葬るリキッドルーム

 適当なところで停まり、車を駐車場へと乗り込ませエンジンを切るとそれを待っていたかのように、いきなり鳴戸が覆いかぶさってきて、避ける間も無く唇を奪われてしまう。ぬる、と鳴戸の舌が唇に這い、思わず口を開けてしまうとするりと咥内へ舌が侵入してきて、思わず反射で抵抗する。
 だが、許してもらえず舌を絡め取られてぢゅぢゅっと音を立てて唾液が持っていかれた。
「は、んっ……んんっ、ん、ん、ふっ……んあ」
 手が勝手に動き、鳴戸の首元を引っ掻いてしまう。ここではいやだという意思表示と、後は快感でどうにかなってしまいそうだ。
 ふっと唇が離れると、温みが遠のきどことなく口淋しくなってしまう。こんなところでといった抵抗の心を持ちながら離されると淋しいとは自身の心は一体、どうなってしまったのだろう。
 上目遣いで鳴戸を見ると、額に一つ、口づけが落とされぎゅっと抱かれる。
「つい我慢できなくなっちまった。さ、入ろうぜ。ほらー、固まってねえで動け龍宝」
 実は龍宝はラブホテルというものに入ったことがない。言葉にできない抵抗のようなものが邪魔して、入る気にならないのだ。
 まるで引き摺り出されるようにして車から下りた龍宝はしぶしぶと鳴戸の後に続く。すると、透明なガラス戸が見え、奥がどうやらフロントのようだ。勝手もなにも分からないので取りあえず、鳴戸の成すことを見ていると何やらフロントでやり取りがあったらしいが、どうやら部屋が決まったようだ。
 出入口から向かって正面にフロント、そしてその右隣りにはエレベーターがありキーを持った鳴戸がエレベーターのボタンを押す。するとどうやら一階で止まっていたらしいエレベーターの扉が開き、共に乗り込む。
 どうにも居心地が悪い。一体どんな部屋なのか。エレベーターは五階で止まり、鳴戸に続くとある扉の前でキーを取り出している。どうやらここが目的の部屋らしい。
 鳴戸がまず入り、龍宝も足を踏み入れ後ろで扉が閉まる音がして辺りを見渡してみると一面、ピンク色の照明に照らされ、中央にはどーんと大きなベッドが鎮座していて思わず顔を赤くしてしまう。
 思わず恥ずかしくなって顔を背けると、そのあごを掬い上げるように鳴戸がキスを要求してくる。顔を横に向けると無理やり口づけてきて、唇に湿って温かな感触が拡がり首を振っていやがるが、鳴戸はしつこく何度も唇を舐めてくる。
 もはや観念の勢いで目を瞑り、仕方なくキスに応える形で龍宝からも舌を伸ばし鳴戸のモノと絡め合わせて柔く噛んだ。するとぢゅっと音が立ち、舌の上に乗っていた唾液が持って行かれたのが分かった。
「ふ、ふ……んん、んふ、ふぁっ……」
 くちゅくちゅと濡れた音が耳に届く。深いキスを鳴戸としている。だんだんと身体が熱くなってきたところでくりっと身体を反転させられ、後ろへと追いやられる。
「んっんっ……? んん、おや、ぶ……」
 何かが足につっかえ、バランスを崩して後ろに倒れるとふかっとしたものに身体が沈み、ベッドへ押し倒されたのだと知る。
 そこで改めて、この空間が目に入りどうしても抵抗があり、思わず鳴戸を押しのけてしまう。
「こ、ここではいやです! なんか、セックスだけするためみたいで、卑猥です」
「いや、ここはそういう部屋だしな。それが目的の部屋だから仕方ねえだろ。ほら、このボタン押すとベッドが回るんだぜ。楽しいぞー!」
 そう言って鳴戸がベッドを回してみせるのに、龍宝は顔を背けて「いやです!」と断固として拒否を叩きつける。
 だが、鳴戸にそれは通用しないらしい。ネクタイに手が掛かり、するっと抜かれてしまいワイシャツの一番上のボタンを外されてしまう。なんとも巧みに動く手だ。
 その隙間から覗く肌に、何度も唇を置いてくる。そして二つ目、三つ目とボタンが外され洋服が着崩れてゆく。
 鳴戸の武骨な手が肌を這い始め、思わずぶるっと身体が震えてしまう。
「あ、やっ……い、やっ、いやですっ……んっあ!」
「とか言って、感じてんだろ。勃ってるぜ、ココ」
「あ、いや、だっ……!」
 ぎゅぎゅっと股間を揉まれ、思わず歯を噛み締めてしまう。このままではここでコトに及ばれてしまう。さりさりと音を立てながらワイシャツの上から乳首を引っ掻かれ、快感に身体がビグッと勝手に跳ねてしまう。ここで流されてはだめだ。
「やっ……お、親分!! いやです!!」
 思ったよりも大きな声が出たと思った。鳴戸も動きを止めてしまい、龍宝を見下ろしている。なるべく眼光を鋭くして睨みつけていると、大きな溜息を鳴戸が吐いた。
「わーった。分かったよ、いやなんだな?」
 こくんと大きく頷くと、鳴戸が上から退きその代わりにポケットに手を突っ込み、中から百円玉を一つ取り出した。
「これで決めようぜ。表が出たら一緒に風呂に入る。裏が出たらここでセックス。さあ、どっちに賭けるんだ?」
 ギャンブル癖がここでも出るとは。ぴんっとコインを弾いた鳴戸は手の甲を塞ぎ、その手を差し出してくる。
 こうなったらやけくそだ。
「……じゃあ、表で」
「俺は裏だな。よし、見てみようぜ」
 鳴戸が手を退けると、コインは表を指していた。心の中でガッツポーズする龍宝だ。取りあえず、この空間からはおさらばできる。だが、よく考えてみれば一緒に風呂に入るというのもそれはそれで恥ずかしいではないか。
 完全にしてやられた。鳴戸の作戦勝ちだ。
「表ってことは、じゃあ風呂だな。なんかな、この部屋は風呂がいいらしい。ジャグジーだぜ」
「ジャグジーでも何でもいいです。風呂ならいいですよ、入りましょう」
 龍宝が脱がされかけたワイシャツに手を掛け、脱ぎ始めると鳴戸がやけにジロジロ見てくる。
「……なんです」
「いいや。そそる身体してんなって」
「してません! どんな目で人の身体見てるんですか……! まったく」
 視線から逃れるよう、鳴戸に背を向けて服を脱ぎ続ける龍宝だった。なんとなく、恥じらう女の気持ちが分かった気がする。

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