high and dry
2017/02/15


「泣くな……」


 そう言った声が震えていることも、わたしの頬を伝う水が、わたしだけのものでないこともわかっていた。無視できないくらい大きくなって、でも、そんなの認めたくなくて。ただその熱い腕を、いつもの香水の匂いを感じたくて、子供みたいに首に縋った。

 無邪気に将来を誓い合える程、わたし達は子供じゃなくて。今のこの状況を覆せる程、大人ではなかった。何もかもを捨てて逃げられたら、これ程楽なことはないのに、それすらも出来ない。やましいことなんて何もないのに、二人の将来は二人だけのものなのに、こんなにも後ろめたいのはどうしてなんだろう。


 窓を叩く雨音が、より一層強くなる。どうしようもない不安と悲しみは洗い流してはくれないのに。




おそろいのピアス
2016/10/21

 カチリカチリと微かな音が鳴っている。歯にピアスが当たる音。

 いつからこうなった。
 いつからこうなった。
 いつからこうなった。

 最初はこんなに歪じゃなかった。開けっこしよう? と初めて開けた耳朶の煌めきは、こんなにも鈍い光だっただろうか。せぇの、の声で力を篭めた、あの時に少しだけ震えたわたしのこの手は、今もまだ震えたままだ。わたしは変わらないままなのに、どんどん遠く変わっていって、いつかは知らない君になるのだろうか。いかないで、と追い縋れば君は立ち止まってくれるのだろうか。

 上手く死にたいのに出来ない君が、上手く生きたいのに出来ない君が、生を感じるためにわたしは在る。いつだって君はわたしに強いるのだ。お前がくれるものは何でも嬉しいよ。と、わたしが与える痛みを享受する。

 舌の先が痺れる、あのピアスに触れると。まるで帯電でもしているかのようだ。そうでなければ酷く冷たいのだろうか。そんなはずがないのに、冷たいはずなんてないのに、カチリと鳴るあのピアスが触れる一瞬、いつだってわたしの舌先は怯えるのだ。ゆるゆるとお互いの体温が溶け合って、解け合って、融け合って。わたしのどうしようもない恐れと哀しみが、涙にはなりきれずに唇の端からやたらと上ずった声と一緒に零れた。

 滲んだ視界の端が、カラフルを捉える。いち、に、さん、と数えたけれど、途中で数も色もわからなくなって止めた。重くないのだろうかと見当違いなことが頭を過る。そのうち幾つを自分が開けたのか、少し可笑しくなった。

 ねえ、これじゃあもう、おそろいって言えないよ。



おそろいのピアス


♯♯♯♯
えーだっしゅ/でぃあう゛ぉーかりすと

ごめん勝手に舌ピ開けさせた




炭酸に溺れてる
2015/07/28

日中に焦がされたアスファルトからは、仄かに夏の匂いがした気がした。でもその香りを運んでくる風は、まだ少しだけ春の名残を孕んでいて、わたしの火照った頬を優しく撫でた。半歩先を歩く少し姿勢の悪い背中は、鬱陶しそうに襟足が半分ほどを隠した後ろ首を掻いた。

髪、伸びたなあ。

ぽつり、ぽつりと等間隔に建っている街灯は心許ない灯りを道なりに落とす。わたしの家から駅まで八分。いつもよりも少しゆっくりと、いつもよりも少し狭い歩幅で歩く。スポーツをしているとは思えないくらい細い、いつもは大股で歩く脚が、こういうときはどうしてだか大人しい。

ああ、なんだか、好きだな。

また風が頬を撫でた。少し遅れるようにわたしの髪もそっとなびいて、暫くすると背中をくすぐるようにして元の位置へと収まった。新緑を湛えた木の葉がさらさらと音を立てる。虫の飛ぶ音がする。

なんだ、わたしも一緒じゃないか。

初めて出会った高一の今頃は、まだお互いに髪が短かった。少しは女らしくしろと言われて、形から入るみたいに髪を伸ばした。似合わねェことしてんな、と言われて、鏡の前で一人泣いた。いつだって一挙一動に振りまわされていた。

それでも、こんなに髪が伸びるくらい、一緒にいる。

駅前の自販機はぼんやりとした灯りを放って、その四角い青い輪郭を曖昧にしていた。一番上の段、左から三番目。ほっそりとしているけれど、グローブ焼けの跡が残る、節くれ立った指が力強くボタンを押した。電子音の後に足元でする小さな衝撃音。面倒臭そうに長い身体を折り曲げ、ボトルを取ったその背中がなんだかやけに愛おしかった。

「あのね、駅前の自販機にしかないって言ったけど、本当はね」
「ンだよ」
「うちの近くのコインランドリーにもあるんだよ」

少しでも長く散歩をしたかったわたしの、イタズラ。小さく舌打ちする音が聞こえる。襟足あたりをガシガシと掻く癖は、昔から変わらない。

「あちィんだから無駄に歩かせんな、バァカ」

暑いと言いながらも絶対に離してくれない左手に、ゆっくり力を入れると、それ以上の力で握り返された。まだこの優しい体温を手放したくなくて、近くに感じたくて、我が儘なわたしを許してほしかった。




(帰りは行きよりもずっとゆっくりだった。そういうところがわたしをもっと我が儘にさせるのに。)


「2」
2014/06/13



ずいぶんと前に見たアイツの背中には、やけに白く見える正方形の真ん中に黒々とした「1」の数字が浮かんでいた。白く正方形が浮かんで見えたのは、ユニフォームに入り込んだ砂粒が、何時まで経っても落ちないくらい練習をしていたから、だと思う。

断定を出来ないのは、努力している姿を見られるのは、嫌いだって知っているから。決めつけられることも嫌いだった。物事をなあなあにするのも、中途半端も嫌いな人間だった。ずいぶんと生きづらそうな生き方だと思った。現に諍いも多かった。それでも正しいと思ったことには、堂々とした人間だった。わたしはその堂々とした背中が、マウンドに登るのが好きだった。アイツと衝突した人間に、正しさを証明できる場所だったから。

でもその背中が、その背中に相応しい「1」を携えてマウンドに登ったのは、ただの1回きりだった。確かに縫い付けられたあの背番号が、やけにぼやけて見えたそのとき、それはすでにアイツのものではなくなっていたように思った。ああ、もうあの場所へ行くことはないのだな、と悟った。肘を押さえてうずくまったアイツが、噛み締めたであろう砂の味を思った。


あれから4年が経った、今のアイツの背中にはもう、正方形に浮かぶ「1」はなかった。背面の両脇、いくらか小さくなったゼッケンにいるのは「2」。あの日アイツの手からするりと抜け落ちた、エースが付ける番号ではない。そして今のアイツも、エースではない。ゼッケンは縫い止められていなかった。上端を2つ、安全ピンで留めただけ。一瞬で前を通り過ぎるアイツの背中に遅れてゼッケンがはためいた。あんなにも不安定なのに、縫い付けられていたあの番号よりもずっとアイツの背中を支えていて、あの頃よりもいくらか猫背になったはずの背中をあの頃よりもずっと、堂々と見せた。



::::::
いつかちゃんと書きたい




きみがいい。
2014/06/01




カーテンの隙間を縫うようにして、月の灯りが部屋に差し込んだ。いたずらに瞼の裏を刺激されて、そっと重たい目を開けた。想像よりもずっと、青白い光だった。瞼が重たいのは飲みすぎか、疲れが溜まっているのか。明日の顔はむくみそうだ、なんて考えながら身じろぎしようとするも、そうはさせない存在がひとつ。

月灯りに照らされたその顔は少し不機嫌そうで、眉がいつもよりも寄っている気がした。太陽の下にいる時よりも、ずっと顔色が悪そうに見える。わたしより頭ひとつ分大きい癖して、眠るときは首筋に顔をうずめるように眠る。丸まった背中はわたしとの間にほんの少しの隙間を作って、壊れ物でも扱うように腰に回された手は普段から比べると別人のようだった。そのくせ持て余した脚はわたしの脚を絡めとるようで、触れた足はひどく熱かった。

冷えた手に反して、熱い足が嫌いではなかった。もとより熱いのか、アルコールのせいなのか。絡めた脚も、うずめた顔も、アルコールのせいなのか、そうでないのか。もうどうでもいいような気がした。


目覚める頃にはこの腕も脚も、解けるくらいになっていて、わたしの身じろぎにまた不機嫌そうに眉を寄せ、一段低い掠れた声で、まだ寝られるだろ、そう言うに違いない。いつものことだ、だが、それでいい。それがいい。




臆病者の強がり
2014/03/25

ツンと空気が尖った日だった。

休日ダイヤの早朝の電車は人も疎らで、冷たい朝を更に冷たくさせた。規則的に流れる車窓からの日差しは、なんとも心許なかった。カタカタと微かに窓が鳴り、轍を鉄が舐めるように進む音だけで車両がいっぱいになりそうだった。時折緩いカーブを描き、わたしの身体は引っ張られるように傾いたけれど、殆どがまっすぐに沿岸を進むこの電車は、わたしを思考の海へ突き落とすには十分な静けさを与えた。


初めて、一人で帰省をする。


なんだかんだと色々あったが、いつもわたしの横にいたひょろりとした黒髪がいないというのは、わたしの動作を厭にぎこちなくさせた。正月休みに実家に帰ることすらも惜しい、と言わんばかりに寮にこもって試験対策をするあの猫背に、しばしの別れを告げて、ついでに愛犬への伝言なんかも頼まれて、寮を出てきたのはついさっきなのに、なんだかとてつもない時間を一人で過ごしているような錯覚に陥る。


神奈川の沿岸を沿うように進むこの電車は、だんだんと中心地へとわたしを運ぶ。ド田舎だなんだと称される小田原から、横浜を少し過ぎたところ。わたしが、わたし達が生まれ育った街。



そうして桜の蕾が綻ぶ頃、わたしはその横浜を通り過ぎた、東京の大学へと進学する。推薦で早い時期に決まった。もう変えようもない、変えるつもりもない。それなのにどこか胸にわだかまりが残るのは、下り電車に乗るかもしれないあの黒髪を思い出すからか。


わたしが東京への上り電車に乗るとき、下り電車の向かいのホームに彼は立つのだろうか。と、しばらく考えてもその姿はうまく思い描けなかった。それは今までに体験したことのない、所謂、非日常的な光景だからだろうかとも思ったが、単純に購買部の人混みですらも苛立つ彼が、朝のラッシュに耐えられるはずもないだろう、という至極当然な結論に至ったからだった。



合格して、春になったら。

彼はきっと一人暮らしでもするのだろう。実家から通うことはあの性格からして困難だから。部屋はきっと、最低限のもので整理されていて、彼をあまりよく知らない人は、驚くに違いない。でも、彼の仲間はきっと、あいつらしいと頷くだろう。面倒臭がりで大雑把なのはいつもポーズだけで、本当は面倒見が良くて几帳面だということを、知らない人がほとんどだった。彼なりに心地の良い空間、例えば愛車を置き、整備するだけの環境、過不足のない衣食住さえあれば、あとは何もいらない。どこに重きを置いているのかの違いだけだ。


そんな彼を新たに知っていく人が、これから何人出てくるのだろうか。空色のあの自転車が、道を拓くように人を繋げていくことを、知ってしまったから。走るためだけに、速さのためだけにあるそれは、今の彼の生き方にとても似ていた。



重たい過去は置き去りにしてしまえるようになったから。前だけを見て走る術を知ったから。わたしは、置き去りにされるのではないかと酷く怯えた。


少しだけ、空の色が憎く感じた。



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卒業シーズンだから、
進路の違う幼馴染みと荒北



窓側、後ろから2番目
2014/02/14

例えば鬱陶しく垂れ伸びた前髪を何時まで経っても切らないこととか。


ノートに向かうとそっと影が出来る。わたしのではなく、斜め前、窓際の席から伸びた影。気にすることなくノートに向かわなくちゃ。次の授業できっと当たるというのに予習もしていない。これだから早い出席番号は嫌なんだ、と自分の名字をひっそりと呪う。今日は九日で、わたしは九番。

耳にかけたはずの前髪がはらり、はらりと落ちてくる。額の縁をそっとなぞるようにして耳にそっとかけたとしても、またしばらくすれば、はらり。集中力を削ぐ光に透けた濃い茶色は、視界の端をふらふらとして、その奥にほんのりと窓辺が見える。いつだったかこの茶色越しに差し込んだ光は、もっと優しさを孕んだ橙をしていて、それがまるで遥かに昔のことのように思い返される。


彼の指がわたしの額にそっと触れ、耳の後ろをくすぐるようにして離れていったのはいつだったか。わたしがまだ窓辺の席に座っていた頃のように思える。放課後に日誌を書いていたとき、ほんのわずかばかりの会遇だった。

前髪が落ちやすいんだね、と一言放ち、息をするかのように自然にわたしの髪を耳にかけた。当然のようにやってのけたその右手を凝視するしかわたしには出来なくて、ほんの数秒だけ触れていたそれは、すぐにわたしの元を離れていった。目、悪くなるよ。とだけ微笑んだ彼に対して、そんなことないよ、と漏らすのが精一杯だった。


茶色い庇の向こう側を見てはいけない。


そう思ったってはらはらと揺れる庇の奥、二人の影が嫌でも目に付く。
彼の、わたしの髪をそっと持ち上げた右手がわたしより少し明るくて、癖のある髪の毛をわたしと同じようにそっと耳にかけたとき、同じなんかじゃない、と気付いた。

額の縁をなぞるようにして下がっていく指先は、そっと一房の前髪を捉えて、耳の後ろをくすぐり上げるようにして前髪を落ち着かせた。そしてわたしのときはすぐに離れていったあの、男にしては厭に綺麗で、どことなく女性を感じさせすらする指は離れがたそうに桃色の頬を撫でてからあるべき場所へと戻っていった。

息をするようにああいったことをするのは確かだった。それでも誰に対してもそうであるわけではなかった。愛おしそうに、壊れ物を扱うように。触る直前には躊躇いさえも感じさせたくせに、離れるときには淋しそうに離れていったのだった。


鬱陶しく伸びた前髪を、何時まで経っても切れないのは、あの日のことを忘れられないから?それともこの光景を、目の当たりにしたくないから?どちらも正解だった。どちらも間違いだと、言いたかった。


窓側、後ろから2番目


厭に目に付くのだ、あの席は。



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なんか氷室っぽい


アイシカタシラナイカラ
2014/01/03



掌が熱くなって、ついでに眼の奥も熱くなっていくのを感じた。そっと伏せられた睫毛がふるふるとか細く震えるのが見えた。まるで反射的に浮かび上がった涙の粒をふるい落とすかのように。俯きがちで、張られた頬の熱を奪うように添えられた彼女の小さな手だけは震えていなかった。諦めとも慣れともとれた。そんな彼女に対して、とくにこれと言った感情は無かった。力が入ったきりで硬直しかけた手の筋たちが、ゆるゆるとほどけていくのを感じた。

憎いのでも無ければ、殺したいわけでも無かった。

ただ反射的に手が出ただけだった。いつだってそれは意味をなさなかったし、その行為に意味を求めたことも無かった。そうしたからと言って彼女が僕に屈服するとか、そこまで行かないにしても従順になるとかも無かった。ありえなかった。彼女は芯が強かったし、なにより気丈だった。耳をふさいだきりでいるような僕に対して、硬く目を閉ざしている僕に対して、そっと筋のほぐし方を教えてくれるような人間だった。

それでも。
彼女のその気丈な瞳に僕が、僕だけが映る瞬間が好きだった。彼女の脳から神経の繋がった水晶体やら角膜やらをやさしく包む水分が、じわりと浮かび上がり静かな湖面がざわめく瞬間。球体に映り込む歪んだ僕が、大好きだった。あの瞬間だけは、彼女の眼球ですら、僕しか映さなかった。歪んでいたって僕を映した。
そのときからその行為は意味を持ち始めた。

支配とか、そんな難しい感情ではなかった。純粋なる欲求。いっそ健全ささえも感じた。手をふるったあの瞬間だけは、どうか僕のことだけを考えて。恐怖でも軽蔑でもなんでも良かった。彼女のなかが僕でいっぱいになれば良いと思った。彼女の身体を、心を傷付けるたび、彼女は僕がいるために傷つき、また、僕が付けた傷を癒やした。

傍らに横たわって頬を腫らす君の、僕よりいくらか小さな臓器が、僕が弱らせた臓器がその傷を回復しようと微かに震えるのをそっと確かめる度に、僕の臓器も、生きている、と震えるのだった。






神様、
2013/02/14



簡単なこと。浮かれきった空気の中で平常心であるフリをすること。簡単なこと。なんでもないように友達とおしゃべりをして、プレゼントを交換し合うこと。簡単なこと。チョコレートでいっぱいになった彼の少し大きめの紙袋に、自分のチョコレートを滑り込ませること。




考えてはやめ、鞄に手を伸ばしてはやめ。何度同じことを繰り返しただろうか。お世辞にも綺麗とは言い難い包みに触れる度、指先にはぽっと火が灯り、でもその度に脳からの厳しい指令でサッと氷のように冷たくなりもした。


つまりは頭の中がごっちゃになっていた。平常心ぶった顔の下では本当のわたしの顔は青くなったり赤くなったりを繰り返した。朝はあまりにもチョコレートの量が少なかったからバレかねないと避け、昼休みは人だかりを交わすことができないと避け、気が付けば五限の授業が始まる直前。これが終わればもう、ホームルームを終えて帰宅するだけとなってしまった。もちろん彼には部活があるから帰宅してしまう訳ではないが、わたしの蜘蛛の糸である机の横に掛けられた紙袋は、きっと彼と共に部室へと行ってしまう。そうしたらわたしにはもう手渡しという手段しか残されていないが、これだけ臆病な自分に手渡しなどという芸当が出来るはずもない。きっと涙を飲んで帰宅するだけになるだろう。


だからこれが、最後のチャンスなのだ。


移動教室の前、戸締まりの確認をするから、なんて委員長らしい発言でこじつけて友達を先に行かせた。教室にはわたし一人きりになって、戸締まりの確認をする風に、窓際の彼の席へと近づいた。一人きりだというのに、包みはセーターの下に隠すように持った。情けなくて少し笑った。


そっと、気付かれないように。簡単なことよ。そっと紙袋の中へ。本当に簡単なこと。


バクバクと心臓が煩い。指先は震えるほど冷たいのに、顔は赤く火照った。こんなにも臆病なわたしを、誰が見てくれると言うのだろうか。情けなくって、涙が出そうだった。


神様、友達を辞めたい人がいるのです。





うざい中西とかわいそうな三上
2011/12/12




彼女が風邪を引いた。文字にするとこんなにも簡単なことなのに、どうして胸がざわつくんだろう。右斜め前の彼女がいるはずの空白を見るだけで、締め付けられて苦しい。つらい。



「ねぇみかちゃん」
「……何だよ」
「あいつ購買のプリン大好きだったよね」
「だから?」
「今ひとりぼっちで寮にいるんだろうなあ、かわいそうに」
「……」
「そういえばもうすぐ昼休みだねー」
「そうですね……」
「プリン買って行ったらどんな顔すっかなあー。『ありがとう、しゅーちゃん大好き!』とか言って抱きついて来たりして!!どうしよう!」
「お前の頭だよどうかしてんのは」
「俺今から行ってくるわ!」
「は?」



みかちゃんに止めるスキも与えずに、俺は購買へと走り出した。寮で一人きり寝込んでいる、like a bunnyな俺のhoneyの為に。







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ちなみに彼女は彼を『中西』と呼びます。空回り乙





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