出会い



ジュウジュウと香ばしい香りをさせて肉が焼ける。
その上に一つ卵を乗せてフワフワのパンに乗せて、特製のソースをかけた。
その間に沸騰した鍋をおたまでくるくるとかき混ぜる。
中のスープは具材は味が染み込んで、キラキラと輝いているようにも見える。


「うん、良さそう」


満足気に頷いてカップを用意したところで、騒がしい音が外から聴こえてくる。
窓から見える海を見渡せば、麦わら帽子を被ったドクロマークの旗が揺れる船、海賊船だ。

すぐさまコンロの火を止め、急いで家を飛び出した。

慣れた道を走り一直線に下る。
人の群れが見えた頃には両者はすでに対立していた。
村の男が、何やら訴えている様子のオレンジの髪色をした女の肩を突き飛ばすのが見えた。
その瞬間、後ろにいた金髪の男が鬼のような形相で村人に向かう。

村人に向かって蹴りが飛んでいくのが見えた時、強く大地を蹴った。


「んっ…!」

「ア゙ァ!?誰だ邪魔しやが、って……」


両社が衝突した衝撃で、ブワリと周りの砂埃が舞った。
誰かが少女の名前を呼ぶ。

自分の蹴りを受け止められたサンジは、相手が女だと気が付くとすぐに焦ったように足を降ろした。


「あ、あぁぁぁあああぁぁああ!?おれは!!!麗しいレディに何て事を!!」


サンジの蹴りを受けた腕はビリビリと痺れ感覚が麻痺している。
一瞬で自分が敵う相手ではないと悟る。
いや、能力を使えばあるいは――


「……あなた達、麦わらの一味ですよね。この島に来た目的はなんでしょうか」


なけなしの力を振り絞って戦う姿勢を取る。
少しばかりの沈黙をやぶったのは麦わら帽子を被った男の一言だった。


「メシを食いに!!」

「……え?」


「だからメシ食いに!」とルフィは仁王立ちをした。

予想外の返答にぐっと力を込めていた拳を降ろしていく。
言った本人はそれはもう真剣な顔をしているものだから、拍子抜けしてしまう。
すると黒髪の長身美女と、先ほどのオレンジ色の髪の美女が一歩前に出て説明を始めた。


「私達はログを辿ってきたの。ログが溜まればすぐに出航するわ」

「ここでは旅の物資を調達するだけ、何も悪い事するつもりはないの」

「そう、ですか……」


よかった、と安堵の息が漏れた。
チラっと村長の顔を見ればすでに答えは決まったようだ。
頷いてみせると村人達は各々帰って行った。


「ごめんなさい、この島は昔海賊に襲われた事があって。だから……」

「ししし、気にすんな」

「あァ、海賊が歓迎されねェなんて当たり前だ。慣れてる」

「ありがとうございます。物資の件は私から村長に交渉しますから、一先ず付いてきてもらえますか?」


そう言えば、ルフィ達は快く承諾した。
こんなに素直な海賊がいるのかと少女は思った。
少女を先頭に道を進んで行くと、ぴょんっと跳ねるようにルフィが隣を歩いた。


「なァ、お前名前は?」

「あ、申し遅れました。私はエマです、よろしくお願いします」

「エマな。おれはルフィ!よろしく」

「はい、知ってます。先日の新聞に手配書が挟まってましたから」

「へーそっか。あ、こいつ等がおれの仲間だ」


ルフィがそう言えば一人一人挨拶をしていく。
チョッパーが喋った事に驚いて、思わず鹿が喋ったと呟いて怒鳴られたのは言うまでもない。
一通り自己紹介が済んだところで丘の上に一軒の建物が見えた。


「私の家です。申し訳ないんですけど、滞在中はここか船でお願いします」

「いいの?」

「皆さんなら構いませんよ」

「そう?じゃあ遠慮なく」


エマがそう言えば、ナミがにこりと笑って椅子に腰かけた。
それを合図に各々が開いているスペースに腰を下ろしていった。


「うおーーー!!メシーーー!!」

「てめぇクソゴム!何勝手に人様の家のキッチンに入ってんだ!!」

「そうだ、お昼作る途中だったんだ。皆さんまだなら一緒に……と思ったんですけど、量足りないですね」

「そだな、足りねェ」

「「「少しは遠慮しろ!!」」」

「ちょっと待っててもらえますか?」


そう言って外へ出て家の裏へと回る。
そこは小さな農園になっていて、色とりどりの野菜や果物が成っていた。


「すげー!エマが作ってんのか?」

「わっ」


突然後ろから声を掛けられ肩が揺れた。
振り向けば人懐っこい笑顔を浮かべてルフィが覗くように立っていた。


「はい、そうなんです」


取れたてのトマトを軽く拭いてルフィに手渡す。
ルフィは大きく口を開けるとそれを丸々放り込んだ。


「あんめェ〜〜〜〜〜!!うめェ〜〜〜〜〜!!なんだコレ!!」

「ふふ、おいしいでしょう?」

「もっと食っていいか!?」

「どうぞ」


許可を出してしまえばルフィは次から次へと平らげていく。
赤と緑で彩っていたトマト畑は、いつも間にか緑一色となっていた。


「すごい、なくなっちゃった」

「エマ!次はあっち食っていいか!?」

「え、あ……」

「てめェクソゴム!!エマちゃんが愛情込めて作った食いもんを全部食い散らかすつもりか!!」

「ぐぇっ!!」


横から来た爆風と共にルフィの身体が吹っ飛んだ。


「さ、サンジさん」

「悪いエマちゃん、あいつの食欲は海王類並で」

「いえ私は大丈夫ですけど、あの、ルフィさんは大丈夫なんですか」

「あァ、あいつは……」

「何すんだサンジーーーー!!」

「あ」

「ほらな」


ズカズカとルフィは怒りながら歩いて戻ってくる。
土で汚れたルフィの服をエマは手でぱしぱしと落としてあげた。


「エマちゃん、手伝うよ」

「え、いいんですかサンジさん」

「も〜〜〜ちろんさっ!愛しのエマちゃんのためなら〜〜!!」

「あれ、エマ怪我してるぞ」

「え?」


ここ、とルフィに指差されたのは、先ほどサンジの蹴りを受けた箇所だった。
身に覚えのあったサンジはエマの手を取ってこう言った。


「責任取ります!!!!!」

「え?」

「わはははは!おんもしれぇな〜〜〜サンジ!」


地面にめり込む勢いで土下座したサンジに、エマは丁重に断りを入れた。

「あとでチョッパーに見てもらえよ。あいつ医者なんだ!」

「え、チョッパーくん、ペットじゃないんですか!?」


エマから思わず出てしまった言葉に、二人は腹をかかえて笑った。