すきだいすきあいしてる



「サンジー!メシィーー!!」

「サンジくーん!買い物付き合ってくれる?」

「さぁんじくぅーーーん!!聞いてくれよォ!!」


この船のコック、サンジくんは、とっっっても人気者だと思う。

そりゃ、料理が出来て優しくて面倒見も良くて、強いし、おまけにキラキラな金髪がよく似合うし素直にかっこいい。
女の人には……ちょっぴりアレだけど、それを差し引いてもサンジくんという人は、皆に愛される存在なのだ。

分かる、とっても分かるのだけれど、サンジくんの彼女、という私の立場からすれば少し複雑なのが正直なところ。
私も一味の皆の事が大好きだし、皆がサンジくんを想うその気持ちも同じなのも分かってる。
え、そうだよね、ナミ、ロビン!
あの二人がサンジくんを好きだなんて言ったら、私じゃ勝ち目がない。

つまるところ、私は一味の皆にヤキモチを妬いているのだ。


「そんな心の狭い自分がイヤ……」


甲板のベンチに座ってそんな事を考えていれば、突然にゅっと視界に麦わら帽子がいっぱいに広がった。


「なーーにブツブツ言ってんだ、エマ」

「ルフィ……ごめんね、仲間にこんな失礼な気持ちを抱いてしまって。ルフィの事も私は大好きだよ」

「なんかよく分かんねーけど、おれもエマの事はスキだぞ」

「……ルフィ…!」


ししし、と笑うルフィに思わず抱き着いてしまった。
なんていうか、我らが船長はこう……癒し系?太陽のような存在?実家のような安心感?なんでもいいけど本当に人を魅了する不思議な男だ。


「でも、サンジくんの事だけは、ルフィにも譲れない!」

「サンジ?サンジがどうかしたのか?」

「なんでもないよ!!」


いやもう自分でもよく分からない、譲るとか譲らないとか、そもそもルフィはそんな気持ちでサンジくんが好きなワケじゃないのに〜〜!え、そうだよね、ルフィ?


「サンジもエマも、おれの大事な仲間だぞ!」

「はぅッッ!」


くうう、なんて眩しい笑顔なんだ。
もう何もかも浄化された気分。


「サンジに言いてェ事があるなら、堂々と言えよ。あいつならちゃんと分かってくれるだろ?」

「ルフィ……」

「エマの気持ち、素直に言ってみればいいじゃねェか!」


自分の気持ちを素直に、かぁ。
そうだね、サンジくんだって超能力者なワケじゃないし、言わなきゃ伝わらないよね。
一応私はサンジくんの彼女、だし、少しくらい我儘言ってもいいのかな。


「……ありがとう、ルフィ」

「おう!」

「私、サンジくんのとこ行ってくる!!」

「ししし、おう!」


サンジくんなら、きっとまだキッチンにいるはず!
素直に、素直に言ってみよう、サンジくんの時間を私に下さい!って。


「サンジくん!」


意を決してキッチンの扉を開けた。
すると私に向いた2つの視線、目的の人物とオレンジ色の髪色がトレードマークの航海士、ナミだ。


「はぁ〜〜〜、美男美女ッッ」

「え?」

「ちょっと、どうしたのエマ?」


お揃いの驚いた表情を向ける2人、ダメだ、悔しいくらい絵になるしお似合いだ。


「おれに用かい?」

「え、あ、ああ!ううん、なんでもない!何か手伝える事とかないかな〜って思ったの!無さそうならいいや、お邪魔しました!」

「え?ちょっと、エマちゃん!?」


サンジくんの私を呼び止める声を無視して、キッチンを出てきてしまった。

うわ、うわぁ……分かってはいたけど、私って本当に自分に自信がない、ダメな奴。
でもでもでも、自信があってもあの光景を見たらショックを受ける気がする。
それくらい、ナミとサンジくんはお似合いだった。

彼女の、私よりも―――


「エマちゃん!」


ぽろり、と涙が一粒落ちた所で、肩を叩かれる。
咄嗟に振り向いてしまって、彼の表情を見た時に後悔した。


「んなッ!泣いてるのかい!?どこか痛い?」

「な、なんでもない!ちょっと目にゴミが入っちゃって……それより、ナミはいいの?お話してたんだよね?」


精一杯に笑顔を作るけど、変じゃないかな、気づかれてないかな?
こんな情けないところは、あまりサンジくんに見られたくない。


「恋人がわざわざ訪ねてきてくれたんだ。それに、ナミさんにも追いかけてあげてって言われたよ」

「ナミ……」


ああ、もう本当に情けない。
自分に自信がないせいで、勝手に大事な仲間にヤキモチを妬いて、好きな人にも迷惑かけて。
必死に我慢してた涙腺が、一気に崩壊した。


「う、うえぇぇん、ごめんっ、ごめんねサンジくん」

「大丈夫だよ。ゆっくり深呼吸して、大丈夫。何かあった?おれに話せる事かい?」

「う、うん……っ、うん…!」


手のひらで乱暴に涙を拭けば、それを止めてサンジくんが優しく拭ってくれた。
それがまた嬉しくて、ぽろぽろと涙が出続けてしまう。


「ごめんなさい、ただっ、私が皆にヤキモチ妬いてただけなの。サンジくんが素敵な人なのは分かっているけど、それでも、私を一番に見て欲しかったの。だってサンジくんの事が好きなんだもん……っ、我儘でごめんね」


もう自棄になって、私はわんわん泣きながら全部言ってしまった。
それに対するサンジくんの返事はなく、呆れられちゃったかな、と彼を見た。


「…………」

「さ、サンジくん……?」

「……え、いや、ごめん」

「ごめんなのは私の方だよ、迷惑かけて、ごめ――」

謝罪の言葉は、最後まで言えなかった。
なぜなら、突然腕を引かれて彼の胸の中に閉じ込められてしまったから。


「あー……可愛い恋人が泣いてるってのに、おれって奴は……」

「サンジくん…?」

「嬉しくて嬉しくて、ニヤけるのを抑えきれねェんだ」


私の肩に顔を埋めて、サンジくんがすり寄ったきた。
その瞬間、一気に愛おしいという気持ちが溢れてきた。


「サンジくん、すき、だいすき」

「おれは愛してるよ。マイプリンセス」


ルフィの声でここが甲板だと気が付いて私が慌てふためくまで、あと5秒。



すきだいすきあいしてる 〜fin〜