黒い髪の毛に黒い瞳。日本人らしく
寝るときにはパジャマを着ていた目の前の女性が襖を開け
ぽっかりと空に浮かぶ丸い月を見ていた。
その彼女・・・赤坂みつきをみて考えるよりも先に
花京院は声をかけていた。
その声を聞いた瞬間肩をビクリと反応させ後ろをみた彼女は
酷くはかない。





花京院はDIOの「肉の芽」で操られていた。
その事実を勿論みつきも知っているし今目の前にいる
彼が攻撃することも勿論ないことも重々承知している。
みつきは小さく呼吸をするとにこりと笑った。

「花京院さん、身体は大丈夫ですか?」
「え・・・ええ・・・まあ。赤坂さんは大丈夫」
「ではないけど。ホリィさんに治療して貰ったし
他の人たちも大丈夫そうってお墨付き貰ってるから」

軽く笑ってみせるものの、花京院という男は
本当に申し訳ないという顔を拭う事は出来なかった。
みつきは笑っていたが一度目をつぶってまた開いた時には
笑顔はなくなっていた。
「花京院さん・・・貴方が操られてたとはいえ攻撃してごめんなさい」
ぺこりと頭を下げると違う、と痛ましい小さな声が聞こえた。
頭を上げると困惑する花京院にみつきの胸がズキリと痛んだ。
バツが悪い、そんな顔をしている。

「それをいうならぼくの方だ」
「・・・」
痛かった。本当は罵倒したかった。みつきに渦巻くあの時の感情。
殺す覚悟で闘わなかったら犬と同じ道を歩んでいただろう・・・
ただ同じようにこの人も苦しんでいたのだと思うと自分が
痛んだ傷などどうでもいいとも感じる。みつきの率直な考え方だ。

操られていた時よりもずっとこの人は、優しい人だ。


一歩、みつきは花京院に近づき距離を縮めた。
綺麗な顔に眉間の皺を寄せないで欲しい、あえて笑ってしまったのだ。
その笑った表情に花京院は一層驚くことになる。


「ならお互い様ってことです。花京院さん」
「・・・だが」
「だがもへったくれもありません。」
ぺしっと花京院の言葉を遮った。みつきが花京院を見る顔は
本当に恨みや憎しみの瞳をしておらず、微笑んでいた。

「なんか、花京院さんとあえてよかった」
昼間はそのまま寝てしまっており、夕飯も寝ていた部屋にもってきて
もらっていたから会うタイミングがなかった。
「どうして、ですか・・・」
「うーん、直接会わないとって、なんかそう思ったんです。
私も花京院さんも命に別状なかった。安否確認って大事じゃないですか?」

すっと出されたボロボロの手。
女性にしては大分傷ついている・・・そう、操っていた時に渡した鋏を素手で
もっていたのだ。その傷である。
「私は赤坂みつき、空条家のお隣に住むごく普通の女子生徒です。」
あ、今はスタンド使えますけどと苦笑いをするみつきに
少しだけ涙が彼の目を潤ませた・・・

「ぼくは、花京院・・・花京院典明だ」
そういって彼女・・・みつきの手を握ったのだ。
暖かい人間の手は心までもそっと明るく点す。



月明かりに見えた、ほんの小さな奇妙な友情。




***



朝起きたら大騒動だった。
お袋が倒れたという承太郎の言葉を聴いてどうして・・と
状況を聞く前に体が動いていた。
布団から身体を無理矢理起こし走ろうとしたときだ。
「!?」
「大丈夫かみつき」
「ああ、ごめん・・・」
自分の服ではなくホリィから借りた服である為要領感覚が分からなく
ロングスカートを足で踏んでしまい転げ落ちそうだったところを
目の前にいる承太郎に抱きとめて貰った。
「(そうだ、まだ足痛かったんだった・・・)」
「やれやれだぜ」
「うあ!?ちょっ承太郎!」
いやいや、スタンド使ってないんだけど?!と思っていたが彼には
関係ないようで身体を抱きかかえられそのままスタスタと
歩き始めたようだ。

「おお、目が覚めたかねみつきちゃん」
「はい、えっと・・・ジョースターさん」
部屋に入る前には承太郎も下ろしてくれ、目の前にいる人たちに
声を掛けた。
「あ・・・みつきちゃんこんな格好でごめんなさいね」
「・・・ホリィさん」
布団でジョースターさんに身体を支えられていたホリィに心が痛む。
昨日はあれほど元気だったが体調が優れないのか眉間に皺をよせていた。
廊下から部屋へ入り布団の前で彼女をみた。
心配しないで?風邪なんだからと笑ってみせるも心が苦しい。

「聞いてみつきちゃん。
夕飯のリクエストしたら承太郎ったら早く治しやがれ、ですって!
・・・でも、たまには風邪もいいものね」
ホリィの背中からツタが背中から見え隠れする。
・・・スタンド。昨日知った単語が頭からよぎた瞬間ホリィが目を閉じ
苦しい表情をしながらもまた眠りについた。


「・・・(ホリィさん・・・)」
「安心しろホリィ。ワシが絶対治してやる。必ずな・・・」
ジョセフの言葉を聞いて、他の者達も集まってきた。

まず、この影響を与えているDIOという男、承太郎の
スタンド能力で分かった「エジプト」という単語。
そこに・・・DIOがいる。
分かると承太郎・ジョセフ・アヴドゥル・・・そして花京院が
エジプトへ渡ると決意していた。
同然みつきも!と声を上げようとしたら「ダメだ」と声があがった。

それは、勿論幼馴染の承太郎である。

「まって!?なんで!私はダメなの?」
「すまんがみつきちゃん。ワシも今回君が来るのは反対じゃ。
荷が重過ぎる、そしてジョースター家の問題じゃからな」
「そんな・・・」
承太郎の言葉を聞いて反対するのはジョセフも同様であった。
スタンド使いであるみつきも連れて行くことも可能であるが出来れば
ホリィの面倒を見てもほしいという考えだ。
一気に別れる冷たい空気に「ぼくは」と間を割ってきたのは
意外や意外、花京院である。

「ぼくは、みつきさんが来る事は賛成です」
「なんじゃと!花京院!」
「・・・花京院さん」
「どういうことだ花京院」
「同じスタンド使いとして、誇りに思うからです。ぼくも彼女のサポートを
します。」
その言葉に、誰も反対の言葉がでる空気ではなかった。

同じスタンド使いとして・・・敵として戦った花京院にそういわれるとは
思わなかった為かこみ上げて来る物を感じた。
それに彼はサポートするとまで言ってくれ一人ではないとまで
そう言っているのである。

その花京院の言葉にどれだけ後押しをされたのかみつきの
頭が自然と下がった。
「あ、足手まといにならないので・・・よろしくお願いします」
深々と目の前にいる人物達に頭を下げた。
その熱意はこのメンバーの中でも負け時という感じであり
黒髪がばっさりと垂れていた。

シンッと静まり返る中、ぽんっと頭の上に誰かの手が置かれていることが
わかる・・・承太郎だ。
「もし足手まといになったらみつき、日本に送り返す」
「・・・ありがとう」
みつきの顔は昨日よりも、ずっと澄んだ瞳をしていた。

数時間後、外が大分騒がしくなり気になってみてみれば
スピードワゴン財団という人たちが空条家へやってきた。
黒いスーツを身にまとい、最新医療を空条家へ運び込まれていく。
ホリィを24時間体制で見るとの事であり何かあれば連絡が行くという。

「(ジョースター家ってすごいいんだな)」
これが、私の幼馴染か・・・となんか遠くの人だったのかもしれないと
みつきは頭の中で冷静に考えていたのだった。





さあ、扉は開かれたり。

20160501


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