またヒロインちゃんが何かやらかしたようです 「またお前は…――たっく、そんなにオイラの芸術になりたいのか? うん?」 「いえいえまさか…滅相もごさいません」 「――退け、デイダラ」 「ちょっ…サソリさん怖いです。私まだ自分の頭がトマトの如くぐちゅっと潰れるびっくり体験なんてしたくないんですけど…――って、待ってデイダラくんどこにも行かないで!」 「…なんか止めろその言い方、うん」 ひどい。 「…――分かりました。それならここは一つ、私が土下座でもしますから…」 「…土下座?」 「はい、少し待ってくださいね。…――よいしょっと」 「…ちょっと待て、うん」 「え?」 「てめェ…その足の構えは何だ」 「ああ…今なら漏れなく、回転付きです」 ローリング土下座! 「………なあ、」 「はい」 「てめーそれ、ただ単にでんぐり返ししたいだけだろ、うん」 私はただ単にデイダラくんに『でんぐり返し』って言わせたかっただけ。 |
黒く染めようか〜ifトリ with 飛段〜 「あの、飛段さん」 「んあ?」 「爪…が?」 「ツメ?」 「爪が普通です」 「普通って…当たり前だろ。てめーはオレを何だと思ってんだ」 「いえ、そうではなく」 「ん?」 「黒くないです」 「ああ…そういうことか」 すうと持ち上げたその手のひらを光に翳すかのようにその健康的な薄桃色の爪を見上げ、飛段さんはくいと口端を持ち上げて笑った。 「ま、いーんじゃねーの?」 今こっちの世界では暁も何もねーからな、と軽く答えた飛段さんに、私は眉を寄せる。 「なんか…飛段さんに健康的な色とか、似合いませんね」 「んだとコラ」 飛段さんは脅すようなことを言いつつも、その顔にはいつも通りのやんちゃな笑み。 実際飛段さんとの共同生活は、想像していたよりもずっと楽だった。時々何を考えているのか読めないようなときはあるものの、飛段さんは少し頭が足りないだけの戯けた剽軽なお兄さんだったのだ。 私は安心して口を開く。 「爪、黒くしないんですか?」 「んー、いいよ。面倒臭ェ」 下ろした腕をそのまま枕とし、飛段さんはごろりとソファに寝転んでしまった。私はその顔の閉じられた瞼を何となくじっと見つめつつ、小さく呟く。 「良ければ、私がやりましょうか」 「…あんのか? マニキュア」 ぱちり、途端そこに開いたマゼンタの双眸は、少し驚いたような色をしていて。 「いえ、ありません」 「何だよ…」 私はきっぱりはっきり即答すれば、飛段さんの持ち上がりかけていた首はがくっと項垂れた。 なんだ、結構乗り気だ。 私は内心でひっそり北叟笑む。 「だけど、ちゃんと他のものでも爪は黒くできますよ」 「…他のもの?」 不思議そうに首を傾げたグレーに、私はにっこり力強く笑って見せる。 「はい、マッキーなんてどうでしょう」 知らないって怖い 「誰だ? まっきーって…」 「まあまあ、ちょっと目瞑っててくださいよ」 「んーじゃあ、お願いすっかな」 「はい!」 そこで私はにやり、堪えきれずについつい笑みの質を変えてしまう。飛段さんの柳眉がぴくりと僅かに跳ねたのは見ないふりだ。 後ろ手に隠し持っていたマッキーという名の超有名油性マジックペンを徐に自分の片手へと取り出した私に、飛段さんの口元はひくりと引きつる。 「お、おい…それ、何だ」 「マッキーです」 じりじりとその距離を縮める私に、飛段さんはがばりとその体を飛び起こす。 沈黙は、一瞬。 斯くして、狭い室内での不毛な鬼ごっこが端を発したのだった。 黒いマニキュアってマッキーで塗り潰したみたいだよねって話。実はこれ、管理人が過去に他サイトでOPのキッドを使って書いたお話だったり。 |
学校DE暁 〜ifトリ トビくん〜 「あの〜…トビくん」 「何っスか?」 返ってきた返事はひどく暢気な声。私はなんとか口端を持ち上げたまま、そうっと唇を開く。 「どうしてあなたは今、私と一緒に学校にいるんですか?」 「嫌だなァ、オレがこの学校の生徒だからじゃないっスか」 目の前には見ているだけて目眩を起こしそうなぐるぐる。その下の顔には今きっと、胡散臭いことこの上ない笑みが浮かんでいるのだろう。容易に想像がついた。 私は引きつった口元で無理矢理微笑み、小さく小さくひとりごちる。 「生徒どころか、本当なら先生でいられるかも怪しい年齢の癖に…」 「チッ」 あれ、今恐ろしい舌打ちの音が聞こえた気がする。ちょっぴりお馬鹿で剽軽なトビくんには、おおよそ似合わないような凶悪な音が。 「――もう、先輩! オレ、どんだけおっさんに見えるんスか?」 「せ、先輩…?」 辛うじてトビくんモードでいてくれる彼のそんな言葉に私が目を白黒させれば、トビくんはばしばしと軽い力で私の背中を叩いた。…今はまだ、軽い力で。 「はい! オレは今日からこの学校に入ったばっかりですからね」 「ああ、幻術で…」 途端、ぐいと肩――というより首に回ってきたその右腕。その手に体を引き寄せられた私はぐえっと声にならない声で叫び、恐怖に背筋を凍らせる。 「幻術? …何の話っスか?」 トビくんトビくん、ねえそれ、トビくんの声のトーンじゃないよ。 そうは思いつつも悲しいかな、性だ。私はついつい余計に言葉を紡いでしまう。 「や、だって幻術じゃないですか」 いつものように一言も二言も多く呟くのは心の中だけに留めておけば良いものの、トビくん――いや、マダラさんの前ではそれもできない。見透かされてしまいそうで怖いのだ。そして、見透かされてしまったそのときが…怖い。それならばいっそ口に出してしまえという訳の分からない結論に至った私は、更に自分の首を絞めていく。 「…それに、マダラさんは実際おっさ――」 …――きゅっ、 文字通り、実際に私の首は絞まった。勿論、私の頸動脈を捕える背後の男の腕によって。 やばい、遂にマダラさんが降臨なさった。 「――…いつか犯す」 もうその声は地を這うように低く、あのお方のそれ。 …マダラさま、どうかここは全年齢向けでお願いします。 マダラさんはどんな顔でッスとか言ってるんだろう…ぷぷ。 |
学校DE暁 〜デイダラくん〜 「おい鬼鮫〜。昨日のプリントなくしちまったんだ、うん。一枚くれよ」 「あなたねェ…ちゃんと"先生"を付けなさい。削りますよ」 「あっ鬼鮫さん鬼鮫さん、私にも一枚!」 「"さん"…はあ、分かりました。じゃあ今そのプリントは手元にないので、一緒に職員室まで取りに行きますよ」 「え〜。面倒臭ェな、うん」 「じゃああげません」 「チッ…。おーい旦那! ちょっとオイラの分までトイレ行ってきてくれ」 「誰が行くか」 「あ、デイダラくん。私が二枚もらって来ますよ」 「えっ、良いのか?」 「はい」 「(と言うか何でこいつはいっつも敬語なんだ…?)悪いな」 「その代わり、私の分までしておいてください」 「…………は?」 異性が言うとセクハラ臭い。 |
風邪っぴきサソリンと何気ない一コマ けほり、乾いた咳が空気を揺らす。熱に潤んだその紅緋の瞳は、不謹慎だがひどく色っぽい。私は少しはらはらしていた。 サソリさんが風邪をひいた。一体何年振りかも分からないと聞いた私は、あれこれと世話を焼く。 「サソリさん、お粥――…」 「腹は減ってねェ」 「…薬は」 「要らねェ」 「お水飲みましょう」 「どうしても飲ませてェっつーんなら、そこに置いとけ」 しかし敵も中々に強情だった。弱みを見せたくないとでも言うように、サソリさんは一人息を喘がせ私の言葉を悉く突っぱねる。 勿論、私が嫌ならと思ってデイダラくんに頼もうともしてみた。しかし。 『余計なことすんな』 …危うく頭蓋骨が粉砕するところだった。いやはや、あれが病人の力なのだろうか。 焦点の危ういその瞳は、苦しげに歪められている。病気のときは何故だか心細くなる。これは人の心の真理だ。しかし、サソリさんは放っておけと取りつく島もない。 私ははあと大きく息を吐き出した。 「サソリさんはきっと、自尊心で身を滅ぼすタイプだと思います」 「…煩ェ」 その唇から漏らされた掠れ声が否定のそれではないことから、どうやら自覚はしているらしい。だからと言ってそれを直す気は、更々ないようだが。 私はふと、手を伸ばす。額の温度を確かめるふりしてその前髪を撫でた私のことをサソリさんはじろりと睨んできたがしかし、その口が特に何か言葉を発することはなかった。沈黙が降りる。 嘘のように美しい赤。紛い物のようなその糸。私の指に絡み付くそれはしかし、生の通った赤の頭髪。私はどんなに精巧に作られたものであっても、鬘などの偽物の髪は苦手だった。何より怖い。どうにも駄目なのだ。だけど私の触れるそこには、確かに命が宿っている。私はほっと息をついた。 その赤越しでも熱く感じられる額に手のひらを当てながら、私はふっと口を開く。 「サソリさん」 「何だ」 「傍にいて良いですか?」 「…好きにしろ」 傍にいてと言えないあなたに ここのSSから採用されてちゃんとした文章のどこかに利用されるものもあるかもしれません。 |