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※シキとアキラは一緒に住んでいます





「…うっ!うわあああ!!」




『Metamorphose[前編]』



朝、外に気配を感じ、俺は隣で寝息を立てるアキラを起さないようにそっとベットを出た。


…この気配…また奴か…




連日、アキラに付き纏う駄犬(ケイスケ)は家が隣であるにも関わらず俺たちの家の前で野宿をしていた。
アキラもいい加減駄犬の行動にイライラしたのか、窓の外を覗いては「帰ってくれ」と怒っていた。


そんな奴は一度半殺しにしないと分からないのだろう。
いくら寛大な心を持つ俺でも流石に腹が立ってきた。
別に俺を見るのなら一向に構わない、だが、アキラを見ているので話は別だ。
それだけはどうしても許せん。


銃刀法禁止のご時勢だが、そんなことは無視し、俺は愛刀を片手に持ち玄関に向かった。




アキラが目覚める前にケリをつけてやる…




玄関を勢いよく開け高速て抜刀する。
しかし玄関前には誰もおらず、ただ風が吹いているだけだった。


確かに感じた…
あの駄犬の気配…



「どこだ!」

俺は家の周りを走った。


「西のほうに逃げたか!!!」


俺が南の角を曲がった瞬間!




ゴズッ!!!



自分から出たとは到底思えない音が聞こえた。
それと同時に頭部に激痛が走り、俺はうずくまった。


何にぶつかったんだ…
ポストか?いや、ポストは玄関横にある!!



「…ぅ…ううっ…」

近くで聞いたことのある声が聞こえ、俺は前を見た。…そして固まった…


「え…」

「あれ…?」


目の前には自分の姿があった。
哀れ、目の前の自分も半泣きで頭を押さえていたのだ。


「…シキさんっ!?なんで俺の格好して…って格好だけじゃない!!声まで…!!」

「何故俺が貴様の格好をしている!!」


そう、俺と駄犬はぶつかった衝撃で中身が入れ替わってしまったのだ。



初めは信じられなかったが、どうやら本当らしい。
この感覚は完全に俺のものではなかった。


「シキさん…」

「ま、まずは俺の顔で泣くな!死ね!!」


罵声を浴びせると再び駄犬(見た目は俺)は泣きそうな顔をした。


「…それならシキさんも…俺らしくしてくださいよ!…俺…そんなに眉間にシワを寄せたことないです…」

「駄犬の分際がそんなことを言っていいと思っているのか!!」

「だから!それ!そういう言い方止めてください!!あ!というかアキラは?あんな凄い音で起きてないわけないですよ!」



そうだ…すっかり忘れていた。
俺と駄犬は覗きのように家の中を覗いた。

…事もあろうか、アキラは起きていなかった。
何故かほっと肩を撫で下ろす。



「シキさん」

「なんだ。」

「このことアキラになんて言ったらいいんでしょう…」

「……。」

確かにそうだ。
いくら本当の事を言ったところでアキラが信じてくれるとは到底思えない、いや、逆に俺が言われたとしてもそんな嘘くさい話など信じるわけがなかった。



「…あ…!それか黙っているって言うのはど…「冗談じゃない!!これじゃあ俺が俺の家に入れないだろ!」

ついかっとなって怒鳴る。
駄犬はビクッとしたかと思うとシュンと静かになった。
何度も言うが『シュン』は傍から見れば俺がしていることになる。


「じゃあ何か元に戻る方法ってないんですか!俺だって嫌ですよ!貴方のこと嫌いですもん!何が好きで嫌いな人の声と身体にならなければいけないんですか!」

「方法なんて知らん!貴様が考えろ!それに、俺だって冗談じゃない!」

これでは埒があかないと思ったのか、駄犬(姿は俺)はしゃがんで小声で話しだした。



「……やっぱり暫くはアキラに内緒でこのまま隠すしかないですよ…。」

「…貴様は俺らしく振舞える自信があるのか?」

「…何とかします!!貴方だって!俺みたいにできますか?」

「ストーカーをしろと言っているのか!!」

「そうじゃなくて!!…って別に俺、ストーカーなんてしてませんけど…。あくまでアキラの観察です。」

「…それをストーカー又は人間観察と言うんだ。」



「…何家の周りでコソコソやってんだよ…」


タイミング悪く、アキラが寝起き絶不調でやってきた。
なんだ、いきなり実践編か!まだ駄犬になりきる練習だってしてないんだぞ!!



「あっ…いや、アキラおはよう…きょ、今日も可愛いね。」

(自分、今なら死ねるぞ!!!)


「…なんでもないんだ、アキラ。ただ朝早くから駄犬が来ていたからな、一度半殺しにしてやろうと思って出て来たまでだ。」

(…わかってんじゃないか!!!)


「ふ…ふーん。あっそ。今日は俺、仕事なんだ。だから早く朝食食べるぞ。」


何も疑うことなくアキラは家の中に入っていった。
と同時に俺の身体から大量の汗が噴出した…気がした。

「じゃ、じゃあ俺、行きますんで…。」

「貴様」

俺は駄犬の胸ぐらを掴み、睨みつけた。

「アキラに指一本でも触れたらな、ぶっ殺すぞ!!!」

「…わ、わかりました…はい…」


そう言ってペコリと俺のほうを向き一礼したかと思うと家の中に入っていった……










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