閉じた瞼のきらめきを知る

 そして、早朝のこと。
 ぱっちりと眼が覚めたのは午前六時過ぎで、部屋の中は真冬の寒さで冷え切っており、龍宝はベッドから起き上がって歩いて給湯スイッチを押し、風呂場へと向かう。
 今日はバレンタイン当日。
 どんなことが待ち受けているのだろうか。楽しみでならない。
 シャワーで身体を清めつつ、昨晩のうちにルートを決めたがもう一度おさらいのつもりで確認しておかなければならない。それが終われば、朝食を食べた後、鳴戸を迎えにバイクで出発だ。
 何しろ今の季節、バイクは風が冷たくてしんどいがどうやらとても景色がいいらしいのだ。となると、やはり無理をしてでもバイクを飛ばして鳴戸に楽しんでもらいたい。その気持ちが強く、車の方が安全牌だと知りながらもやはり、バイクを選んでしまうのはバイク好きの性だろうか。
 軽く朝食を摂った後、地図を取り出してルートの再確認をして間違いが無いことが分かると、早速整容を済ませて皮のジャケットに皮のパンツ、そして皮でできたブーツを履きつけ早速、意気揚々と家を出る。
 久々にバイクでの遠出と、鳴戸との外出に心が躍って仕方がない。それに、昨日買って来た皮のジャケットを鳴戸に着せるのも楽しみだ。似合ってくれるだろうか。自分の眼に狂いが無いことを願いつつ、早速荷物を手に自宅を出る龍宝だった。
 外へ出ると朝の冷えた空気が頬に刺さり、些かこの先について不安になるが、もうバイクで出ると決めてしまっている。一度決めたことは曲げないのが龍宝流の考えだ。
 バイクに荷物を詰め、早速跨り出発だ。エンジンをかけ、そして道を走る。大丈夫だ、思ったよりも寒くはない。上機嫌でバイクを走らせる。
 そして、待ち合わせ場所である事務所に着く頃には午前九時ちょうど程の時間で、未だ鳴戸は着ていないのかキョロキョロと当たりを見渡すと、なんと事務所から出てきた。それも、スーツ姿で。
「おやぶん! おはようございます。事務所から出てくるなんて、もしかして昨日ここで寝ました?」
「おーう、おはようさん! いや、寝坊しそうだったからよ、ここ布団あるし風呂もあるから泊まっちまったよ。んで? お、珍しいなバイクで来るなんて。それにそのカッコ。うひょー! カッコイイー!! つかめちゃくちゃかわいいなお前! 驚いたぜ」
 鳴戸がニヤニヤ笑いながら「ヒューヒュー!」と囃し立ててくるそれに、若干怒りが湧きつい大声を出してしまう。
「ちゃ、茶化さないでください! なんですっ!! いえ、それよりも俺が持って来た服に着替えてください。今日はバイクで道のりは短いですが、ツーリングです」
「ツーリング!? この寒いのに!?」
 途端歪む、鳴戸の顔。だが、龍宝とて負けてはいない。
「四の五の言わず、着替えてください。きっといい場所ですから。いえ、俺も行ったことは無いんですけど、多分ですがいい場所かと。さ、手伝いますから着替えましょう」
「自分で着替えられるって! ガキじゃねえんだから!」
 然してその三十分後。しっかりと龍宝が手を貸し、皮のジャケットに袖を通しそしてぶ厚い手袋、そして龍宝と同じく皮のパンツを穿きつけた鳴戸のできあがりだ。
「どうだ? 似合ってるか? って、お前顔真っ赤だぞ」
「いえ、いえその……えと、想像以上に親分が……」
「俺が何だよ。そんなにおかしいか」
 龍宝は顔を背け、赤らめた顔を隠すようにしてそっぽを向き手で迫ってくる鳴戸を突っぱねる。
「似合い過ぎてて……めちゃくちゃ好みです……!! か、カッコイイ……!!」
「はははっ! だろっ? 俺はカッコイイんだ! そういうお前も、カッコイイぜ。なあ龍宝、こういう俺と、キスしたくねえ? そういえばおはようのキスが未だだった」
 それには賛同したい龍宝だが、どうにも今の鳴戸は眼のやりどころに困る。先ほども言葉に出した通り、何しろワイルドで皮がよく似合っていて素敵すぎるのだ。
 慌てて後ろを向くと、そのまま身体に腕が回りぎゅっと抱き寄せられてしまう。
「あっ、ちょ、お、おやぶんっ! ま、待って、待ってくださいってば!!」
「こっち向けよ、龍宝。ほらー、向けって。抱いちまうぞ、ここで。それがいやならこっち向きな」
「やっ……」
 後ろから腕が伸び、あごを捉えられてしまい首を思い切り捩じられる。その痛みに顔を歪めたところでふわっと、唇に真綿の感触が拡がり、後、温かくそして湿った感じもしてすぐにそれがキスだと気づくと、何となく応えてしまうのはこれは反射だろうか。
 鳴戸の腕の中で身じろぎ、正面を向きつつ抱き合い、そして見つめ合った後、ゆっくりと顔を近づけて口づけを交わす。
 言葉は発しなかったが、想いは充分に伝わる。
 恋していて、そして愛していると。
 龍宝も鳴戸の首に腕を回し、さらに引き寄せると背中に回っていた腕が腰に回り、ぐっと下半身を押し付けられ、その上での口づけに興奮が増す。
「ンん、んっんっ、は、はっ……ふっ、ん、んンッ……」
 何度も角度を変えて口づけ、そして口づけられ見つめ合っては笑ってまたキスをする。そのうちにだんだんと濃厚になってゆくそれ。
 龍宝が口を薄く開くと、まるで当然のようにして咥内に鳴戸の舌が入り込みナカを大きく舐められる。龍宝からも舐め返すと、今度は応酬になり柔く食んだり舌に乗った唾液を啜ったりと、散々互いの舌を愛撫してから徐に口づけが解かれる。
 その頃には二人の息も上がっていて、肩で息をしながらぎゅっと抱きしめ合う。
「……おやぶん、好き……」
「ん、俺も、お前が好きだ。大好きだぞ龍宝」
 背を優しく上下に擦られ、思わず甘い吐息をついてしまう。
 しかし、こうしていても埒が明かないので無言の了解で二人は身体を離し、そして名残り惜し気にもう一度、軽くキスして階下へと降りそして外へ出る。
「うー! さっび!! ホントにこんな中バイクで走んのか? お前は正気か?」
「正気ですよ、もちろんです。さ、とてもいいところらしいので早速出発しましょう」
 バイクへと向かい跨ると鳴戸も同じく、バイクを跨いで後ろに座り腹に手が回り準備万端だと教えてくれる。
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