時は愛なり

 店の外に出たところで、いきなり鳴戸に肩を抱かれ引き寄せられてしまうのに顔を赤くして、距離を取ろうとするとずいと詰めてきて耳元でこんなことを囁かれた。
「女相手の嫉妬はカッコ悪いぜ」
 その言葉に、ムッとしてしまい反攻的な言葉が口を突いて出る。
「焦らした親分が悪いんでしょう。……それに、嫉妬じゃありません。そんな真似しません。ただ……俺の愉しみを、親分との時間を少しでも多く取りたかった……」
 言葉の最後は尻すぼみになり、つい長い睫毛を伏せてしまうとちゅっと頬に唇が押し当たる。
「っおやぶん!! ここは外です!!」
「やーっぱ、お前ってかわいいわ。ソノ気になってきやがったぜ。早くホテルだな、こりゃ。抱きてえ」
「だからここは外だとっ!」
 すると今度は片手で顔を引き寄せられ、ちゅっと唇にキスが落とされる。
「外だろうが中だろうが関係ねえな。お前のかわいさは時と場所すら選べねえほど上等だぜ」
 もはや言葉も出ない。
 龍宝は顔を真っ赤にしながら、スーツの背に手を回し後ろに引く。
「おやぶんはっ!!」
「さっさとホテル行こうぜ。散々かわいがってやっからよ」
 なんとなく絡み合いながら下っ端の待つ車へと乗り込み、てっきりそこで行き先はホテルと伝えるものだと思っていたが、鳴戸は組の息のかかったバーへ向かえと言いつけてしまい、困惑していると徐に透明な四角いチャームのついた鍵を手渡された。
「先にホテル入ってな。俺はもう一軒ハシゴしてから向かう」
「一緒に行かないんですか? 俺はべつに」
「これも用心のためよ。いつどこで、誰が見てるか分からねえからな。特に敵対組織なんかに見られると厄介だし、愚図るなよ。すぐに行くから」
 そう言われてしまえばその通りで、しぶしぶ頷くとずいと鳴戸が近づいてきて口づけされる。
「イイコで待ってろよ」
「はい。あの、絶対に来てくれますよね……?」
「行くからー。なんだよ、不安か?」
「そういうんじゃ、ないですけど。いいです、先にホテルに行って待ってます。あの、なるべく、早く来てください」
 すると頭を優しく撫でられ、後ろ髪を梳かれる。
「お前が独りで始めちゃわないうちに、向かうわ」
「おやぶんっ!! しません、そんなことっ!!」
「おっと、じゃあ先にホテルに向かわせるか。お前先に降ろして、またUターンして戻るからよ」
 下っ端には行き先をホテルにと言い直し、後部座席に座っている龍宝の肩にさりげなく腕を回し、ちらりと隣を見ると気分良く鼻歌なんてうたっている鳴戸がいる。
 運転している下っ端はいるが、今この時間の鳴戸は龍宝のもの。思わずはにかんでしまうと、むにゅっと頬を抓まれてしまった。
「はは、抓み甲斐のねえほっぺしてんな。ちゃんと食ってるか? かわいいツラして、にやけるんじゃねえの。いじり倒したくなるだろ」
「は、離してくださいっ! 俺はおもちゃじゃないんですよ。その……少し、嬉しいですけど」
「んじゃ、こうすればお前は喜ぶか?」
 近づいてくる鳴戸の顔。今は二人だけではないのだ。運転している下っ端がいる。だが、鳴戸は構わず迫ってきてもう少しで触れ合うところまで来たところで運転手をしていた下っ端の大声が車内に響き渡る。
「つ、着きましたー! 到着です!!」
 どうやら、彼には刺激が強すぎたらしい。それはそうだろう、新鮮組のカシラである鳴戸と、一の子分である龍宝がそういった仲というのは下っ端にとっては信じたくない事実であろうと思われる。
「じゃ、じゃあ親分、俺はここで降ります。あの、必ず来てくださいね。……待ってます、首を長くして」
「おーう。じゃあな、俺は未だ飲み足りねえや。すぐ行くから」
 ドアを開け、身を乗り出しかけたところで急に腕を引かれ、バランスを崩して車内へ逆戻りすると、驚く間もなく素早く口づけられてしまい、顔を真っ赤にして腕を振り解く。
「お、おやぶんっ!!」
「じゃあな、イイコで俺のこと待ってろよ!」
 今度こそ車から降りた龍宝は、鳴戸の乗った車が消えるまで見送り改めて渡されたホテルのキーを見てみるとチャームの部分に金色の文字で『603』と印字してあるのを確認し、先ほど奪われた唇の感触を思い出しながらホテルの自動ドアであるスリガラスを潜った。
 フロントを通す必要がないのでそのままエレベーターに乗り込み六階を目指す。エレベーター内は外が見渡せるようになっており、光の粒が何万、何百万と見える。そこではいろいろな物語が繰り広げられているのだろう。
 このエレベーターも、きっと向こうから見ればとても小さな光にしか見えない。
 六階へは一度も止まらずに行き着くことができ『603』号室を探すとどうやら向かって左側にあるらしい。案内プレートが下がっている。
 すぐに部屋には辿り着くことができた。このまま服を脱いで鳴戸を待ってもいいが、なんとなく熱い湯をかぶりたい気分だったので、そのままバスルームへと足を運ばせる。
 スーツを脱ぎ、全裸になるとふと、内股に何かくすんだ赤いものをいくつか見つけた。虫にでも刺されたかとよく見てみると、それは鬱血痕が薄れているものだと気づき顔を赤らめてしまう。
 鳴戸はどうにも龍宝に痕を残したがる節がある。他の女にはどうなのかは分からないが、一度抱き合うとその晩は、鬱血痕だらけにされて家に帰り驚くことが多い。というよりも、毎回抱き合うごとに数が増えていくものだから龍宝もそれに対して何か物申そうとも思ったが、止めておいた。
 これがマーキングなのだとすれば、龍宝は鳴戸のモノだといったそういう意味合いで付けたものになる。
 だとすれば、それは喜ばしいことに他ならない。
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