クレッシェンド・バトル

※ヒョウタくん×リンゴちゃん描写があります。



ワールドポケモンマスターズ……略してWPMが開かれるここ、パシオでは定期的にバディーズを鍛えるためのイベントが開催される。内容としては、特定のタイプのポケモンを鍛えることに特化したイベント、だ。
まず、運営が何組かのバディーズを選抜する。選ばれたバディーズはチームを組み、様々なバディーズからのバトルを受ける立場になり、挑戦者側が勝利するとWPMに特別なアイテムを得られる、という内容だ。
例えば、先週はシズイくんとアバゴーラ、ヤーコンさんとガマガル、カンナさんとラプラスのバディーズが選ばれてチームを組み、彼らに挑むイベントだった。彼らの共通する弱点は草タイプ。つまり、草タイプのポケモンとバディーズを組んでいるチームに有利なイベントであり、彼らを強化するのにはもってこいなのだ。
もちろん、有利タイプで挑まなければならない、という決まりはない。彼ら相手にあえて弱点の炎タイプで挑んで弱点を克服する、といったイベントの利用方法もある。イベントにどう参加するかは、挑戦者次第なのだ。
そして、今回新しく選ばれたバディーズは。

「オーバくんとゴウカザルだ!」

ポケモンセンターの掲示板を前にして、わたしはつい大声を出してしまった。
今回のイベントは水タイプのポケモンを鍛えるのに特化したものであり、相手となるチームの代表がオーバくんとゴウカザル、あとの二組がヒョウタくんとラムパルド、アスナちゃんとコータスだ。
オーバくん、パシオではたくさんのバディーズと戦えるって喜んでたから、今回のイベントの代表に抜粋されてすごく嬉しいだろうな。あとから会いに行ってみよう。
と、ここまで考えたわたしはふと我に返った。
選抜チームのメンバーは様々なチャレンジャーからバトルを受ける立場になるため、イベント期間中は多忙を極める。もちろん、チャレンジャーが押し掛けてはイベントが回らないため、前段階となるチーム……今回はヒョウタくん率いる、研究員とポケモンレンジャーのチームだったかな。彼らの特訓を受けて勝利したチームだけが、後日オーバくん達のチームに挑戦できる、という仕組みだ。
つまり、オーバくんはこれからとても忙しくなる。それはもう、挑戦者として会いに行かないと会えなくなるくらいに。
と、いうことは。

「今のうちにオーバくんチームへの挑戦権を得とかないと!会えなくなっちゃう!行くよっ!リザードン!」

どこに?と言わんばかりに首を傾げているリザードンの腕をぐいぐいと引っ張りながら、ポケモンセンターを出る。目指すのは、ザ・ロックと言われるあの人。

「もちろん、ヒョウタくんチームに挑みに、だよっ!」







「ま、負けた……」

道中、意気投合したエリートトレーナーとミニスカートの子とチームを組んでヒョウタくんチームに挑んだけれど、見事に返り討ちにあってしまった。考えてみれば当然だった。相手はジムリーダーという実力者、かつ岩タイプの使い手。わたしは飛行タイプのポケモンが好き。相性的には最悪だった。

「どうしよう……早くオーバくんチームへの挑戦権を得ないと、イベント期間が終わっちゃう……!」
「ガルル……」
「あああ!リザードンが悪いんじゃないよ?ポケモンには得意不得意があって当然だもん。弱点を補ってこそチーム。協力し合うのがこのパシオでのポケモンバトルの醍醐味だよ!」
「ガルッ!」
「なんとかオーバくんにたどり着ければ、相手はゴウカザルだしいい勝負が出来ると思うんだけどなぁ。ヒョウタくんを倒すのにわたし達の弱点をカバーしてくれるバディーズを見つけないと……」
「呼びましたか!お姉さん!」
「岩タイプ相手なら私達に任せて!」

パチクリ。わたしとリザードンは思わず目を合わせた。

「この声は……」






ポケモンセンターで束の間の休憩。今回のイベントで、選抜チームへの挑戦権を取得するための前段階チームに選ばれた僕達は、多くのチームから挑戦を受けている。自分で言うのもなんだけれど、僕は選抜チームにも入っているから、それこそ目が回るくらい忙しい。
オーバさんからは「挑戦者が減るのもつまらねーからほどほどにしとけよー」とは言われたけれど、手を抜いて戦ったところで相手に失礼だし、手を抜いて勝てるようなチームはないに等しい。それほど、このパシオに集うバディーズ達はレベルが高い。
今回のイベントは、挑戦を受ける側の僕達にとっても、様々なバディーズと戦ういい機会となることは間違いがないのだ。どのチームにも全力で挑もうと思う。

「さあ、そろそろ休憩は終わりだ。街に出よう。挑戦者が僕達を待ってるよ」

チームを組んでいるポケモンレンジャーと研究員の二人に声をかけて、バディーズのラムパルドと共にポケモンセンターを出る。すると

「ヒョウタくん!」

広場で僕達の前に立ちふさがったのは、エイルさんだった。確か数日前、僕達のチームに挑戦してきて、その時のバトルは僕達の勝利に終わった。ラムパルドにとって有利タイプとはいえ、なかなか強力なリザードンだったことはよく覚えている。

「エイルさん。どうしました?」
「もちろん、前回のリベンジを果たしに!」
「そういうことなら、受けて立ちますよ!でも、前と同じじゃ僕達には勝てませんからね!」
「……ふふっ」

エイルさんが不敵に笑った、その時。

「私達がエイルさんとチームを組んだの!」

聞き覚えがある声と。

「お兄さん!ボッコボコにしてあげますから覚悟して下さい!」

……これまた、聞き覚えがありすぎる声が、広場に響いた。

「どう?今度はタイプ相性を考えて、水タイプのエキスパートの二人と!レインちゃんとリンゴちゃんとチームを組んで、特訓してきたんだから!」

そう言って、エイルさんは腕を組み、得意気な顔をして見せた。
エイルさんの両脇に現れたのは、マキシさんの弟子でありジムリーダー見習いのレインちゃんと、あと、それから、非常に戦いにくい相手……僕の恋人であるリンゴちゃんだったのだ。

「リンゴちゃん、ここのところあまり僕のところに来ないと思ったら」
「お姉さん達やゴロウさんとたーっくさん作戦を練ってました!お兄さんとラムちゃんが相手でも負けませんよー!」
「ヒョウタ君とバトルするのってジム戦以来だし、私も頑張るわ!」
「……ということで、ヒョウタくん!今度こそ勝たせてもらいます!」

エイルさんのリザードン、レインちゃんのシャワーズ、リンゴちゃんのミズゴロウが、自信満々!といった様子で前に出てきた。
もしかしたら、エイルさんがリンゴちゃんを連れてきたのは、僕に心理戦を仕掛けるつもりだからでは……とも一瞬思ったけれど、どうやら純粋に、僕達チームへの戦力としてのようだ。

「いいね!諦めずに何度も挑戦してくるチャレンジャーは嫌いじゃないよ!相手が誰であろうと迎え撃つのみさ!さあ、勝負だ!ザ・ロックを倒せるかな!」

そして僕達にとって、二度目のバトルが幕を開けた。







「……というわけなんだ」

山道の入り口でヒョウタの話を聞いていた俺とアスナは、にやつく表情を隠しきれずにいた。

「あはは!そんなことがあったのか!そして、言葉通りボコボコにされた、と!」
「不本意だけどね……」
「なになに?ということは、二人の彼女が挑戦しに来るの?」
「みたいだな!」
「うわ!楽しそー!」

エイルにレイン、それからリンゴ、か。今の俺達もそうだが、普段はあまり見ない組み合わせのチームだ。
いつも戦っている相手でも、チームを組むバディーズによって、また別の戦いかたを見せることもある。バディーズの組み合わせの数だけ戦いかたがある。これだから、パシオでのポケモンバトルは面白い。

「というわけで、もうそろそろ三人が挑戦しに……」
「たのもー!」

噂をすればなんとやら、だ。

「リンゴちゃん。道場破りじゃないんだから……」
「似たようなものですよ!オーバお兄さん!アフロの中にアイテムを隠してるのはお見通しです!そのアイテム、私達がいただきます!」
「いやアフロには入ってねーよ!」
「やっほー。オーバくん。来ちゃった」
「おー、エイル。いいやつらとチームを組んだみたいだな!」
「まあね」
「ヒョウタ君とアスナちゃんも、よろしくお願いします」
「こちらこそよろしく!」
「僕も今度は負けないよ!」
「よーし!ヒョウタのところで特訓したんだろ?心が熱く燃え盛るポケモン勝負!俺達が相手になってやるぜ!闘志を燃やしてこい!」

彼女達が生み出す水と風で、俺達の熱い炎を消すことが出来るかのか。どちらの勢いが勝るのか。それはきっと、この勝負が終わる頃に証明されるのだ。





2019.9.26

- ナノ -