I miss you
どう頑張っても、鳴戸には釣り合わない。そう思ってしまう。あの優しくて温かい腕の中は、龍宝には勿体無い。誰か他の人間に譲った方がと考えると腸が煮えくり返りそうになる。それが悲しく、両手で顔を覆い、しゃっくり上げるとバタンと大きな扉の開閉音がした後、ペタペタといった足音が近づいてきたと思ったら、がしっと掛け布団が掴まれ、そのままするすると捲られてしまい、慌てて身体を丸めて鳴戸に背を向ける。
「どうだ。ちったあ眼が覚めたか。俺は覚めたぜ。……こっち向けよ龍宝」
しかし、どうしても振り向けず全裸の身体をますます丸めると、後ろで大きな溜息が聞こえ、後、ぎしっといった音と共に鳴戸がベッドへと乗り上がってきて、肩に手が乗るがその手は熱いどころか冷たすぎて思わず身体を跳ねさせてしまう。
「冷たっ!! おや、おやぶん!? いま風呂に入ってきたんじゃ……身体が冷たすぎますよ!」
「入ったよ? けど、被ってたのは水。いい加減本気で目を覚まさなくちゃならねえって思って、水浴びてた」
「そんなっ……身体を壊します! いけません、入り直して」
「あっためてくれねえの? お前身体ホカホカしてんじゃん。あっためてくれよ。さっき言ってたじゃねえか、あっためてくれるって」
「それは……」
「こっち向いて、あっためてくれよ。寒くて仕方ねえ」
もうここは、腹の括り時かもしれない。これで鳴戸が離れていってしまうのならば、仕方のないこと。全力でぶつかって、受け止め切れないと鳴戸が言えばもはやそれまでだ。
縮こまっていた身体の力を抜き、足を延ばして身体を起こし、そして全裸を鳴戸に晒し大きく手を拡げる。
「来てください、おやぶん。あなたのことは、俺が温めます」
鳴戸の眼は龍宝の身体に釘付けで、ペニスもしっかり晒されていれば長い足に生えているすね毛も見えているだろう。そして膨らみの無い胸も、筋肉がしっかりついているがっしりとした身体のそこかしこも今ならば丸見えだ。
「寒いんでしょう? 来ていいんですよ。それとも、やはりいやですか、こんな身体じゃ。あなたを満たすに足りませんか。……無理なら無理で、仕方がありませんが。嫌悪するなら、服を着ます。けれど……このままでいいと言ってくださるのであれば、俺は服も着ずにあなたを温めるつもりでいます。来て、くれませんか」
すると、鳴戸はまるで夢遊病者のようにゆっくりと龍宝に覆いかぶさり、冷たい身体を押しつけるようにして背に腕を回してくる。
「龍宝……なんだよお前、キレーな身体してんじゃねえの。なんにも引け目なんて感じることもねえ、すっげえキレーじゃねえか。何をそんなにいやがってたか知らねえけど、俺は好きだぜ、お前の身体。べつに、乳が無かろうがチンポがついていようが毛があろうが無かろうが、俺はんなこと構わねえ。あんまりに拘るからそんなに見苦しいのかと思ったら……すっげえキレーで見惚れちまった。んだよ、驚かせやがって」
「で、でもっ……身体、硬いでしょう? もっと親分のことを優しく包み込んであげたいのに、それはどうやっても叶わない。他のことに関してもそうです。たくさんの気持ちイイことをしてあげたいのに、男の俺じゃどうやっても無理で……歯痒い。悔しいです」
そっと鳴戸の背に腕を回し、龍宝からも抱きつくとその身体がどれだけ冷えているかよく分かる。このままでは風邪を引いてしまう。
思い切って鳴戸の身体を押し倒し、捲られた掛け布団を背負いながら冷たい身体に覆いかぶさり、手を這わせて熱を与えてゆく。
すると、鳴戸の手も龍宝の肌を這い始め、冷たいその手は尻を鷲掴んで揉み倒してくる。
「こんないいモンもちゃんと持ってるじゃねえか。たくさんの気持ちイイことよりもな、俺はお前を抱くと満たされるんだよな。かわいく啼くお前とかさ、見てるとすんげえ幸せな気分になる。べつに、抱いてる身体が女じゃなくたって俺は構わねえよ。お前がさ、オマエでいてくれることの方が余程、大切なんだよ、俺にとっては、だけどな」
「おやぶん……」
さらに力を籠めて抱き込まれると、まるで激情を吐き出すように鳴戸が大声を出す。
「好きなんだよ、お前が! すっげえ好きで、愛してるのにお前が隠すからっ……! 隠して何も、見せてくんねえから、俺は俺じゃだめなのかって、思ったりもするし。かと思えばふとした瞬間に、幸せそうに笑ってくれたり。訳が分からねえ。お前は、本当は誰が好きなんだ?」
妙な質問だと思う。誰が好きかといえば、鳴戸しかいない。鳴戸しか、好きではないのだから。
「あなたが……親分が、恋しい……。けれど、そう思えば思うほど理想の俺からかけ離れてゆく気がするんです。あなたに好かれたい。でも、どうしていいか分からない。傍で笑っていたいけど、それすらおこがましく思える時があって……」
「それはだな、言ってるけど」
「恋しい、親分が恋しい、愛しい」
じんわりと瞳に涙が盛ってくる。それは重力に従って鳴戸の身体にポタポタと落ちる。
「……愛しています、おやぶん、あなたを。このままの俺を受け入れてくださる気があるなら、抱いてください。愛してるんです」
「龍宝……いいのか、んなこと言われると抱いちまうぞ。今日の俺に手加減はできねえこと分かってて言ってんのか」
こくんと頷いた拍子に、目尻に溜まっていた涙が落ちそれを指先で拭いそのまま指先を鳴戸の肌に這わせる。