お披露目



「いよォ〜〜エマ!待ってたぜ!」

「早く来いよ、今日の主役!」

「……なに、これは?」


ショッピングから帰ってきたエマを迎えたのは、クルー達が盛大に鳴らしたクラッカーだった。
呆気にとられたエマはしばらくその場に立ちつくし、やっと言葉を発した。


「なにって、お前の歓迎会だろ」

「おれ達は仲間が増える度に、こうして盛大に祝うんだよ」

「ぶっちゃけ酒飲みたい口実だけどな!」

「わざわざ……いいのに」


エマが遠慮する素振りを見せるが、いいからいいからと肩を組まれ席へとエスコートされた。


「え、あの、ちょっと……えーっと、」

「おれはシャチ、よろしくな!」

「よろしく、シャチ。ってそうじゃなくて……!」

「よーし皆ァ、ジョッキ持ったかァ!?」


エマを無視してシャチが乾杯の音頭を取り始める。
行き場を失った手は、しぶしぶ目の前のジョッキの持ち手を掴んだ。


「今日から新しく仲間になったエマに、カンパ〜〜〜イ!!」


ガチャガチャとジョッキが合わさる音が響いた。

エマはクルー達の飲みっぷりを眺めてから、自分もジョッキに口をつけた。
さすがは海賊、良い飲みっぷりだと感心した。


「ほら飲め飲め〜〜!!」

「よーし!誰か余興しろ!」

「ギャハハハハ!」


「……品がないわ」


エマは席から離れずに、ちょびちょびとお酒を嗜んでいた。
目線だけで辺りを見渡せば、端の方にあの男を見つけた。


(一応参加はしてるんだ……)


ローはジョッキで酒を飲みながら、もう片方の手で本を読んでいた。
足を組んで本に視線を落としている姿が、なんとも絵になる。


「ムカつく」


ぽつりと呟いた言葉は、このどんちゃん騒ぎにかき消されたはずなのに、ふとローは顔を上げてエマを見た。
エマは少し驚いて、目を丸くした。
まさか、どんな地獄耳なんだと。

少し間が空いて、後ろから声を掛けられハッとする。
声を掛けてきたのはペンギンだった。


「飲んでるか?」

「ええ、いただいてるわ」

「いっぱい飲んで食えよ!なんせ今日の主役はお前なんだから!」

「うん、ありがとう」


それを皮切りに、わちゃわちゃとエマの周りに人が集まってきた。
はじまったのは、エマに対する質問攻めだ。


「お前、生まれは?どこ出身?」

「生まれは、偉大なる航路グランドラインだけど」

「へぇ、!そうなのか〜〜」

「なー、お前の能力ってどんなの?この前キャプテンの技使ってただろ?」

「あぁ、それは……」


これから一緒に戦う仲間達なのだ、能力については説明しておいた方が良いだろうとエマも考えていた。

ざっと口で説明した後、見せた方が早いかとペンギンに声を掛ける。


「ペンギンの手、ちょっと借りてもいい?」

「おれの手?いいけど」


お礼を一言言ってペンギンの手に触れる。
そして能力を発動された。


"共有"・"痛み"シェア・ペイン


だが特にペンギンに変わった様子は見られない。
ペンギンは不思議そうにエマを見た。


「今、ペンギンは私と痛みを共有している状態。今どこかに痛みは?」

「ない」

「じゃあこれは?」

「い、てててて!え、手の甲がいてェ!!」

「それが、今私の痛みを共有している状態」


エマが自身の手の甲をぎゅっと強くつまむと、その痛みがペンギンに共有される。
お互いに手の甲に痛みを感じている状態だ。


「じゃあ離すわね……痛みは?」

「……あ、消えた」

「そういう事。他にも、"動作"アクションとか、ね」

「うわっ!勝手に腕が動いた!」

「ペンギンとエマ、同じ動きしてる……」

「記憶とかも共有出来るわよ。逆に、相手の記憶を共有する事もね。どちらの何を共有するのか、それを決めるのは私」

「へ〜〜、作戦を伝える時とか便利だなァ」

「複数人に共有する事も出来るのか?」

「出来るけど、一人一人触れる必要があるから、切羽詰ってる時とかは無理ね」

「へェ……」

「じゃあ、キャプテンの能力も、これで"共有"したって事?」

「そう」

「おれ、エマがキャプテンの技使う所もう一回見たい」

「え?」

「キャプテンの能力、使ってみてよ。この船、キャプテン以外能力者いないんだ」

「え?」


能力を共有するには、能力を発動し、相手に"触れる"必要がある。
エマが、ローに、触れる必要が。

できれば断りたいが、ベポは目を輝かせて「お願い」とエマに手を合わせる。
その無垢なお願いを無下にする事は、できなかった。

エマは小さくため息をつくと、席を立ち、本を読みふけるローの前に立つ。
ローは顔を上げると、なんだ、と口を開いた。


「ベポが、私があなたの能力を使うところが見たいって……」

「それで?」

「……っ、能力を使うには、その相手に触れる必要があるの。だから、その……」


エマは片手で顔を抑えながら、もう片方の手をローに突き出す。


「ちょっと、触れても、いいかしら……」


語尾が小さくなりながらも、エマは言葉を振り絞った。
少しの間が開いて、ローは黙って自身の手をエマに向けた。


「え……」

「なんだ、触れる必要があるんだろう」

「そう、なんだけど……いいの?」

「そりゃなんの許可だ。触れる事か、能力を使う事か?」

「まぁ、色々と」

「別に構わねェ。今後、そういう機会も増えるだろうしな。おれも把握しておきたい」

「そう…それじゃあ……"共有"シェア


能力を発動し、ローの手にそっと触れた。


"能力"アビリティ


エマが唱えると、ポゥ、と小さな光がエマの手に灯った。
そしてそのまま"ROOM"を唱え、シャンブルズで自分とベポの位置を入れ替えた。


「おお、すげェ!」

「本当にキャプテンの技だ!」

「……おい」


それまでわーわーと盛り上がっていたのが、ローの一声でしんと静まる。


「それは、何度でも使えるものなのか?」

「……能力を発動して、解除するまでの一回きり。もう一度使いたいなら、再度相手に触れる必要があるわ。それと、他の能力を共有しているうちは、私自身のシェアシェアの能力は使えない」

「なるほどな」

「あとは…そうね、ちゃんと使い方を理解している能力じゃないと、共有しても無駄。扱いが難しい能力もダメね」

「あー、それもそうだよな」

「でも、キャプテンの技はすぐ使えたよな」

「あの時は必死だったのよ」


そうしてある程度の質問を終えると、各々散らばり宴を再開させた。
その場に残ったのは、エマとローの二人だけだ。


「必死だったのか、あの時」

「ええ、おかげさまで」

「ヘェ」


それだけ聞いてローは再び本を開いた。
なんなんだと思いながら、エマも飲み直そうと席を立とうとした。


「お前のその能力で、急所を突いたら相手はどうなる?」


ぴたりと動作を止め、それからエマは持ち上げた腰をゆっくり下ろした。
そしてローに向き直る。

ローの目は、エマを捉えていた。


「そりゃ、死ぬでしょうね」


あっけらかんとエマは答えた。


「急所をやられる痛みだもの、大抵は死ぬんじゃない?ただ、共有するのは痛みだけだから、痛覚がない相手には通用しないかもね。それこそ、新世界の化け物じみた奴等には耐えられてしまうかも。というか、私自身もどうなるか分からないわ」

「…………」

「でも、痛みじゃなくて、外傷なら……」


エマはおもむろに腰につけている短刀を抜いた。
そして能力を発動し、ローに触れ、ピッと指に小さく傷を作った。


"外傷"トラウマ


エマの指からすべり落ちるかのように、真っ赤な液体が床にぽたりと落ちた。
同様に、ローからも血が流れる。
指にはしっかりと、エマと同じ傷ができていた。

ローは目を見開き、それを見ていた。


「さすがに、急所に穴が開けば痛みもくそもないでしょ。即死よ。相手がちゃんとした生物ならね」


ぺろりと血を舐めとればすでに指の傷は消えていた、もちろん、共有しているローも。


「道連れって事になるから、私も死ぬけど」


はは、とエマは笑う。
この男は、この力をどう思ったのだろうか。


「この力を使えなんて言わないでね、船長」