レッド・ホワイト・レッド・レッド

 クリスマスイヴの今日。
 龍宝と鳴戸は恋人同士という関係になって初めてのその日を迎え、鳴戸が洒落たレストランを予約しておいてくれたので、夕食をそこでいただき、大満足でレストランを出ると今度はホテルのバーに誘われた。
 龍宝とて子どもではない。そのホテルといった場所の意味くらいは分かっている。それを承知で頷き、今は景色のいい窓際の席で向かい合って座り、シャンパンのボトルを開けたところだ。
「んじゃ、いっちょ乾杯でもすっか」
「そうですね。さっきのレストランでもしましたが、イヴですから何度したっていいものですよね」
 グラスをカチンと合わせ、ささやかに乾杯してシャンパンを味わいながらのどに通すと、胃の辺りが温かくなる。
 しかし、先ほどから気になっていることが一つあった。
 というのも、鳴戸らしからぬやたらと洒落た紙袋を手にしており、事務所で待ち合わせた時にそれを持ち出してきていて今もテーブルの上にそれが乗っかっている。
 如何にもクリスマスといった風体のその袋の中はクリスマスプレゼントだろうか。
 だとしたら、しまったと思う。なにも用意がしていない。まさか、鳴戸がクリスマスというイベントに興味を示すとも思っていなかったので、龍宝もスルーしようと思い何も買っていないのだ。
 どう言い訳しようか頭の中で考えていると、笑みを浮かべた鳴戸と目が合い、にかっと笑ってくれたので笑い返すと、上機嫌にシャンパンのグラスを傾けたのが眼に入った。
 これは、プレゼントを楽しみにしての笑みだろうか。これはいけない。なにも用意が無いと知ったらきっとガッカリするだろう。
 いざとなれば、どうせセックスに持ち込まれるのだから思い切りサービスしてやるというのも一つの手だ。
 これがクリスマスプレゼントです、なんて言えば不機嫌も上機嫌に変わるだろう。
 そんなことを考えていると徐に鳴戸が紙袋を持って席を立った。
「よお、今から……分かってんだろうな。ホテル、部屋取ってあるからよ。やっぱクリスマスイヴは外せねえよな」
「え、ええ、まあ……」
 やたらとイヴを強調してくると思う。これはやはり、かなり失敗したのではないか。
 冷や汗をかきながら鳴戸に続きバーを出て、エレベーターに乗り込む。
 鳴戸は『9』のボタンを押し、エレベーターはぐんぐん上がってゆく。そして9階に着くと、いい足取りで鳴戸が先立って歩き出し、その後ろをついてゆくと手招きされたのでそのままその部屋へと入る。
 灯りが付けられると、なんとも解放的な空間が広がっていて、いい部屋を取ったのだということが分かる。一体いつから予約したらこんな部屋が取れるのだろう。調度品一つとっても高級そうだ。
 それに見入っていると、後ろからぽんぽんと肩を叩かれ何気なく振り向くと、突然だった。
 紙袋を差し出して来たと思ったら、それを床に置きそしてがばっと土下座を始めたのだ。
「おっ、おやぶんっ!? どうしたんです、なんですかいきなりそんな、土下座なんて! や、止めてください、相手が間違っています!! 親分がそんなことをしてはいけません!!」
「龍宝!!」
 かなりの声量で呼ばれ、部屋中に響き渡るそれに耳が痛くなる。
 顔を顰め、耳の奥がキーンという音に塗れる中、鳴戸がずいっと紙袋を前に差し出してくる。
「今日はクリスマスイヴだな?」
「ええ、そうですけど……それが、なにか?」
「クリスマスというのは、サンタがプレゼントをくれる日だな?」
「まあ、子どもはそうでしょうね。大人はどうだか分かりませんが」
「龍宝、お前俺のサンタになるつもりはないか。サンタになって、この服を着て欲しい。一目見た時からこれだと思った、最高の品だ」
「え、洋服ですか? 嬉しいです!! 親分が選んだんですよねっ?」
 途端に上機嫌になる龍宝だ。なんだかんだと、鳴戸もなかなかのセンスの持ち主だ。きっと、素敵なものが入っているに違いない。
 満面の笑みで袋を受け取り、中身を見てみて絶句した。
「こ、これは……ど、どういうことですか……」
 なんと、中身は女性モノの下着で、ブラジャーにショーツそれにキャミソールといった三点盛りがひそっと袋の中に潜んでいる。
 恐る恐る持ち上げてみてみると、それらはすべて赤で統一してあり、赤色と白色といったまさしくクリスマス勝負下着といった雰囲気のそれはキャミソールまで真っ赤で、所々黒いラインと白色のリボンが目を引く、とても洒落たものだったがそれは明らかに女物だ。
 怒りで手がブルブルと震える。
「……おやぶん。これ、これが似合うと思って買ったんですか」
 その問いに、鳴戸は当然だと言わんばかりの勢いでそれはドヤ顔を発揮し、大きく頷いた。
「当たり前だろ。これ見た時、ピンと来たのよ。あ、これお前に似合いそうだなって。だから買ったんだけどな」
 問いかけの返答に、さらに怒りが募る。
「俺は、男ですよ? しかも、平均よりもかなり上背もありますし、筋肉もついています。そんな男が、こんなものが似合うと誰が思いますか」
「俺! 俺が思った!」
 まったく悪びれないその様子に、怒りを通り越して呆れてしまう。
「あのですね、親分。これは、女物です。これを着るのは女です。俺は、男。着れません」
「そこを何とかっ……! なっ、なあっ? いいだろ? これ着たお前が見てえ! 折角買ってきたのに!!」
 鳴戸は両手を合わせてまるで拝むようにして、龍宝を懇願の眼差しで見つめてくる。
 龍宝はそんな鳴戸を一瞥し、目線を袋の中に移した後、もう一度冷めた目で鳴戸を見る。
「そんな眼で見たって駄目なものはだめです。大体ですね、親分がこんな趣味の持ち主だと知った俺の幻滅を考えてください。男にこんな、女物の下着を着せようだなんて……悪趣味が過ぎます。俺は着ませんからね」
 つんっと横を向いて紙袋を鳴戸に押し付けたその瞬間だった。いきなり飛び掛かられ、あっという間もなく組み敷かれてしまい、目の前に鳴戸の顔があると思ったらすぐに唇に柔らかな感触が拡がり、キスされたのだと知る。
「ん、んー! んんんんっ、んんむ、んむんむ、ふっ、ふっ、ふっむっむっー!!」
 何とか顔を退かそうと手をバタつかせるが、今度は両手を取られてしまい自由を失ったそのまま、また口づけられ、何か暴言を吐こうと思い口を開くとするっと舌が入り込んできて、ナカを大きく舐められてしまい、身体がじんっと熱くなるのを感じた。
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