小声で愛してあと三秒
幸い、店とホテルはそう離れた場所にあるわけではなく、酔い覚ましも兼ねて二人で眠らない夜の街を歩く。その途中で、鳴戸はコンビニへ寄ってハンドクリームを買った。流石にローションまで売っているわけでもなく、買い物には龍宝もついてきていて買ったものに対し、複雑な表情を見せた。男同士で抱く、抱かれるという現実を直視した気分にでもなったのだろう。龍宝はどうやら、かなり緊張しているようで表情がぎこちない。
「なぁんだよ、そのしけたツラは。なにも取って食おうってんじゃねえんだからよ」
「硬くもなりますよ……! あなたは少し楽観的すぎます。大体、今から親分と、その所謂、そういうことをする、と考えると……」
「大丈夫だって。優しくしてやるよ」
そっと背に手を置いてやると、僅かに表情が緩み少しだが笑顔が見えた。今まで何を見てきたのだろうと思うほどにかわいらしいその表情に、鳴戸は驚くと同時に隣を歩く龍宝に対し改めて大事に扱ってやりたいというそういった、抱くことの少ない感情が湧くのが分かった。
ホテルに着き、七階を目指す。四角い飾りのついたキーには『704』と彫ってあり、エレベーターに乗り込むと一度も止まらず目的の階へと辿り着くことができた。
廊下を歩き『704』号室の扉をまず龍宝に潜らせ、自身も後から入り扉を閉める。
「おやぶ……」
龍宝が振り向く前に両腕でぎゅうっと目の前の身体を抱き、耳元で囁くようにして言葉を乗せる。
「先に風呂に入ってな。俺は待ってる」
そう言ってとんっと背を押してやると、龍宝は若干戸惑った様子を見せたが、黙ってバスルームへ消えてゆく。その後ろ姿を眼で見送り、ベッドに大の字に寝転ぶ。
「どーした、もんかねえ……まあ、ここまで来たら腹くくるしかねえんだけどさ」
目を瞑り、昼間の龍宝を思い出す。あの色気たっぷりでイった時の彼が今、シャワーを浴びている。今からその身体を好きにしていいと思うと、まるで鍋の中のスープが煮立つように欲情という名のスープが煮え上がってくるかの如く、身体が熱くなってくる。
それを誤魔化すよう、ごろりと横向きに身体を動かすと微かな扉の開く音がして、そちらを見ると腰にタオルを巻いただけの龍宝がベッドに向かって歩いてくる。
僅かにその表情に怯えが見えていたため、鳴戸はベッドから起き上がりそっと龍宝の手を取って握り、優しくベッドへと押し倒す。
「親分……」
囁くように名を呼ばれ、その唇を自身のもので塞ぐ。そして何度も啄むようなキスを繰り返し、緊張を解すように優しいものを施してやる。最後、下唇を噛みながら唇を離すとほんのりと赤色に頬が染まる。その頬へと口づけ、額と額を合わせる。
「俺もシャワー浴びてくるわ。イイコで待ってな」
こくんと頷く龍宝。その頬は完全に赤色に染まり、目を伏せて熱い吐息をついたのを見届け、ベッドから離れた鳴戸はバスルームへと向かう。
このままだと、シャワーも浴びずにコトに及んでしまいそうだ。それほどまでに、恥じらいを見せる龍宝の威力は強大だった。今日は彼のいろいろな顔が見られる日だ。それも、今まで見たことも無い、色の乗った顔ばかり。
興奮を抑えるよう、頭から思い切り熱いシャワーを浴びていると、かちゃりと音がして思わずそちらへ顔を向けるとそこには龍宝が立っており、その真剣な表情に驚き黙っていると、龍宝は腰のタオルを取り去って鳴戸の背に抱きついてくる。
「おい、龍宝……」
「本当に……いいんですか、俺で。俺なんかで……」
「ばか言ってんじゃないっての。お前こそ、いいのか? 慣れてないだろ、こういうの」
「お、俺は、その……か、構わないというか嬉しいです。嬉し過ぎて、待っていられませんでした。すみません……」
その一途とも呼べる想いに心打たれた鳴戸は、全裸の龍宝をタイル張りの壁に押し付け半開きになっていた唇へ噛みつくようにして口づける。
シャワーの湯が若干邪魔だが、それ以上に龍宝の唇のその柔らかさや温かさに夢中になってしまい、閉じてしまった口を強引に舌で捩じ開けナカで縮こまっている舌を何度もベロベロに舐めてやる。すると、舌の上に龍宝の唾液が乗りその甘さにも感じ入ってしまう。相変わらず、甘い味だ。しかし、興奮する味でもあると思う。
すべてその甘い体液を奪う勢いで舌を動かすと、龍宝がしがみついてきて下半身が触れ合う。その素肌は熱く、そして滑らかで気持ちがよく片足を龍宝の足の間に入れてリズムをつけて擦ってやる。すると、口づけの合間から甘い啼き声が聞こえてくる。
「んっ、あっあっあっ、んんっ、んんっ、あっ……ん」
「勃ってんな。気持ちイイ?」
言葉無く、龍宝は顔を赤く染め上げながら何度も頷き鳴戸の肌を緩く引っ掻く。
「はあっはあっ、親分、抱いて、抱いてくださいっ……! も、もう俺っ……!」
「よーし、じゃあイイコは歩いてベッド行こうな。かわいがってやるから安心しな」
シャワーのコックを捻り、身体を拭くのもそこそこにまるで縺れ合うようにして歩きそしてベッドへと二人で同時にダイブする。
「はあっ、おやぶん……!」
「かわいいなあ、お前は。あんまりかわいいから、めちゃくちゃにしたくなっちまう。なあ?」
かあっと染まる、龍宝の白い肌。見てみると胸の辺りまで赤く染まっており、なんとも美味そうだ。
「あの、でもっ……でも、俺で本当に、いいんですか……?」
「俺ももう勃ってるしな。いい証拠じゃねえか? お前を抱きたいっていうさ、証拠だ。何なら触ってみるか?」
「やっ……い、いい! いい、ですけど、少し触りたい気も、します」
その言葉に、一瞬きょとんとしてしまう鳴戸だ。
「大胆なんだか奥ゆかしいんだか分からねえ野郎だな、お前。ま、お前らしいか。よし、本格的にいってみるか」
龍宝は鳴戸の言葉で意を決したように頷き、目を伏せながら両手で鳴戸の頬を包んでくる。
「き、キスから……おねがいします」