鋼のハートが溶け出た痕
しかし、この喘ぎ声もたまらねえ。ホントにイイ声出しやがるんだ。よし、捻り責めをもっと激しくしてやれば……どうだ!「はあっはあっ、おや、おや、おやぶんもうっ、もうイクッ!! だ、めえっ……ああああああイック、イック、イック、イックううううっ!! あああああっああっあっあっあっあっ!!」
フィニッシュとして最後、捻りもなにもなくひたすらチンポを上下に擦り上げながらザーメンを搾り出すようにして手を動かすと、とうとう限界が来たらしいヤツの最後の叫びが耳を劈く。
「ああああっ!! ああっああっ!! おや、おや、おやぶんイクッ!! い、い、い、イック、イック、イックううううっ!! ああっあっあっあっあっああああああっ!! ああっあっあっあああああああー!!」
腰がガクガクガクガクッと上下に跳ね上がりそして捩れ、チンポが膨らんだと思ったらものすげえ勢いでザーメンが手に飛んでくる。
何度にも分けてのそれに、龍宝は腰をガックンガックンさせながら快感に浸っている様子。
「あは、あは、はあっはあっ……ううっ、んんんんっ……あ、はあっ、い、イった……」
ぱさっと身体がベッドへ倒れ、荒く息を吐きながら薄目を開けて俺を見てくる。なんだ? なんか言って欲しいのか?
「イったな、龍宝。お前、イキ顔もかわいいな。ま、撫子には負けるけどな。にゃはっ」
お道化て見せたところだった。ぶわっとヤツの眼に涙が盛り上がり仰向けに転がっていたヤツの目尻から涙が零れてシーツに吸い込まれていく。
そうしたところでクリッと身体を反転させて俺に背を向け、ぐすぐす鼻を啜りながら泣き始めた。
あーあ。泣かせるつもりじゃなかったんだが、これは謝るべきなのか? それともいっそ開き直るか。どっちがいいんだろう、悩むぜ。
「龍宝、べつにいいじゃねえか。お前だって男なんだし、出すべきモンは出しておかねえと身体に悪いぜ」
「ひ、ひどい……斉藤さんは、ひどいっ……!」
「ひどい? 俺が? なんで」
「俺はおやぶんだと思ってたから大人しくしてたのに……おやぶんに合わせる顔が無くなってしまった……もう、だめだ」
はあ。そう来るか。じゃ、まあこう言っておくか。
「だったら、これは俺たちのナイショにしねえ? 俺も鳴戸にはぜってー言わねえし、お前も言わなきゃ問題なし! だろ?」
「そういう単純な問題じゃないんです!! 俺は酔っていたとはいえ斉藤さんを親分だと勘違いしてあんな風に乱れて……あまつさえ、イかされるなんて……おやぶん、ごめんなさい。おやぶんはきっと、許してくれない」
「だから、言わなきゃいいだろって。べつに難しいことでもねえだろ」
「それは……そうかもしれませんが、きっと俺は、おやぶんに抱かれる時、斉藤さんのことを思い出すでしょう。それが、怖い……裏切りが自分の中で明白になるのが怖いんです」
ヤツはそういってまたぐすっと鼻を啜った。
「だったらよ、もういっそのことこの広島にいる間、俺を鳴戸だと思えばいいんじゃねえか?」
静まる室内。え、何かマズいこと言ったか?
するといきなりヤツががばっと起き上がってきて、俺を信じられないようなものを見たような顔で見つめてくる。
「あの、それはどういう……」
「だからよ、夜の間だけ俺を鳴戸と思えばお前も俺も問題なくねえって言ってんだ。お前、すんげえかわいいし。一発だけじゃ勿体ねえ。お前も性欲発散できるし、一石二鳥じゃねえか?」
「斉藤さんを、鳴戸おやぶんと思う……? そんな」
「眼ぇ瞑ってれば分かんねえだろ。俺はかわいいモンに眼がねえし。どうだ? 夜だけ、お前の親分が帰ってくるぞ」
すると龍宝は顔を歪め、思案に耽っている様子。これは、かなり揺れている。あともう一声っ……!
「挿れはしねえし、お前の気持ちイイって思うことだけしてやるぜ。いやなことはしねえ。鳴戸だってそうだっただろ? 前にお前、俺と鳴戸が似てるって言ってたし。広島にいる時だけの即席の恋人ってやつよ」
「それは……その、えと……さ、斉藤さんには彼女がいて、俺にもおやぶんがいるし……どちらも裏切るのは、ちょっと」
「だから俺たちだけの秘密にしようって言ってんだ。どうせ広島に長くいる気はねえんだし、だったらいいんじゃねえ? どちらにも黙って、イイコトしようぜ」
返事を待ってみたものの、まただんまりか。まあ、根が真面目そうだもんなあこいつ。無理か、やっぱり。
すると、恐る恐る龍宝がゆっくりと頷いた。えっ? これはあれか、いいってことか?
「それは、いいってことか。ちゃんと言葉に出せ」
「……おやぶんって、呼んでもいいですか……?」
「いいぜ。俺は今は鳴戸だからよ。ほら、龍宝こっちへ来い。抱きしめてやる」
すると、戸惑いながらも恐る恐る体重をかけてこちらにしな垂れかかってくる。やっぱ、いいにおいすんなあ。
「鳴戸、おやぶん……」
胸板に頬ずりしてくるヤツを見てるとなんか、妙な気分になってくるな。
「龍宝、キスしてやろっか。好きだろ? 俺とするキス」
「き、キス、ですか。……えっと、お、おやぶんが、したいのなら俺は」
「お前はしたくねえのか? 今の俺は鳴戸だぜ」
ピクッと腕の中の身体が動く。すると、こくんと頷き顔を上げたがそのツラ!! なんだその超絶に色っぽいツラはっ!! ほっぺた真っ赤っかで眼が潤んでなんかキラキラしてやがる。そそられるなー、このキレーなツラ。唇もつやっつやじゃねえか。
「おやぶんはいつも……キスする時、頬を両手で包み込んでくれたんです。そして、優しくキスしてくれた……」
ああ、そういうことか。そうしろってことだな。ま、今の俺は鳴戸ってことになってるし。
手を伸ばして両手で頬を包み込むと、ヤツの体温が手に移ってくる。しかし、肌しっとりでさらっさらしててめちゃくちゃ気持ちイイじゃねえか。手がなんか、気持ちイイ。
「眼ぇ、瞑ってろ」
すると従順に瞼が下ろされ、それを合図のようにして顔を近づけてなるべく優しく、唇をヤツの唇に押し当てると、その拍子にヤツの眼からすっと一筋の涙が流れ頬を滑って俺の手に零れてきた。
それから、俺と龍宝のおかしな関係が始まったのだった。