愛に飢えた獣

 だが、だんだんと我に返るにつれ外が吹雪いていることを思い出し、コートも羽織らずそのまま革靴を突っかけて外へと駆け出る。
 鳴戸がどこまで行ってしまったのかは分からないが、とにかく追いかけなければ。完全に手遅れになる前に、何とか関係の修復をせねばならない。
 半泣きで白い息を吐き出し、階段を駆け下りる。冷気で肺が痛い。こんな中、鳴戸は出て行ってしまったのか。
 言えばよかった。本当の言葉で伝えれば、鳴戸はきっと出て行かなかっただろう。もしかしたら、優しくキスしてくれたかもしれない。龍宝の考えていることは杞憂だと、そう言って抱きしめてくれたかもしれないと思うと、涙まで滲んでくる。
 あの力強く温かい腕の中が恋しかった。あの中にいれば、何も心配せずにずっと、幸福でいられたのに、変な意地とプライドでなにもかもを無くしてしまった。
 未だ間に合うのであれば、今度こそなにも取り逃したりしない。素の自分を見てもらって、そして知ってもらってその上で拒否されるのであれば、それは仕方のないことだ。
 けれど、いま別れるのは間違っている気がする。なんの後悔も無いのであれば、追いかけることなどしないが龍宝は未練タラタラだ。
 あの腕の中に帰りたい。抱きしめて欲しいし抱きしめたい。キスをしたいし、キスして欲しい。明るいところで鳴戸の顔を見て、身体を見て抱かれたい。あの熱が恋しい。
 何者にも代えがたい、優しいあの笑顔が今すぐに見たい。頬を両手で包み込んで、何も心配いらないと言って欲しい。
 間に合うのであれば。
 階段を下り終わり、辺りを見渡すが視界が利かず辺りは一面雪景色だ。鳴戸はどちらへ向かったのか。取りあえず、通りへ出ることにする。
 道路にも雪が降り積もり、足元が滑る。何度も転びそうになりながら、夢中で道を駆け走る。そして、通りへ出ると次も選択を迫られ当たりをつけて左に曲がりそのまま全速力で走っていると、薄ぼんやりと何かが動いている。
 それが鳴戸のトレンチコートの裾だと分かった途端、自分でも驚くくらいの大声が出た。
「鳴戸おやぶんっ!!」
 だが、鳴戸は振り向かずそのまま歩を進めてしまう。そのまま距離を詰めるように走ってその背にぶつかるようにして両手を回し、抱きつく。
 息が切れて仕方がない。
 腕の中の鳴戸の身体は冷たく、まるで死んでいるようだ。
「はあっ、はあっ……親分、待って、待ってください。話は未だ、終わってないでしょう……?」
 すんっと鼻を啜り、背中に擦り寄ると漸く、足を止めてくれたが振り返ってはくれない。
「おやぶんっ……! 聞いていますか。俺の家に行きましょう。身体が冷え過ぎてる。このままじゃ死んじまいますよ。温かい風呂にでも入って……」
「余計なお世話だ。俺たちはもう、終わったろ? 話すことなんて何もねえ。離しな、龍宝。もう終わりだ」
 その言葉に、龍宝は必死で首を横に振り拒絶を訴える。
「いやだっ……いやです、お別れなんていやだっ! 未だ、俺は親分を愛してる! 好きなんです。だから、待ってください。俺に、少しの時間をください。ほんの数分でいいんです。未だ、俺のことを少しでも好きなら……待って……待ってください」
 さらにきつく抱きつくと、その腕は振り払われてしまったが振り向いてはくれた。だが、その顔に表情は無く、無機質に龍宝を見ている。以前の優しさはもう、残っていなかった。
 だが、それでもと思い、両手を上げた龍宝は鳴戸の頬を包み込み、以前鳴戸がしてくれたように親指の腹で頬を擦る。
「おやぶん……好きです。愛してます……ずっと、お慕いしています。これからも変わらず、ずっとあなただけを」
 その言葉に、鳴戸の眼が大きく見開かれる。
 というのもこの言葉は、龍宝が鳴戸に告白した時のそのままの言葉だからだ。この言葉に反応したということは、鳴戸は覚えていてくれたのだ。
 顔を近づけ、目を瞑りそっと唇を鳴戸のソレへ押し当てると、冷たい感触が唇に拡がる。何とか温めたくて、必死で何度も口づけていると、突然だった。いきなりぐわっと鳴戸の手が伸びて腰を抱き抱えられ、唇を奪われてしまう。
「んっ……! んっんっ、おや、ぶっ……ふっ、んんっ! んっんっはっ……」
 まるで龍宝の中の何かを奪うような、そんな激しいキスは咥内にまで及び、無理やり口のナカに舌が入り込んできたと思ったら、きつく舌を噛まれぢゅっと音を立てて唾液が吸い取られてゆく。
 ごぐっと鳴戸ののどが大きく動き、さらに貪欲に求められ舌で歯列をなぞられたり、舌の下までくまなく舐められ、上顎は特に丁寧に嬲られてそしてもう一度、ぢゅぢゅっと音を立てて唾液が吸い取られて口のナカがカラカラに干上がる頃、漸く唇が離れてゆき、至近距離でじっと二人は見つめ合った。
「おやぶん……家に、帰りましょう。こんな寒いところに、あなたを置いておきたくない。温めてあげます。俺が、凍えているあなたを」
「龍宝……」
「家に帰ることなんて無い。俺の家に、一緒に帰りましょう。……今日は、泊まっていってください。独りは、いやです。今日みたいな日に、独りは、いや……」
 今このまま帰って、どうなるのかは分からないが鳴戸に言った言葉通り、温めてあげたかった。こんな寒い外にいたのだ。身体は芯まで冷え切っているだろう。
 温めて、その後は。
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