共通点



「エマ〜〜!」

「ルフィさん!おはようございます」

「おう、おはよ!」

「早いですね、他の皆さんは?」


エマがそう聞けば、昨夜船に戻った後に皆で飲み直したらしく、まだ皆寝ているそうだ。


「腹減って起きた。でもサンジもまだ起きてねぇし、だからここにきた」

「なるほど」


ルフィは重要な部分だけを見事簡潔に述べた。

という事は、船長様は朝食をご所望の様だ。
エマは顎に手を当てて頷くと、ルフィに向かって口を開く。


「じゃあ今から朝食作りますね!食材獲りに行ってきますけど……一緒に行きますか?」

「何獲るんだ?」

「魚です」

「海まで行くのか?」

「いいえ」


エマは首を横に振って外に出る。
ルフィが落ちた崖に立って海を見下ろすと、空気をこねるように手を動かした。


「何してんだ?」

「ここから魚を獲ります。行きますよ……それ!」


声を共にエマは両手をぐんっと上に上げる。
すると海から海水が、大きな球体となって上がってきた。
その中では大小様々な魚が海の中と同じように泳いでいた。

エマはそれを操りながら予め用意しておいた桶にそっと下し、球体は崩れて元の水形に戻った。


「おぉぉおお〜〜〜!!」

「大量ですね!」

「すげーなお前の能力!これがあればいつでも食べ放題だな!」

「あはは、そうですね」


ルフィは桶で泳ぐ魚をつまみ上げ、よだれを垂らし、そしてぐぅ〜〜っと朝食を急かす様に、腹の虫がなった。
エマはその様子を見て思わずぷっ、と笑みをこぼす。


「ふふ、ちょっと待っててください」

「おう!」


採れたての食材で作った料理を囲み、二人は向き合って食事をとる。
ルフィの食欲にはやっと慣れてきたところだが、これを毎日作ってるサンジには頭が上がらないと思った。


「めちゃくちゃうめェなこれ。おかわりあるか?」

「ありますよ!ルフィさんのためにいっぱい作りましから」

「おかわり!」

「はい、ただいま」


くすくすと笑って皿を受け取り席を立つ。
すると後ろから「エマは母ちゃんみてーだな!」とルフィが言った。


「……ルフィさんのお母さんって、どんな人なんですか?」

「ん?知らねぇ!会った事ねぇ!」

「え、じゃあお父さんは……」

「それも知らねぇ!おれを育ててくれたのはじいちゃん…いやダダンか?ん?」


ルフィはどんどん難しい顔をして考え込んでいくが、少しすると「ま、いっか」と食事を再開させた。


「ルフィさんのご家族、すごく興味ありますね……」

「ん?そうか?」

「はい」

「そういえば、お前母ちゃんはいるって言ってたけど父ちゃんは?」

「私もわからないんです。母はどっか旅でもしてるんじゃないかーって言ってましたけど」

「ふ〜〜ん」


ルフィとの会話で、自分にも父親がいるんだという事を漠然と思った。
父親には会った事がないし、母親も特に喋る事はしなかったので特に気にしなかった。


「そっか、私にもお父さん、いるんだ」


ぽそりと呟いた言葉はしっかりとルフィの耳にも届いたようで「変な奴」と笑われた。
ルフィに笑われるのは、不思議と嫌な気持ちにはならなかった。


「ルフィさんは、なぜ海賊に?」

「海賊王になるため!!」


手に持っていた食器をドン、と置きニヤリと笑ってそう言った。


「海賊王……」

「おう!そのためにはつえー奴等を全部ぶっ倒さないといけねぇんだ!仲間を集めて、いつかシャンクスだって超えてやる!」

「シャンクスって、あの赤髪のシャンクス……ですか…?」

「なんだ、知ってんのか?」

「知ってるも何も、大海賊じゃないですか。知らない方が変です」

「ししし、そっか、やっぱ有名なんだなシャンクス。この帽子さ、預かってんだシャンクスから」

「し、知り合いなんですか!?」

「? おう」

「あの赤髪さんと繋がりがあるなんて…すごいですねルフィさん」

「そういえばエマ、シャンクスと同じ髪の色してるな

「あそこまで見事な赤色ではないですけどね」


エマは、肩よりも少し長い髪を一つまみして見つめた。
彼の赤よりも淡く、比べるとなんとも中途半端な色だと思う。


「そういえば、一度だけこの島に来たことがあるんですよ、赤髪さん」

「ええ!?本当か〜〜!?」

「あの時はさすがに死ぬ覚悟しました、敵うはずもないですから」

「良い奴ばっかだっただろ?」

「はい、すごくフレンドリーな方ですよね!宴にも参加させて頂いたり、楽しかったなぁ……」

「そっか、おれも会いてェな〜〜」

「私も、もう一度会いたいです」


それは紛れもない本心だった。

母親が死んで、一人ぼっちになった時にシャンクス達はこの島に訪れた。
エマの話を聞いて慰め、宴を開き、冒険の話を聞かせてくれた。
沈んでいた心を癒してくれた。

シャンクスは、落ち込むエマに生きる希望を与えてくれた、まさにヒーローだった。


「じゃあ一緒に行くか?」

「え?」

「おれの仲間になれよ!おれは海賊王になるから、この海を進んで行けばそのうちシャンクスにも会えるだろ?だからおれの船に乗れ!一緒に行こう!」

「え、ええ…!?」


驚くエマに対し、ルフィはししし、と笑みを浮かべるばかりだ。
ぐるぐると様々な想いがエマの脳内を駆け巡る中、当の本人は外から聞こえてきた仲間の声に反応して外へ出て行ってしまった。


「どうしよう……」


やっと絞りだした言葉は、やはり困惑していた。