どうかその大好きな心臓を聴かせて

 手を合わせ、鳴戸といつまでも一緒に居られますようにといったお願いを心の中でお祈りして顔を上げると、ふと鳴戸と目が合いつい笑ってしまうと鳴戸も笑う。
「お前、なにお願いした?」
「それは、ナイショです。言ってしまったら叶わないでしょう? とても、大切なことをお願いしましたので」
「俺もナイショー! だが、お前関係だってことだけ言っとく。さ、杉の木回ろうぜ。これも縁起物ってな。一生一緒に居られる木、か。いいな、そういうの」
 ちょうど神社の中央にある杉の木の説明をもう一度読むと、どうやら時計回りでないと意味が無いらしい。一生というのは時を刻むもの。ということで、逆回りは厳禁なのだそうだ。そして、離れないように手はしっかりと繋ぐこと。一生のうち、その人だけと決めたのならその手を離してはならないというところから来ているらしい。
 いろいろ納得のいくことばかりが書いてあり、二人は顔を見合わせて戸惑いなく手袋を取って互いの手を取り、そして恋人繋ぎにして揃って歩き出す。
 龍宝は内側を、そして鳴戸が外側を歩くことになるがそれはそれで関係性が明確でいいと思う。そして一周を回り終わったが未だ鳴戸は歩き出そうとしている。
「あの、親分? もう一周回り終わりましたよ」
「違ぇって。今のは、俺たちの今の時間。んで、次に歩くのは来世また、お前と出会えてこうしてこういう仲になれるよう、来世の分まで歩く。お前も付き合え」
 その言葉に、龍宝は若干涙を滲ませながら鳴戸とともに歩く。その涙は間違いなく、歓喜の涙だ。
 その後、二人は四週ほどして漸く杉の木から離れ、お札などが売っている授与所に寄ることにし、そこであるものが龍宝の目についた。
「親分、鈴を買いませんか? なんか、縁結びの鈴だって。これを買って交換して持っているとこれも縁を結ぶということで縁起ものですよ。折角ここまで来たんだし、土産の一個くらい……」
「おう、これくれや。二つな」
 龍宝の強請りを最後まで聞くことなく、鳴戸は二つの鈴を持って祢宜さんに手渡している。
 すると、未だ年若そうな色白の祢宜さんは苦笑いして一つの鈴を鳴戸からそっと取り上げて、白色の水引がついた鈴を代わりに取り出した。
「これは、白と赤で一つという意味なんです。あなたたちは男性のようなので、二つとも白の方がよろしいかと。紅白で持ってらしてもよろしいのですが、紅をさすという言葉通り、女性の色ですので。特に決まりはないのですが、私が勝手にそう思ったまでです。お二人には、白がお似合いですよ」
 その言葉に鳴戸は嬉しそうに頷き、財布から一万円を取り出して祢宜さんに手渡している。
「兄ちゃん、ありがとよ。釣りは賽銭箱の中にでも突っ込んでおいてくれや。さ、龍宝受け取りな」
「ああ、こんなにいただいてしまって……」
 祢宜さんはかなり困っている様子だが、鳴戸は豪快に笑い龍宝の代わりに鈴を受け取ってその場を離れてしまった。
 その後を、慌ててついていく龍宝だ。
「お、おやぶん! あんな大金……! 悪いです、俺も払います」
「いいってことよ。それより、鈴の交換しようぜ。いい土産だ、こりゃ。財布の中にでも入れておくか。お前も入れろよ」
 そう言って鈴を差し出してくるので一度受け取り、天辺に白色の水引のついた鈴をもう一度鳴戸に返す形で渡すと、鳴戸から同じものが手渡されてくる。
 何だか、感動してしまうと思う。
 龍宝は鈴を手に取り目尻を濡らしてしまう。すると、その涙は鳴戸の親指が攫ってゆき、顔を上げるとそこには優しく笑んだ鳴戸が頬を手で包み込み、こんなことを言った。
「泣くんじゃねえ。泣かせたくて渡したわけじゃねえんだから。ほら、財布に入れろ。俺も入れるから。いいか、泣くんじゃねえぞ」
「はいっ……!」
 そして財布を取り出しそっと、中へと忍び込ませて暫く二人は神社内に設置してある休憩的な意味を含めてだろう、ベンチで休むことにする。
 その間、誰も人の姿は見えずやはりここは知る人ぞ知るという神社なのだと思い知る。
 ぼーっと空を眺めていると、急に鳴戸が辺りを見渡し始め、キョロキョロと落ち着かない様子だ。
「どうしました? 何か気になることでもあります?」
「いや、なんかいいにおいしねえ? すんげえ香ばしくって甘いにおいがする」
 言われてみると、確かになにか美味しいものの香りが漂ってきている。だが、こんな場所に民家があるとも思えず、二人して様子を窺っていると先ほどの祢宜さんが盆を持ってこちらに歩いてきてるのが目についた。
「おっ、さっきのおにーちゃんじゃねえか。どうしたんだろうな」
「さあ……?」
 祢宜さんはそのまま一直線に龍宝たちの元へと歩いてきて、こんがり黄金色に焼けた丸い鈴の形を模した菓子と、後は湯呑みの乗った盆をベンチに置き、頭を下げてきた。
「こちら、鈴生神社名物の鈴生り桃山というお菓子です。縁起物でして、こちらにいらした方に鈴生りになった福が訪れますようにと願いを込めて焼いておりますお菓子で、後はお茶もご用意いたしました。先ほど、余りあるお金をいただいてしまったのでそれのお礼のつもりです。よろしければどうぞ」
 そう言って一礼して去って行ってしまう後ろ姿を鳴戸と眺めた龍宝は、そのまま顔を見合わせて笑い合い、それぞれ鈴の頭の部分に紅白の水引の飾りがついた桃山を一つずつ手に持ち、遠慮なくいただくことにする。
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