君と結ばれる最終手段

 ホテルまでは三十分ほどで着いたがその間の会話は一切なく、ただ龍宝は無言で鳴戸を熱い眼で見つめ続け、周りの景色などまったく眼に入れずただただ一生逢えないと思っていた想い人に逢えた喜びに満ち溢れ、口には微笑を刷き色っぽい溜息を吐きながら運転する鳴戸を見る。
 鳴戸も、信号などで停まると龍宝の方を見て手を握ってきたり、手を伸ばして手の甲で頬を擦ってきたりといろいろな手を使って悦ばせてくれる。
 以前と変わらない、刑務所に入る前の鳴戸だ。
 死んでしまったと思っていて、それが生きていた。しかし、すっかり変わってしまったと思っていた鳴戸が、そのままの姿で自分の眼の前にいてくれる。そのことに感激し、また目尻を湿らせてしまう。
 すんっと鼻を啜ると、手が伸びてきてすりすりと頬を擦ってくれる。温かなその手をつい握ってしまうと、鳴戸がかすかに笑った。
「だから、泣くなって。まったく、本当にお前は俺のことになると泣き虫になるんだよなあ。普段は強気な美人のくせに」
「俺はどんな時だって、他人に涙は見せませんよ。親分にだけ……俺には、親分しかいません」
「総長がいるだろ、三代目が」
「親分がまた親分として戻ってきてくださるなら、俺はまた鳴戸組ナンバー2に戻るだけです。何も変わらない、あの頃のように……」
「龍宝……あのな」
「帰ってきて、ください……なんて、言えない。俺はどうしたら……」
「とにかくホテル入ろうぜ。こんな所でする話でもねえ」
 とっくに車はホテルの駐車場に停まっていて、エンジンも切れている。いつの間に着いたのだろう。鳴戸に夢中になり過ぎていて何も見えなくなっていた。以前も同じことがあったことを思い出す。何も変わっていない自分に、龍宝は自嘲気味に笑った。
 鳴戸だけが変わり、そして龍宝はいつまでもその場に置いてけぼりで迷子のままいつまでも、鳴戸を待っている。
 刑務所へ入る前と何も変わっていないその構図に、呆れを通り越して悲しくなる。
 拳銃の腕も上がった。腕っぷしも強くなった。鳴戸には見事に完敗したが、鳴戸がイレギュラーな存在で誰にも龍宝をねじ伏せることなどできなくなるくらいには強くもなったのだが、結局なにも変わっていない。
 思わずうなだれてしまうと、投げ出されていた手がそっと取られ優しく握られる。反射で顔を上げるとまず見えたのは大きな黒目が印象的な優しい色を宿した鳴戸の瞳で、まるで吸い込まれるように見つめてしまう。
「おやぶん……俺、おれは……」
「いい、なにも言うな。ちゃんと分かってる。ほら、車から降りるぞ。こうしてても埒が明かねえしな」
 まず鳴戸が運転席から降り、助手席のドアを開いてくる。そして、手を引かれたのでそのまま降りると、ぎゅっと一度強く抱かれるとすぐに離れてゆき、二重になっているホテルの出入口を潜ってしまう。
 慌てて追いかけ、共にエレベーターに乗り込む。他に人の姿はなく、龍宝は足元を眺めながら時を過ごした。
 七階で止まったエレベーターから降り、先を歩く鳴戸に続いてゆくと『703』という部屋の前で足が止まり、龍宝の手首を引き二人で部屋のドアを潜った。
 途端、様々な感情が弾け頭の中が真っ白に染まる。自分が一体今から何をしたいのか、何故か明白に分かってしまい、まるで縋りつくように鳴戸に抱きつきキスを強請る。すると、すぐにでも唇に吸いついてくるかと思いきや、興奮し切っている龍宝を宥めるように頭に手を置き、優しい仕草でゆっくりと頭を撫でてくる。そして、後ろの髪をさらさらと梳きゆったりと笑んだ。
「でっかくなったな。それに、ホントにキレーになった。立派な美人さんのできあがりだ。昔からお前は整った顔してたけど、凄みが増したな。キレーなもんだ。肌もつやっつやじゃねえか。未だまだ若いもんな、お前は」
「そんなことはどうでもいいでしょう。それよりもっと、違う、違うことをしたい。親分とでしかできないことを……」
「そう焦んなって。抱くのはいつでもできるんだからよ。なっ?」
 しかし龍宝は緩く首を横に何度も振る。
「時間が限られているのなら、たくさん親分に抱かれたい。もう二度と、俺のところに帰って来ない気なのであれば、数え切れないほど抱いてもらって忘れられないくらい、身体にも心にも親分を刻み付けて欲しい。そう思ってます。……戻らないのでしょう……?」
「龍宝……」
 涙腺が弱ってしまう。また瞳から涙が溢れ出て、頬を熱いものが伝いあごに雫を作ってぽたぽたと床に落ちる。
「もう二度と、戻られる気は無いのでしょう、親分は……だったら、っん!!」
 言葉は、鳴戸の口のナカに消えた。唇に優しい感触がして、至近距離には鳴戸の顔。そこで漸くキスされているのだと気づき、涙で濡れた瞳を閉じ口を大きく開いた。
 間髪入れずぬるりと鳴戸の舌が咥内へと入りまずは大きくナカを舐められ、舌の上に乗った唾液を啜られ、そのまま絡ませるようにして愛撫が始まる。
 先ほどキスはしたが、今度のキスはもっと深くそして熱かった。
 舌は痛いくらいに吸われ食まれて、歯列を丁寧になぞられ舌は上顎に移動しそこもくまなく舐めしゃぶられる。
 咥内を探られる快感に、身体が一気に熱くなりしっとりと肌が汗をかいてくるのが分かった。鳴戸の舌は相変わらず熱く、龍宝をトロトロに蕩かしてゆく。
 頬を包んでいる手に手を重ね合わせ、龍宝からも舌を伸ばして鳴戸のモノと絡ませ合うと更なる官能が襲いかかってきて、ますます身体が火照ってくる。
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