人魚の涙で馬鹿になる

 散々、舌を舐めてやると次はちょっと噛んでやることにした。甘いキスもいいが、こういうスパイスもいいよな。そう思ってはむっと柔らかな舌に歯を入れてやるとビグッと身体が動き、背中に腕が回ったと思ったらコートを思い切り両手で掴んでくる。
 なんだ? こいつこんな刺激でもあれか、感じちまうのか。どれだけ感度良好な身体だよ。まったく、かわいいったらありゃしねえ。
 もっとやってやろうっと。
 柔らかな舌は噛み心地がいい。それに、噛めば噛むほどこいつの身体の感度も上がっていっているようで、もはや俺にしがみつく形で足に力が入らないようだ。これほど感じてくれると男としては嬉しい。
「んは、んはっはあっはあっ……は、んむっ……ん、ん、んむっ」
 最後にそっと優しく噛んで、ゆっくりと唇を離すとヤツの眼が薄っすらと開き、徐々に黒目が見えてくる、その様がすんげえきれいでつい見惚れちまった。
 二重で切れ長の眼は今は潤みに潤んで俺の方を熱の篭った眼で見つめてくる。ほっぺが真っ赤だ。ついでに、唇も真っ赤ですんげえ色っぽい。
 今すぐ押し倒したいところだが……どうしてやろうか。そう思うか思わないかの間に、ヤツがさらに強く抱きついてきて溜息のように言葉を吐き出した。
「おやぶん……好き……」
 その言葉を聞いて、俺は思った。ああ、こいつは本当に鳴戸のことを心から愛しているんだと、感じちまった。そっか、そんなに鳴戸が好きなのか、お前は。
 だったら、俺である必要はねえよな。こいつは独りで歩いて行けるヤツだ。だったら、俺が手を貸さなくてもいいわけだ。
 ま、どちらにしろ広島にいある間だけの関係だし、それに不自然だしな。俺が考えついたっていっても不自然なものには変わりない。
「なァ、龍宝。俺が斉藤に戻っても、お前は困らねえか?」
 随分と卑怯な言葉だと思ったが、これしか思い浮かばねえ。こいつが未だ俺でいいってんなら、そのまま関係を続けるわけだし、もういいっていうんならそれはそれで、前のような関係に戻るだけだ。
 たった、それだけ。
「それは……す、少しだけ、困ります……」
 ごくごく小さな声だったがハッキリと聞こえた。
「斉藤さんはおやぶんにとても似ているから……やっと、誰かに甘えられて嬉しいと思っているので、この関係が例え間違いでも俺は、それでも構わない。そう、思っています。斉藤さんは、違うんですか……? 関係を終わらせたくてそう聞いたのでしょうか」
「……いいや、ただ、そうだな。そうかもしれねえけど、そうでもねえ。俺にもよく分からねえんだ。このままお前のことを独占し続けていいのか……俺には撫子がいて、そんでお前には鳴戸がいる」
 すると、そっと龍宝は俺から離れ潤んだ眼で見つめてくる。そして、なんとも妖艶に笑ってこんなことを言いやがった。禁句に近いその言葉。
「そんなこと……承知の上でしょう。あなたにはあなたの恋人がいて、俺には親分がいる。けれど、分かっていて俺に近づいたのはあなたですよ、斉藤さん。いえ、おやぶん」
 もうたまらなかった。
 なんて言ったらいいのか、これで漸く許しがもらえたような、そんな気さえする。だったら、めちゃくちゃにしちまっても構わねえよな。そういうことで、いいんだな?
 身を屈め、ヤツの足を掬い上げて所謂、姫抱っこしてやる。ん、結構重いなこいつ。
「わわっ、お、おやぶんっ! 危ないです、自分で歩きますから!」
「いいから黙ってろ。一時もな、離れたくねえんだ」
 その俺の言葉に、ヤツは驚きの表情を一瞬浮かべ、顔を真っ赤にして首に手を回してくる。
 そしてそのままベッドの上へと降ろし、そのまま覆いかぶさるようにして額にキスする。
「んっ……あ、おやぶん……」
「かわいいなあ、お前はよ。なんでこんなにかわいいんだろうな」
 すると、龍宝ははにかんで頬を赤くし俺の首に手を回してくる。
「それ、鳴戸おやぶんにも言われたことがあります。やっぱり、親分はおやぶんですね。昔と変わらない、俺の、俺だけの愛おしい親分……」
 目の前にはなにかを期待したようなそんな高揚した様子の龍宝がいて、何だか生唾を飲み込んでしまう。こいつの色気って、すげえな。駄々洩れだよ。それもただの色気じゃねえ、フェロモンみたいなモンも一緒に溢れ出てとんでもねえことになってる。
 思わずコートを毟り取ってしまい、ベッドに押し倒してピチピチエロエロ服の隙間から手を入れて腹を撫でてしまう。手が、手が勝手に動く。動いちまう。
 ヤツの腹はすんげえあったかくて、しっとりしててきめ細かい所為か手に吸い付いてくるみたいな感覚がする。気持ちイイ肌。特別な極上モンだ。
 そのまま服をたくし上げていくと、露わになる白い肌と乳首。美味そうな色してやがる。乳輪と乳首がピンクって、男としてアリなのか? いや、全然俺はアリだけど。つか、寧ろそそられる。
「……脱がすぞ」
 こくんっと頷いたヤツのジェスチャーを合図のようにして拳銃ごと上半身に纏わりついているものすべてを取っ払う。

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