Wish

 舌を柔らかく何度も食まれ、食むたびに優しく舐められそしてまた食む。そのたびにじんっと快感が湧き上がってきて、それを知ってか知らずか飽きるほどにとことん食まれ責めをされ、いい加減舌が痛くなる頃に漸く、上顎へ移ってゆき、そこでも丁寧に舐めしゃぶられ舌の下までしっかりと嬲られるとちゅっ……と音を立ててゆっくりと唇が離れてゆく。
「ん、はあっ、はあっはっ、はあっ……は、は、おやぶん、ひど……ひどい」
「どこがひどいんだよ。気持ちよさそうに蕩けたツラしてるぜ。ほっぺが真っ赤だ。良かったんだろうが」
「そ、そんな、ことは……あ、ありますけどでもっ、でも……やっぱり俺には、無理です」
「何が。これがか?」
 言うなり、いきなり足の間に鳴戸の足が挟まり、すね毛同士が擦れ合ってずりずりと音が立つ。途端、羞恥が襲いかかってきて何とか鳴戸の下から這い出ようとするが、さらに足を動かされ、今度はペニスに鳴戸の足が当たり、身体が勝手にビグッと跳ねてしまう。
「あっ! うあっ!! やっ……いやだっ!!」
「お前はこれがいやなのか? だから無理だってのか。仕方ねえだろ、お前は男なんだから。それを嘆いたって始まらんぜ。それに、俺は別に何とも思ってねえよ。お前が勝手に拘ってるだけで、俺は少しも気にしちゃいねえ。何がそんなにいやなんだよ」
 それには、龍宝も黙るしかない。
 暫く膠着状態が続き、沈黙は龍宝から破った。
「き、気持ち悪くないんですか。……い、今さらですけどいやじゃないと本当に言えますか。俺の裸……み、見苦しいでしょう。あなたが抱いているのはコレですよ? こんな身体……抱いても、なにも面白くない……」
「……どうやら、また叩かれてえみてえだな。今度は平手なんかじゃねえぞ。拳で思いっ切り殴ってやりたいが、どっちのほっぺたがいい? 選ばせてやる。さあ、どっちだ」
「おやぶん……?」
 じんわりと瞳に涙が盛ってくる。もはや、自分がどうしたいのか、鳴戸にどうして欲しいのかもよく分からなくなってきている。ただ思うことは、きらわれたくないの一心だったが何故、怒らせるようなことしか言えないのだろうか。自己嫌悪に陥る龍宝だ。
 そのまま押し黙って静かに泣いていると、そっと両手で頬を包み込まれ、優しいキスが降ってくる。
「お前はなー……ホントばかな野郎だよ。ばかだ、ばか野郎だ。けど、そういうところも、好きなんだよなあ……呆れるぜ。どれだけオマエ、自分を卑下すりゃ気が済むの。そんで、俺はどこまでそれのフォローに回らなきゃいけねえの。もう飽きたぜ、このやり取りは。俺は、お前が好き。それで何が悪いってのよ。何が気に入らねえ? 愛してるって、百回くらい言えばお前は笑うのか。そろそろ笑顔、見せてくれてもいいんじゃねえ? 俺は見たいぜ、泣き顔じゃなくて俺の大好きなお前の笑顔が、見てえ。心底に見てえ。これだけじゃ、不安なのか、それとも不満なのか。教えてくれねえ?」
「それは……親分の心に聞いてください」
「ん、分かった。そういうことな。……って、ざけんじゃねえぞ!!」
 怒号と共に、思い切り平手で右頬を引っ叩かれ、勢いがつきすぎて首が大きく傾ぎもげそうになる。後、じんじんとした鋭い痛みが襲いかかってきて思わず顔を顰めてしまう。
「おや、ぶん……?」
 頬に手を当てるとすぐに熱持ったそこは熱く、手のひらがすぐに熱持つようになる。
「お前はそこで、暫く頭冷やしてろ! 俺は風呂に入る。言っとくが、ついてくんなよ。一旦独りになって、考えてみやがれ。これから俺とどうしていきたいか、自分の中で答え見つけとけ。分かったな」
 鳴戸は龍宝の返事を聞く前にさっさとベッドから出て行ってしまい、すぐにでも水音が聞こえ始める。
 張られた頬は時間が経つにつれてだんだんと腫れてきて、その痛みに耐えながら鳴戸のことを考えていた。
 するとすぐにでも涙が瞳に盛り上がってきて、ぐすぐすと鼻を啜り泣きながら今後を思う。
 怒らせてはいけない人を怒らせてしまった。もう、何を言っても許してくれないかもしれない。そういう人を、心底から怒らせてしまい、後悔で心がいっぱいになる。
 何とか許してもらえそうな言葉を探すが、それは龍宝の中には無く、ただただ鳴戸を想う気持ちが心に溢れ、それは涙となって零れ落ちシーツを濡らしてゆく。
 愛の溢れるなにかを言いたいが、今は悲しみと恋しさが邪魔をして上手くいい言葉が見つからない。いずれ鳴戸は風呂から上がる。そうした時、何を言っていいか分からないのだ。
 どんなことを言えば、自分の気持ちが伝わるのだろう。龍宝が何を思って、鳴戸の傍に居るのか、伝えたいがなんとなく、今では無理な気がするのだ。
 鳴戸の気持ちは十二分に伝わってくるのに、何故自分だけはこうなのだろうと自分で自分がいやになると思う。あれだけ鳴戸に言わせておきながら、あんな言葉しか出なかった自分を殴ってやりたい。鳴戸には頬を張られたが。
 もっとなにか、言葉があったはず。けれど、上手く言い出せなかった自分に非があることは分かっている。だから鳴戸は怒ったのだ。
 鳴戸を愛している気持ちに偽りはないのに、何故か言い出せない。言葉が見つからない。それが余計に龍宝を焦らせる。女になりたいわけではないのに、男の自分では自信がない。このジレンマはなんだろうか。いつだって好かれる自分で在りたいと思えど、こうして話し合えば怒らせてばかり。鳴戸にはいつだって笑って傍に居て欲しい。けれど、ああやって怒ってばかりいるところを見ると、やはり無理なのではないだろうかと思えてきてしまう。
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