永遠は叶わない

 鳴戸は海が凪いだような静かな光を宿して龍宝を見つめている。そしてその中には優しさも詰まっていて、思わずまた瞳に涙を浮かせてしまうと自由になっている片手で目尻をごしごしっと些か乱暴な手つきで拭われ、目の前の顔が笑む。
「部屋、帰るか……」
「帰ったら……また、抱いてください。たくさん親分に抱かれて、別れたい。ちゃんと、お別れしたいです」
「ん、分かった」
 否定して欲しかった。別れなんか来ないと、ずっと想い続けているという言葉一つが欲しかったが、鳴戸は言わなかった。
 ということは、明日の朝で完全に鳴戸とは終わることになる。
 思わず俯くと、鳴戸はくいっと龍宝の腕を引き席を立った。エレベーターの中では無言で、どちらもなにも話そうとしなかった。ただひたすら沈黙が支配し、二人の間に壁を作る。
 部屋へと歩き、鳴戸が促してくれたので先に部屋へ入ると追って鳴戸も部屋へ入ってきた。龍宝はすぐさま後ろを振り向き、扉が閉まるのと同時くらいにばんっと音が立つくらい強く扉に鳴戸の身体を押しつけ、無理やりに唇を奪う。
 相変わらず熱い唇だ。その熱を味わうよう、角度を変えて何度も口づけるとすぐに鳴戸も乗って来てくれ、口づけの応酬になる。
 龍宝の息はもう既に上がっており、吐息を乱しながら必死になって鳴戸を感じようとぐりぐりと唇を鳴戸のモノに擦り付ける。テクニックもなにもなく、ただただ悲しみから逃れたい一心で貪っていると、頬に鳴戸の両手が宛がわれそっと離されてしまう。
「は、はあっ……ふ、ふ、は、はあ……おやぶんっ……」
「落ち着け。俺は逃げていかねえから、ちっと落ち着こうぜ」
「逃げていってしまうじゃないですか! イタリアに、数日後には帰ってしまうでしょう、俺を置いて!! 日本に置いて、行ってしまうじゃないですか!!」
「……龍宝」
 また、じんわりと瞳に涙が滲んでくる。それを振り切るよう、また鳴戸に口づけ無理やりに唇を押し付ける。
「ん、ん、おやぶん、鳴戸、鳴戸おやぶんっ……ん、ん、ふっ……ん、んんっ」
 キスの合間に、切なく鳴戸を呼んでみるとそっと頭に手が乗りさらさらと撫でられた。ふと我に返り、そっと唇を離すと頬を包んでいた鳴戸の親指が動き、龍宝の涙の滲んだ眼を優しい仕草で親指の腹で撫でてくれる。
「俺も、好かれたもんだよなあ。そっか、そんなに淋しいか。……龍宝、ごめんな。俺にはそれしか言えねえ。すまん、龍宝」
「謝罪が聞きたいわけじゃないっ……そんなの、聞きたくない! 明日の朝には、もう一生親分と逢えなくなってしまう。そんな俺の気持ちを考えてくださいと言っているんです! これっきりだなんて、酷すぎるっ……酷い、酷いっ……ひどい!」
「未だ時間はあるんだぜ。抱いてやる、ベッドに行くぞ」
 半分引き摺られるようにしてベッドへと連れて行かれ、まるで放られるようにして乗せられると覆いかぶさってきた鳴戸に早速、口づけを受ける。
「ん、んっ、おや、ぶんっ……! は、はあっ……」
「そんなに俺が恋しけりゃ、朝までならいくらだって抱いてやる。だから、もう泣くのは止めろ。お前の涙には弱ぇんだよ。泣かれると、どうしたらいいか困って仕方ねえ。見たくねえんだ、お前の泣き顔は。美人が台無しだ」
「おやぶん、親分っ……」
「だから、泣くなって。明日の朝までの夢を、二人で見ようぜ。龍宝、愛してる」
「俺も親分のことを愛しています。誰よりも何よりも、俺には親分だけです。ずっと、変わらない想いだと、確信が持てます。だから、俺のことを忘れないでください。頭の片隅でいいから、覚えておいてくれればいいんです。……行かないで、とは言いません。もう言わない……言わないから……」
 龍宝のその言葉は鳴戸の口の中へと消え、いつしか情熱的な愛撫によって夜の帳の中、幾度も果てては愛を囁き合い、夜を越えた二人だった。
 そして、その嵐が去ったのは明け方で身体は精も何もかも空っぽになり、性欲もすべて吐き出し、その身に倦怠感が宿る。
 龍宝はすっかりと力の抜けた身体を鳴戸に預け、まるで離さないとばかりに両手を身体に回してしがみついており、目を瞑りながら温かな肌の感触とにおいを愉しんでいた。
 別れの時が近づいている。
「おやぶん……世界って、どんなところですか?」
「そうさなあ、広いぜ。何もかもが広くって、楽しいところだな」
「……俺も、連れて行ってもらえませんか……?」
「え? ……なんだって?」
「いえ、俺も親分と同じファミリーに入って、一緒にイタリアへ行きたい。下っ端でもいい。なんでもいいから、俺も連れて行ってくれませんか」
「本気で言ってんのか、お前は。総長はどうする! 三代目は!!」
 鳴戸の滅多に聞かない大声に、思わず身を竦ませてしまう。他の誰に恫喝されようがまったく効かない龍宝だが、相手が鳴戸となればべつだ。
「俺が死んだことになった後、お前がすぐに出所してくることが分かってて俺は海外へ出たんだぞ! お前が居なくなったら総長には猪首しかいなくなっちまう。それじゃ困るんだ! 困るどころの騒ぎじゃねえ。お前、総長を見殺しにする気か!!」
「……親分に比べればあんな人、どうだっていい!! 本音はそれです!! 俺の親分はたった一人、あなただけなんですよ!? 生きてたって知った時、すぐに追いかけようと思いました。俺も、ファミリーに入れてください。親分が頼めば一発でしょう?」
「だめだ。お前、自分が何を言ってっか分かってんのか! 日本で総長を任せられるのはお前しかいねえんだぞ、それをっ……! 俺が何のために命張ったと思ってんだお前はっ!! いい加減にしろ!!」
 激しい鳴戸の怒りを感じ、思わずひくっとのどが鳴る。
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