愛の鳴るほうへ

 快楽に狂った情交が終わると、二人は無言で互いに背を向け、ベッドに寝転んでいた。会話も無く、冷えて固まったような時間だ。
 いたたまれなくなった龍宝がベッドを抜け出し、一歩踏み出したところでいきなり手首を掴まれ、ベッドへと引き戻されてしまう。
「っ……親分……?」
 そのまま押し倒された龍宝の唇に、鳴戸の唇が重なる。それを合図のようにして、先ほどと同じくまたしても情熱的な愛撫が始まる。
 思わず啼いてしまう龍宝だ。
「んっ……んうっ、ふっ……は、おやぶんっ! あ、待っ……!」
 首元に何度も口づけが落とされ、そして小さく舐め上げられるその僅かな快楽に溺れること数分。すっかりその気になった龍宝に、またしても熱の篭った口づけが鳴戸から施される。舌に鳴戸の舌が這い回り、唾液を啜られている間も、手は脇腹や胸を撫で続け龍宝をたまらない気持ちにさせる。
 身を捩って口づけを解くと、目の前には欲情を露わにした鳴戸の顔があり、またしても口づけてくる。
「んっんっ、ま、待って、待ってください、また……するんですか?」
「ああ、するな。なんだよ、お前はしたくねえのか」
 じわっと、身体の温度が上がった気がした。
 迷うことなく両腕を鳴戸の首へと巻きつけ、続きを強請る。
「はあっ……きて、ください。俺も未だ、足りない……全然、足りないです」
「イイコだ」
 すると鳴戸が少しだけ動き、顔を真正面に持って来て鼻と鼻と擦り合わせ、そのなんとも言えない甘い仕草につい、笑んでしまうと両頬にリップ音を立てて口づけられる。
「かわいいやつだよ、お前は」
 その後、しっかりと身体を貪られた龍宝だったが、今度こそ風呂に行こうとベッドから出ると、次は手首ではなく腕そのものを引かれベッドに逆戻りしてしまう。そして、待っているのは濃厚なキスだ。先ほどの情交で火照った身体に、また熱が灯ってしまうことを恐れた龍宝は懸命に身を捩る。
 だが、鳴戸の拘束は止まず頬を両手で包み込まれ、ぎゅうっと唇に鳴戸のそれが押し当たってくる。
「んんっ、んっんっ、んー!! おや、おや、ぶっ……もっ、んむ!!」
 止めてくれという言葉は口づけに呑まれてしまい、龍宝が息を上げる頃に漸く、自身を散々蹂躙した唇が離れてゆく。
「は、はっ……おやぶん、またですか。もう俺、限界っ……んんっ! んっん!」
 拒絶の言葉も唇で封じられ、その唇は何度吸われ舐められただろう乳首に移動し、ちゅっと吸い上げては柔く噛んでくる。
 もういい加減セックスは充分だ。
 そう言いたかった龍宝だが、どうやら未だ鳴戸はこの情交を続ける気らしい。絶倫並みだ。欲望に果てが無いのか何なのか、分からないままズルズルとまた快楽の海に投げ入れられ、どっぷりと大人のセックスというものを身体に叩き込まれた龍宝だった。
 その後、最後は今までになく濃厚な口づけを施されたところで、情熱を絵に描いたようなセックスは終わりを告げた。
 体力には些かの自信がある龍宝だったが、さすがに男同士の慣れない情交に身体が悲鳴を上げたのかひどく疲れを感じてしまい、ベッドに横たわると意識が混濁し、まるで泥のように眠りについてしまったのだった。

 だいぶ深く眠ってしまったようだ。
 目の前は明るく、朝日が昇っているのが分かったと同時になんと、鳴戸の腕枕で眠っていたことに今さらながら気づき、思わずじっと目の前の寝顔を見つめてしまう。
 龍宝はどちらかと言わずとも女顔だが、鳴戸は男らしく凛々しい顔つきをしており、今はその顔は緩みに緩んでどこか幼さを感じさせると思う。
 かなりぐっすり眠り込んでいる様子で、長い間見つめていると思うのだが鳴戸は起きずに健やかな寝息を立てている。
 そっと片手で頬を包み込み、顔を近づけて一つ、口づけを落とす。
 それを合図のようにして起こさないように腕の中から抜け出した龍宝は、今度こそベッドから起き出してバスルームに置きっぱなしになっていたスーツを取りに行く。
 その際、鳴戸が散々龍宝のナカにザーメンを吐いた所為でポタポタと白濁の雫がアナルから零れ出てくる。なんとも気持ちが悪い様だ。
 だが、身体も洗わぬままに服を見に着け鳴戸が未だ寝ていることを確認し、こそりと部屋から抜け出す。その間にも、下着にじわじわとザーメンが拡がっているのが分かりながらホテルから出て、タクシーを捕まえる。
 その後、自宅に帰りついた龍宝は玄関扉を潜って後ろ手に戸を閉め鍵をかけたところで急に、足から力が抜けてしまう。
 へたへたとその場に座り込み、頭を抱える。
 鳴戸と、朝までセックスしてしまった。改めてその事実を確認するようにスーツの後ろに手を回すと、若干だが尻の辺りが湿っている感覚がする。
 越えてはならない一線をとうとう越えてしまった。幸福と罪悪感、その二つの感情が綯い交ぜになり、頭の中がめちゃくちゃになる。
 暫く頭を抱えていたが、こうしていても仕方がないと勢いをつけて起き上がり、バスルームへと向かう。身体を清めなければ。
 自宅はいつもの自分の自宅で、どことなく安心すると思う。全裸になり、シャワーコックを捻り頭から熱い湯を浴びる。
 先ほど、この肌を鳴戸の手が這い回った。そして、アナルには未だザーメンが残っている。そのあからさまなセックスの名残りに、改めて顔を赤くしてしまう龍宝だ。
 散々強請り、自分から腰を振り、そしてイってしまった。自分の痴態を鳴戸に見られたと思うと死にたくなる。だが、抱かれた事実に蓋はできないしするつもりもない。
 シャワーを浴び終わり、身体の水分をバスタオルで拭き上げた後、軽く朝食を摂った龍宝は寝不足の身体を布団に横たえる。
 疲れた。
 今はただこの一言に尽きる。
 目を瞑るとすぐに暗闇がやってきて、意識はあっという間に眠りに沈んでいった。
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