークワイバーンの実力屈指である評議会の一人クルードを一撃で瀕死にさせたダークウロボロス――ソキウスの記憶までもが失われた?
『私も、最初は困惑した…が、何故か評議会の一員にレボルトとソキウスの姿と記憶、其れに存在そのものが失われたのだ』
「…謎が深まるな…一体、どうしてこんな事に…」
フレイドは『分からない』と言い、首をふるふると振り続ける。ルークは「力とは、何なのか?」と本来の事を説明する。

『私は、こう呼んでいる――『エゴ』と』

フレイドが手に持ったのは、白銀のレイピアだった。白銀に光る刺突剣を持つ彼は、何も無い場所を斬る。
『私の能力は空間を切る能力。ダークバットのボーンが無い代わりに、私の武器代わりになっている』
「エゴは――ボーンの代わり?」
『否定。監視役である私も、エゴを手にしたのは『イド』と出会ってから――ボーンが失われた世界の、武器となっているようだ』
「そうか……私に、出せる力はあるのか?」
『ある…のかどうかは分からない。其れは、概念との思い出の数だけ、強大な武器になる。私の力は、細いものだから』

「ルークはさ、将来は何になりたいんだ?」
翔悟はそう言い、橋の上でルークと一緒に夕日を見ていた。
「そうだな…父さんの跡を継ぎ、研究所で役目を続ける」
「そうなんだな…俺は、何をするのかが、分からないんだ」
「分からない?」
翔悟は、話を続ける。

「何時の間にか、逃げ続けていたら――日常を守る為に戦っていたら、ネポスの人達や、リーベルトさんやクルードさんを守る為に戦い続けている。俺は、将来について忘れてしまっていたんだ」

「忘れてしまった…か。翔悟らしい考えだな」
「翔悟らしい考えって何だよ。俺はちゃんと将来の事を考えているんだぞ」
ルークはフフッと笑い、翔悟は「何なんだよ」と言う。ルークは話を続ける。
「翔悟、もしお前が戦いを終えたのなら――」

『シャークボーンの適合者』
フレイドが掌に文字を描き続ける。ルークは我を何時の間にか忘れていたのだ。ルークは「忘れるなんて、私も少し頭がおかしくなってしまったのだろうな」と溜息を吐きながらクッキーを食べる。
「其れに、私はシャークボーンの適合者ではない。ルークと言う名前がある」
『私にも、フレイドと言う名前がある。覚えておいて欲しい』
「そうか…なら、フレイド。一つ聞かせて欲しい。バイズとドロッサスは、無事にしているか?」
『無事……』

ネポスの街外れにある病院で、フレイドはホワイトボーンである『ダークイーグル』と『ダークアリゲーター』のエクェス――バイズとドロッサスの病室を訪れた。
「…フレイド様!?」
ホワイトボーンの上である上位ランクの『アイアンボーン』の『ダークバット』のエクェスであり、ペルブランドの上司であるフレイドが現れた事にドロッサスは心底驚いていた。アメジストの瞳を細めたフレイドは、ベッドで眠っているバイズを見た。
『―――まだ、目を覚まさないのか』
「ええ、あの正気を失った出来事から3ヶ月が経ちましたが――まだ、目を覚まさないようです」
『そうなのか…ドラゴンボーンの適合者は、彼を救ってくれた…』
「ドラゴンボーン…」
「?」

「…ドラゴンボーンの適合者とは、誰だ?」

『忘れてしまった…バイズも、昏睡状態に陥っている。幸い、命に別状は無かったのだが…私は、始まりの魔神が消失した後、役目を終えた。だが、イドが暴れている時に違和感を覚えたのだ』
「…違和感?」
『詳しくはネポス・アンゲリスに来て欲しい』
「…久しぶりのネポス・アンゲリス、か。感謝する」
『私は唯転送をするだけだ。感謝の言葉など要らない』
「リーベルトにもありがとうを教えたのだが…貴方は性格が冷たいのだな」
『冷たいなど。だけど、私は世界の秩序を守るのなら』
フレイドは空間能力を使い、ルークをネポスに飛ばした。


フレイドは草原へと飛ばした。ルークは久しぶりの空気を感じた。リーベルトがネポスに飛ばした時、翔悟が野良ドラゴンに驚いた事は覚えている。ルークはその事を思い出し、苦笑した。
『始まりの魔神に仕えることが、ネポス・アンゲリスの御意思…か』
フレイドはルークの掌に文字を綴る。
『水に流れるように、唯流れるままに始まりの魔神の御意思と称して他の星のカードを回収する。結局は、滅びへと向かうのに』
『レボルトとソキウスは、流れを逆らった。ネポス・アンゲリスの人達は間違っているのかもしれなかったのだろう。流れが、滅びへと向かうと信じずにいたから』
「だが、流れを変えるのも――神様の御意思と言えるかも知れない。私は水に流れるように、ドラゴンボーンを守っていた――が、翔悟と知る内に、始まりの魔神にこの世界の規範を変える戦いになった。流れを変えると言うのは、そう言う事だ」
『貴方、たまに良い事を言う』
「有難う。だが、イドは何処に居る?」
『イドなら――此処に居る』
フレイドが指を刺すと、何も無い場所に黒いもやの様な物体があるのが分かる。だが――もやは何時しか、人の形をしていた――其れは――色を失ったボーンの…命の色、生命の色である属性を失った、灰色のボーンだった。
「ダークスコーピオン……!?翔悟が倒した筈なのに?!」
ルークは驚いた。ダークボーンの先攻部隊の一人『インセクターズ』のダークスコーピオンが、命の源である属性の色を失っている。自我を失っているのか、暴走をしながら此方に襲い掛かってきた。
「ぐっ…ボーンを失っている状況では此方に対抗する手段など、有りはしな――」
するとフレイドは、レイピアを持って随い――レイピアが鞭にように撓り、イドを一撃で倒す。
「おお…!」
フレイドは『関心をしている場合ではない』と言う。

『イドは、『竜神翔悟の関する記憶を持つ者だけが許される力』だそうだ。私の力はこんな物ではないが――尚更、力は制限されている。だから私は如何する事も…』
ルークは、考えていた。なら…どうしたら、翔悟に関する手がかりは見つけられる?
「…シュトルツの邸宅跡地に行こう。其処でなら、手掛かりは見つけられるかもしれない」

ルークの決心は、ほの暗い思いをしていた。其れは、忘れかけていた真実だったから。