アイロニー
カカオトナル←ヤマト
勢いよくあおった酒を一気に飲み干した。
そのまま机にうつ伏せになり、またやけ酒を繰り返す。
どこの酔っぱらいだよ、全く。
「…たいちょー?」
「ん?…ハイハイ、ここにいますよ。」
上忍になり、次期火影とも噂される木の葉を救った英雄。
そんなナルトが目の前で太刀の悪い酔っぱらいになってると言ったらどれだけ僕の気苦労は減るのか気が知れない。
酒をまた飲み干して、僕を呼ぶ舌足らずなナルトの声。
本当、無自覚は怖いよ。
「隊長、聞いてくれんの?」
「はいはい、何なりと。」
またカカシ先輩の話を今夜も聞かされるのだから、堪ったもんじゃない。
ナルトとカカシ先輩が恋人同士になったと聞かされたのは、ナルトが十六歳のとき。
毎晩女をとっかえていたあのカカシ先輩が、なんて思ったことだった。
確かにナルトは魅力的だった。
同性だということを突破って見れる程に。
それだけ僕もナルトには惹かれていた。
けれど、やはりカカシ先輩はカカシ先輩だったんだ。
傷ついて傷ついて、ぼろぼろになったナルトを今まで何度見てきたことか。
その度に何度もカカシ先輩に詰め寄り、何度ナルトを救いたいと思ったことか。
けれど、やはりナルトはナルトだった。
それから五年。
そんなナルトは今日もやけ酒をあおるのだ。
いつの間にか習慣付いてしまったこの風景。
初めの頃、ナルトの様子が明らかにおかしくて相談に乗った時。
「俺ってば、先生のセフレ?って言うの?多分…そんな感じなんだろうな…。止めてって言っても無理矢理だし、痛いだけだし…。俺が先生を好きでも、先生は俺なんて好きじゃねぇんだ、」
苦しそうに、笑うナルト。
そう聞かされた時には、聞かされたこちらが胸を締め付けられたものだった。
それからは、僕がナルトの話を聞き、ナルトは辛いことを僕に吐き出すのだ。
少しでも、ナルトが楽になればと思いながら。
ナルトの瞳からぽろぽろと涙がこぼれて、机に小さな染みをつくる。
ぎゅっ、と握られた手に爪を立ててこらえる姿は痛々しい。
「…ナルト。君は、」
「隊長が正しかったんだってば…」
「え、」
「……俺がいくらカカシ先生を好きでも、カカシ先生は…俺を見てないんだってば。」
もう、辛いんだってば…。
そう消えるような声で呟く。
とめどなく溢れる涙に、もう僕は我慢出来なかった。
あるのはカカシ先輩に対する憤りだけだった。
「…たい、…ちょ?」
「…ナルト、もういいんじゃないかい?」
「なにがっ…、んぅ、」
無理矢理ナルトを抱き寄せて唇を塞いだ。
酔いも手伝い、ナルトは抵抗もせず甘んじて受け入れていた。
「…っあぁ、……ヤマト隊長っ…んく、」
「…もう、いいよナルト。」
「……なに、がっ…」
「辛いなら、逃げ出せばいいじゃないかい?」
ナルトに言った言葉か、ナルトを想う僕に言い聞かせた言葉か、分からないけれど自然とそんな言葉を口にしていた。
「…好きだよ、ナルト…ずっと好きだった。」
「ヤマト隊長…。」
抱き締めたナルトの腕がおずおずと僕の背中に回された。
それから、どちらからともなく、唇を塞いだ。
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