だって愛し方しか知らないし

 さて、では出発だ。
 エンジンをかけ、ゆっくりとバイクを公道に乗せて走らせる。
 しかし、やはり寒いものは寒い。いくら厳重に防寒対策をしたとしても今は未だ二月の中旬。少し無謀だっただろうか。
 そんなことを考えていると、後ろから呑気な声が聞こえた。
「おう、バイクも悪くねえな。ちっと寒いけど気持ちイイ」
 その言葉に一気に喜びが増し、さらにスピードを上げて道を走る。
 龍宝たちが行こうとしている場所はかなり山の奥に入って行かなくてはならないらしく、初めは都会の喧騒の中を走っていたバイクもだんだんと閑散とした風景の中を走るようになり、そのうちに山道のような道へ出くわすと一気に景色も変わる。すれ違う車の量も段違いに少ない。
 木々に囲まれた細い道をひたすら走ると鳴戸が「おー! 絶景かな!」そう言って辺りを見渡している。
「親分、落ちないでくださいよ。くれぐれも気を付けて」
「お前も見てみろよ、周りをさ。いい景色だぜ」
 そうして走っているうち、赤とピンク色の幟が道の脇にはためくようになり、何かと思いよく見てみるとそこには『イチゴ狩り』と書いてある。
 鳴戸も見たのだろう、脇腹をぽんぽんと叩かれ「イチゴ狩りだってさ! 龍宝、イチゴ狩り!!」となんとも無邪気な声が聞こえてくる。
「寄りませんよ。今日の目的地はそこじゃありませんからね」
「帰りでいいじゃねえか。帰り寄ろうぜ! イチゴ食いてえ!!」
「……困った人です」
 しかし、目的地はもうすぐのはず。注意深く道を走りながら目印である鳥居を探す。すると、一際大きなカーブに出くわし、ゆっくりと道なりに走ってゆくと遠くの方で赤色が見える。
 何しろ風景は杉と檜のやりで、後は少しだけ雪が残っているくらいでとにかく色が乏しい。けれど、こんな風景を見ることも少ないのでテンションは上がる。
 空気もどこなく澄んでいるような気がする。
 だんだんと赤色に近づいてゆくと、それが龍宝の探していた鳥居だということが分かり、一直線にそのまま目的地へと走ってゆく。
 そして鳥居に近づきスピードを落とすと、向かって左側に鳥居があり、ずらっと上に向かって並んだそれは傾斜の激しい階段造りの上り坂を囲むようにして建っており、どうやらここが登り口らしい。
そして、木の看板も見えた。
 そこには『鈴生神社』と書いてあり、どうやらようやく目的地に到着したらしい。道を挟んで右側には小さいが駐車場が作ってある。
 龍宝がゆっくりとしたスピードで駐車場の隅へバイクを寄せて止めると、鳴戸がまず降りてヘルメットを脱ぎ、龍宝も降りてヘルメットを取ってから厳重に鍵をかけて改めて鳴戸に向き直る。
「親分、ここが俺の行きたかったところです。ここはね、知る人ぞ知る縁結びの神社でして……」
「御託はいいから行こうぜ。俺はイチゴ狩りがしてえ」
 つれない態度で歩いて行ってしまうその後ろ姿を追い、半分頬を膨らませながら共に鳥居に囲まれた階段を上り始める。
 多分だが、ここが女性客の言っていた『恋の道』と呼ばれる階段だろうと思われる。
 しかし、随分と急な階段だ。
 空気はさらに冷たさを増したようで、肌には冷気が当たり痛いほどだ。しかし、鳴戸は気にならないのか、辺りを見渡しては楽しそうに階段を上っている。
「しかし、いいねえ。森林浴って感じがするぜ。それに、鳥居ってのもいいな。こんなとこ、来たことねえ」
 その言葉に、龍宝も頷く。
「確かに、都会に住んでる俺たちにとってはかなり新鮮ですよね。空気もきれいで、気持ちイイ」
 すると、何を思ったかすっと、鳴戸から手が差し出されたので反射で握ると、ぎゅっと力強く握り返され、笑顔でこんなことを言ってきた。
「誰も、居ねえから」
 その言葉に、龍宝は両頬を赤く染めて頷き、薄っすらと笑みを刷きながら共に階段を上る。手袋越しなのに、何故温かく感じるのだろうか。不思議に思い、繋いでいる手を見てその眼を鳴戸に移した。
 そしてかなり大きな鳥居が現れると、どうやら終着らしい。『鈴生神社』と彫ってある社号標が立っている。
 随分とこじんまりしたそこはきれいに手入れされている神社で、灯篭が鈴の形をしていてなんとも愛らしく、目の前には太くて大きな杉の木があり、奥には拝殿左側には手水舎があって、向かって左にはお札などが売られている様子。
「着いたな。結構走らなかったか?」
「俺は特に……遠くへ行くときはもっと遠くまで行くので、さほどそんな風には感じませんでしたね。さ、おやぶん、まずは手水で口と手を清めましょう」
 先導して歩くと、すぐに鳴戸が追ってきて洒落た手水舎で手を洗って口を漱ぎ、そのまま拝殿へ行こうとするが、鳴戸はどうやら杉の木が気になるらしく、そちらへ歩いて行ってしまいその後を追うと、なにやら看板が立っている。
 そこには縁結びの参拝客目当てだろう、互いに手を繋いで杉の木を一週するとその一週は一生という意味を含めてずっと仲良く寄り添っていられると言ったことが書いてあり、それを見た後、徐に龍宝を見つめてくる。
 どうやら、興味があるらしい。
 だが、その前に拝殿でお参りしないことには始まらない。
「親分、お参りしてからですよ。俺も気になるんで、後からそれはやりましょう」
 すると途端、笑顔になった鳴戸と共に拝殿へ行き、二人揃って財布を取り出す。
 龍宝は五百円玉を投げ入れたが、鳴戸はなんと一万円を放り込んでいる。
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