回る春

 するとまるで宥めるようにさらさらと頭を撫でられ、ぎゅっと上半身を抱え込まれてしまう。
「怖くない。な? 信じられねえか、俺が」
「そ、そんなんじゃない! そうじゃ、無くて……いえ、怖いのかもしれません。また捨てられてしまうのが恐ろしいのかも、そう思います」
「随分と信用無くしちまったな、俺も。自業自得ってやつか。でもな、この二ヶ月間いろいろ考えてたんだぜ。けど、やっぱりなんか違うと思うんだよ。龍宝、お前の代わりは誰にもなれなかった。そこで思い至ったわけよ。お前への気持ちってやつに」
「俺への、気持ち……?」
 鳴戸は大きく頷き、一旦龍宝から離れその場にしゃがみ込み目線を合わせながらブランケットを掴んでいる龍宝の片手を握り、上下に揺すってくる。
「龍宝ー? なあ、そんなにへそ曲げんなよ。ほら、いいからベッド行こうぜ。そこでとくと、思い知るがいいさ、俺のお前への想いってやつ。立てって、イイコだから。な?」
 くいくいと握られている手を解いた龍宝は、目の前で優しい笑みを浮かべる鳴戸に倒れ掛かるようにしてがばっと抱きつく。そして、首に腕を回しぎゅっとしがみついた。
「抱いて、ください……親分の気持ちを、もっと知りたい……」
「よし、じゃあ今度こそ本格的にベッド行きだ」
 誘導されるよう、手を引かれてベッドまで行くとそっと縁へと座らされ、頬を両手で包まれたと思ったら、覆いかぶさるようにして鳴戸から口づけが降ってくる。
 優しいそれに、うっとりと感じ入っていると今度は角度を変えてもう一度触れてくる。わざと誘うように口を開くと、ぬるっと鳴戸の舌が咥内へ入ってきて龍宝からも積極的に舌を使って絡めつつ、鳴戸の舌に乗った唾液をぢゅっと音を立てて吸って飲み下す。
 するとのど奥から鳴戸の味がふわっとかおり、あまりの心地よさに何度も繰り返してしまうと、それはいけなかったのか今度は龍宝が同じ目に遭い、散々唾液を持っていかれふっと唇が離れる。
「おやぶん……」
「お前は本当に、かわいいなあ。こりゃ惚れちまうよな。誰だって惚れちまうくらい、キレーだよ」
「い、いやです。からかわないでください」
「からかってはいねえよ。真実を述べたの、俺は。ほい、もうちょっとキス」
「ん……」
 ちゅっと音を立てて吸い付かれ、またしても唾液を持って行かれてしまい、からからに乾いた舌を丁寧に舐められ、柔く噛まれると緩やかな官能がやって来る。
 思わず口づけの合間に「はぁっ……」と吐息をついてしまうと、それごと奪うように唇を塞がれ、濃厚なものを迫られる。
 久々の鳴戸の激しさに、すっかりとやられてしまう龍宝だ。
 やはり、鳴戸と交わすキスは気持ちがイイと思う。鳴戸が上手い所為もあるのだろうが、相手が鳴戸だというだけでもう、龍宝には充分過ぎるほどの幸せをもらっていると思う。
 腕を鳴戸の首に巻きつけ、結ってある髪に指を通して梳きつつ交わす口づけの味は甘く龍宝を溶かしてゆく。
 ふとした拍子に口づけが解け、二人は少し離れて至近距離で見つめ合う。
 相変わらず、凛々しく男らしい顔だと思う。思わず片手で頬を包むと、その顔がゆっくりと緩み手が重ね合わされ、取られたと思ったら指に吸い付かれ、キスを置いて唇が離れる。
 そして、ゆっくりとした仕草でベッドに押し倒され身体がシーツに沈むと、追うように覆いかぶさられ鳴戸の手が龍宝のネクタイにかかる。龍宝も同じく鳴戸のネクタイに手をかけ、するりと解いた。
 ボタンを三つほど外すと、大きな喉仏が露わになり思わず指でつつうっと辿ってしまう。すると、なぞったのどが大きく上下した。なんとなく、そそられると思う。
 一方ボタンをすべて外されてしまった龍宝の肌に、鳴戸の手が這い回る。その官能的な触れ合いに、龍宝ものどを鳴らしてしまう。
 そして、鳴戸の背に手を伸ばして強請りの言葉を口にする。もはや、逃げようなどとは微塵も思わない。
 これから始まる情交はやはり、激しいものなのだろうか。鳴戸の激しさは好きだ。求められている感じが強くて、心が満たされる。
「おやぶん……好きに、抱いてくださいね……」
 返事は情熱的とも呼べる愛撫によって誤魔化され、ずぶずぶと鳴戸の手によって快楽の海へと沈まされてしまう龍宝だった。
 嵐のようなセックスは長々と続き、延々啼き続けた龍宝はベッドに沈みながらいつこの部屋から出て行こうか考えていた。ああ言っていた鳴戸だが、本当に想っていてくれるのだろうか。
 そう思うと怖くなる。
 思わずベッドから出てしまおうと掛け布団を捲ったところで腕を引き寄せられて、強引にベッドの中へと引き摺り込まれる。
「っ親分!」
 また、セックスが始まるのかと半分諦めの気持ちを抱いていると鳴戸は身体よりも龍宝の唇を取り、まるでベッドから抜け出したことを咎めるように唇を少しだけ、強く噛まれその後、濃厚なものを強いてくる。
 そのまま押し倒され、何度も何度も深いキスを受けもはや腰砕けになってしまう龍宝だ。
 そうしたところで徐に唇が離れてゆき、額と額がくっ付けられ至近距離で真剣な表情を浮かべた鳴戸に思わず黙ってしまうと、ゆるりと目の前の顔が緩む。
「今日で出て行くのは終いだ。これからは、朝までずっと一緒にいようぜ。ずっとずっと、一緒だ」
「……いいんですか……? 俺の想いを、受け止めてくれると、そう思っても……?」
「俺もお前を愛しく思ってんだから仕方ねえだろ。まったく、いつ折れてくれるか待ってたのにお前の強情は筋金入りでまいるぜ」
「親分っ……! 俺も、親分を愛おしく思っています。慕うだなんて、そんな言葉じゃ生温い。好きです、愛しています」
「よし、意地っ張りのお前からそれだけ聞けりゃ上等だ。俺も、お前を大切に思ってるぜ。いや、大切なんて逃げか。……愛してるぜ、龍宝」
「親分……」
 感激のあまり、龍宝の目尻が湿る頃、夜明け前のかすかな春の陽のような光が、部屋のカーテンの隙間から緩やかに辺りを照らしていた。
 明日からの、二人のように。

Fin.
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