世紀末のクリスマスイヴ

 そして、肺に冷たい空気を溜めてそれをすべて言葉にして吐き出す。今まで怖くて聞きたくても聞けなかった、疑問。
「でも、言いたい。ちゃんと伝えたい。ずっとずっと、好きでした。そして今も、好きです。愛しているんです。多分きっと、あなたが俺を想うよりも、重いものだと思います。だから……重かったのかなって、思うんです。俺の気持ちが重たすぎて、いやになったのかなって」
 自嘲気味に笑うと、その拍子にぽたっと新たな涙がコンクリートに積もった雪に落ちては、新しい雪がその上を覆う。
 そっと鳴戸の腕を解いて、振り向くと雪に塗れた鳴戸が切なげな表情を浮かべて立っている。
「泣くなよ……」
「俺の愛は、やはり重いですか。あなたが逃げたくなるほど、重いものでしょうか」
 否定して欲しかった。違うと言って欲しい。
 すると、鳴戸はかすかに笑って涙で濡れた頬を両手で包み込んでくれる。
「そりゃ、ちっと重いかもな。けど、俺の愛も相当なモンだぜ。俺だって、お前のことを想ってるって忘れてねえか。誰だって、愛は重いモンだ。遊びなら軽くって風にだって攫われちまうところだろうが、俺もお前もそんな軽い気持ちじゃねえだろ。そんなん、お互い様ってやつよ。違うか」
「お互い、様……」
 小首を傾げ、鳴戸を見るとそこには柔らかな表情を浮かべながら龍宝を見つめている愛すべき人の姿があり、言われたことを漸くそこで消化できるとともに、新たな涙が頬を伝い、それらはすべて鳴戸の手の上に零れてゆく。
「俺……おやぶんのこと、好きでいてもいいんでしょうか……? あなたを、好きでいてもいい……? 親分の口から聞きたい。愛しても、いいですか? あなたを、愛していたい。いつまでも、ずっとずっと、好きでいたい」
「その答えはな、お前の家でとくと教えてやるよ。だから、今はこれだけ……」
 近づいてくる鳴戸の顔。そっと眼を閉じるとふわりっと唇に優しくて柔らかい感触が拡がる。
 そのキスは、初めて交わした口づけの時と同じくらい、気持ちよくて胸が高鳴るような、そんな感触がして、龍宝を夢見心地にさせる。
 触れるだけの口づけは何度も唇に落ちてきて、龍宝からも鳴戸に口づけると少し驚いた風だったが、すぐに立ち直って口づけてくる。
「ん……おやぶん、好き、好き、大好き……」
 口づけの合間を縫って告白を重ねながら薄目を開けると、そこには幸せそうな笑みを浮かべた鳴戸がおり、その背に腕を回してさらなるキスを強請る。
 雪が降っていようが、身体が熱いと思う。火照ってしまい、熱が出てしまいそうだ。それは鳴戸も同じらしく、触れている唇も最初は冷たかったが今では燃えてしまいそうに熱い。
 そっと唇を離し、上目遣いで鳴戸を見つめると目の前には満面の笑みが拡がっており、つられて龍宝も笑むと、ぎゅっと身体に腕が巻き付いてきてそのまま強い抱擁を受ける。
「さーて、お前んちへ帰ろうか。二人でさ」
「はいっ……!」
 手を繋ぎ、二人並んで歩き出す。吐く息は白かったが、心が温かい所為かまったく寒さを感じない。不思議なものだと思う。部屋で独りきりの時はあれだけ寒かったのに、今では雪の中でも暖かさを感じている。
 それもこれも、鳴戸が傍に居るからという理由に他ならないが。
 寄り添うようにして肩をくっ付け、マンションまで行き着き階段は狭かったので一人ずつ上がったが、部屋に着くなりいきなり熱い抱擁が待っていて、つい息を乱してしまう龍宝だ。
「んっ、あっ……おやぶんっ、いきなり」
「ずっと、この二週間……こうしたかった。ぎゅって、お前のこと抱きしめたかった。……いいにおいがする。お前はあったかいな」
 身体は冷え切っているはずだが。きっと、鳴戸は物理的なことを言っているのではなく精神的なことを指して言っているのだろう。龍宝だとて、温かいと思っているのだ。愛おしい温もりが、傍に居る。
「俺からも抱きしめ返したいです。おやぶん、少し離してください」
 靴を脱ぎ、鳴戸の腕を引くと同じく靴を脱いだ鳴戸が部屋に上がり込んできて二人は玄関で硬く抱き合い体温を分け合う。
「はあっ……親分から、冬のにおいがする。早く、親分のにおいにならないかな……」
「かわいいこと言いやがって。押し倒したくなるじゃねえの。煽るんじゃねえ」
「あ、そういえばこれを言っていませんでした。親分、メリークリスマス。プレゼントは用意してませんが……」
「いいさ、プレゼントはもうもらった。とびっきりの俺が一番うれしいプレゼントをな」
 それには首を傾げる龍宝だ。鳴戸にあげたものなど、記憶にない。そのまま黙って考え込んでいると、腕の中でくすくすと鳴戸が笑う。
「違うって。物じゃなくって、お前のな、気持ちをもらったから。俺が好きっていう気持ちをたくさんもらったから、それで充分だ。俺は嬉しいぜ。ありがとな、龍宝」
 その言葉と共に背を撫でられ、優しい仕草に涙がじんわりと滲んでくる。
「俺の方こそ、親分の気持ち……いただきました。ちゃんと、受け取りましたよ。俺が好きだって言う、言葉ももらって、幸せ者です、俺は。すっごく、嬉しい……」
 龍宝からもさらに抱擁をきつくすると、だんだんと鳴戸の身体が温まってきて二人分の体温が交じり合い、そして溶けあってゆくのが感じられる。
「そうだ、俺も言ってなかったわ。あれ? 言ってたっけ。龍宝」

 愛してる&メリークリスマス。

Fin.
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