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火影邸へ向かう木ノ葉通り、俺たちの後に着いて来るナルト先生はしきりにきょろきょろと辺りを見回すから、ただでさえ目立つ色彩なのに余計に目立っていた。
それにナルト先生は次期火影も噂されている凄い人だし、里の英雄でもある。
そんな人が体は小さい、落ち着きが無い、普段と違う、となると回りの人達も何事かとこちらを見て来る。そんな視線に気づいたのか、ナルト先生は顔を強張らせ視線を下に向けた。
それは何処か見覚えのある先生の仕草だった。
気になってナルト先生の手を繋ぐと驚いた顔をされたけど、お構いなし。
ぎゅっと手を握ると、にかっと歯を見せて笑ってくれた。その笑顔はよく知るナルト先生のもの。やっぱりこの人はナルト先生だよ。
そんな俺たちの背後から、聞きなれた声が俺と先生を引き止めた。

「ナルトさん?」
「イ、イルカ先生ぇ!」

その声にがばっと反応して、助かったと言わんばかりの声音と表情を浮かべるナルト先生。そんな先生に対して俺は、げっと声を上げた。
だって仕方ないでしょ、こいつ何かとナルト先生と接点持ちたがるし、俺にナルト先生に迷惑かけるなよってうるさい。
にしても、さっきナルト先生がイルカの事をイルカ先生って呼んだことに俺と呼ばれた本人は頭にハテナマークを浮かべていた。

「え…あの、ナルトさん?」
「助かったってばよイルカ先生!俺、俺…何が何だか分かんねぇんだ。朝起きて任務の集合場所に行ったらサクラちゃんはちっこいし、サスケがいるし…カカシ先生は居ねぇし…やっぱ夢かなぁ…」
「えっと…あの…」

明らか混乱してるよ二人。会話が噛み合ってないし。
というかカカシ先生って何、てか誰?カカシって俺だよね?でも先生って何?あぁこっちまで混乱しそうだよ。

「もう、ナルト先生!さっさと綱手様の所へ行きますよ!」
「ふぇ、あ、ごめんごめん。」
「じゃ。」

ぽかーんとして状況を飲み込めないイルカを残して木ノ葉通りを進む。ってそんだから万年中忍なんだよ。
さっきよりも強くなると先生の手を握った。
俺よりもイルカにあんな嬉しそうに話しかけるから、嫉妬しちゃうでしょ!ただでさえ俺とナルト先生は年が離れてるから不安で仕方ないのに!

 * * *

「あぁああぁん!?もういっぺん言ってみなナルト!」
「綱手様、もう伸びてます…」
「カカシもアタシの拳骨喰らいたいのかい!?」
「い、いえ!」

ナルト先生は火影執務室に入り、綱手様を見るや否や「どうなってるんだってばよ!綱手のばぁちゃん!」と言った。綱手様をばぁちゃんと言った。その瞬間、その場は凍り付いた訳だけど。
後は今の通り。綱手様に怪力拳骨を一発入れられたナルト先生は完全に伸びてる。
その代わりに俺たちは今までの事を綱手様に報告した。

「ふむ…時空間忍術でナルトの時間だけが巻戻ったと言う線はなさそうだな。」
「え、どうしてですか?」
「ナルトは少なくともアタシをばばあ、と呼んだことはない。」
「…あはっはは、」

「ならどういう事だ。」
「うちはのガキ、黙ってな。敵の変化と言う線もないだろう。日向の者に白眼でナルトのチャクラの流れを見てもらったが、何もない。こいつはナルトだよ。」
「…なら、」

ドバーン!と大きな音を立てて執務室の扉が開いた。
現れたのは綺麗な金糸。意識を戻したナルト先生が綱手様に何か言いたげに入ってきた。

「ばぁちゃん!いきなり怪力拳骨はないだろ!」
「…」
「それに俺がばぁちゃんって呼ぶのはいつもの事だってばよ!何を今更ばぁちゃん呼ばわりされて怒るのか意味分かんねぇってばよ!」

あ、やばい、また冒頭の繰り返しになると思ったけれど、そこでこの場にいた皆が矛盾に気づいた。
ナルト先生が綱手様をばぁちゃんと普段から呼んでいる?いや、それはない。
その矛盾に綱手様の眉間に皺が寄る。

「ナルト、今からお前に簡単な質問をする。」
「へ?なんでいきなり…」

そこから綱手様の質問攻めが始まった。まずは簡単な事から。

誕生日は10月10日
好きな食べ物、一楽のラーメン!
嫌いな食べ物、生野菜…
得意な術は、螺旋丸、影分身、仙術も使えるってばよ
所属部隊は、第七班
憧れは四代目火影
師匠は自来也

どれもナルト先生と同じ。けれど次の質問から徐々に矛盾が現れ始めた。

「第七班は、隊長をカカシ先生。今は代理のヤマト隊長、で俺にサクラちゃんにサイだってばよ。」
「…ほう、」
「サスケは今家出中だってばよ。」
「ぷ…あははは!サスケは家出か!」
「家出ってレベルじゃないけど…ま、そんな所だってばよ。」

俺たちの知るナルト先生とは違う答え。知らない人の名前。
その事に違和感を覚えたが、ナルト先生のサスケは家出中と言う言葉に俺も含め皆が爆笑していた。本人を除いて。
一頻り笑った後、突然綱手様の表情が変わった。そして低い声でナルト先生に問うた。

「四代目火影、波風ミナトはお前の何だ?」
「…四代目?四代目は…俺の、父ちゃんだってばよ…、最近まで知らなかったけど。」
「……………、そうか…」

シズネと俺以外はどうして綱手様がこの質問をしたのか分からないだろう。
俺はナルト先生から打ち明けられたから、知ってるんだ。
四代目火影が、ナルト先生のお兄さんってこと。
このナルト先生の答えにも驚いたけどね。
ナルト先生の答えに綱手様もとうとう分からない、と言いたげな表情を浮かべた。

「火影様、失礼します。」

そう言って入ってきたのは、テンゾウだった。テンゾウの顔を見てナルト先生は「あ、ヤマト隊長…」と小さく呟いた。ヤマトってこいつの事だったんだ。あぁ、そう言えば俺たちの班隊長代理のときはそんな名前だったか。

「綱手様、これを見てください。ナルトの部屋から持ってきたのですが…」
「ちょ、お前!何俺とナルト先生の愛の巣に勝手に土足で入ってる訳!」
「カカシは黙ってな!」

あいつ!今度覚えてろよ!いくら暗部時代にナルト先生とあんなことやこんなことしてたからって今、現在進行形で恋人なのは俺なのに!
今すぐにでもテンゾウに雷切をお見舞いしてやりたい。
ともかく、テンゾウが差し出したのは真新しい巻物と術式が書かれた札、どちらもよくナルト先生が時空間忍術を使う準備時に使用するものだ。

「見たところ、これは僕が今まで見たことも無い術式です。これは仮説ですが…」
「何だ、言ってみろ。」
「ナルトはよく新術を開発していました。僕がナルトの術で知らないものはありません。ですから、これは新術の実験、もしくは研究途中で何らかの形で失敗したのか、ヘマをしたのか…」

「テンゾウ、お前後で俺がシメてやる。」
「ちょっ!落ち着けってカカシ先生!どうどう…」

聞かなきゃよかった。何だよ自慢したいのか!やけにナルト、を強調しやがって!
もう一人のナルト先生が俺を宥めてなかったら、確実に雷切をお見舞いしてる所だ。
テンゾウは俺を見て呆れたような、大人の余裕ってやつをかましてた。今に見てろ。
そのテンゾウがもう一人のナルト先生を目にしたとき、その余裕も吹っ飛んだらしい。
ばん!と机に巻物と札を勢いよく置いて、ナルト先生に駆け寄り手を取った。

「僕とやり直そう、ナルト。」
「…はぁ?…何だよヤマト隊長まで、気持ち悪いってばよ。」

ナルト先生、最高です。俺はこのテンゾウの顔を一生忘れないだろう。
もう一人のナルト先生は本当に顔を青くしていた。
ふん!と大袈裟にテンゾウが掴んだナルト先生の手を俺が断ち切る様に奪い取った。
そして振られた衝撃から我を取り戻したテンゾウが、先ほどの続きを話し始めた。

「えぇと…はぁ…、つまりですね、ナルトの新術は失敗。どこか別の時間へ飛ばされたか、別の次元へ飛ばされた、と言う仮説です。そして、このもう一人のナルトは僕の知る過去のナルトとは違いますし、別の次元のナルト、と言った方がいいかもしれません。」
「入れ替わったと?」
「はい。」
「…別次元か、信じられんが…あのナルトがすることだ、意外性と実力だけはあるからな。計画性はないが。」
「はは…それには同感です。」

テンゾウの難しい説明に、もう一人のナルト先生は内容が分かっていないらしい。
つまり、俺たちの知るナルト先生は新術を開発していたけれど、その術は失敗。別の世界に生きてる、今ここにいるナルト先生と俺たちのナルト先生とが入れ替わった訳、分かった?そう説明してあげると、「あぁ、成る程。やっぱカカシ先生はすげぇってばよ!」とにかっと笑った。可愛いんですけど、ちょっと頭は悪いらしい。でもそれも可愛い。俺はとことんナルト先生馬鹿らしい。自覚はあるけど。

「あのさ、あのさ…なら俺ってばどうすればいいんだ?」
「術を解読して、解けるのを待つしかないな。それとも、向こうでナルトが術を解く方法を自力で見つけるか、だな。なんなら、ナルトの代わりをしてみるか?同じではあるが違うナルト、興味がある。」
「…ばぁちゃん、怖いってばよ。」
「とりあえず、モルモットにはしないさ。違うナルトとは言え、アタシの可愛い息子同然だ。自宅待機の命を出すよ。」

息子じゃなくて孫だよ、と言いたいのは分かる。
もう一人のナルト先生は、綱手様の言葉が嬉しかったのか少し恥ずかしそうにはにかんでいた。その笑顔にその場にいた誰もが見惚れた。
なんと言うか、どんなナルト先生であっても誰かを魅了する所は変わらないんだな。

「なら、一先ず帰りましょうか。ナルト先生の家に。」
「あれ、先生達任務あったんじゃねぇの?」
「…その先生って何?」
「カカシ先生は俺の先生だから。お前ってばカカシ先生なんだろ?」
「カカシであることには変わりないけど、少なくともあんたの先生ではないよ。」

出合ったときから、そうだけどこのナルト先生は俺の事をカカシ先生と呼ぶ。
それが何だか嫌で、不機嫌な態度を取ってしまった。でも俺もナルト先生って呼んでるけど。

「俺はカカシでいいよ、俺もナルトって呼ぶから。」
「…カカシ先生を呼び捨てには出来ないってばよ…、じゃあ、ちっこい先生って呼ぶってばよ。」
「う…それはそれで嫌だ…」

さっきの台詞、サスケにも言ってやって。でもあだ名はちょっと如何なものかと思う。
執務室を出ようと俺はナルトの手を引いた。が、サクラやサスケがナルトのジャージを掴んで放さなかった為に、動けなかった。

「ナルトの好きな人って誰なの!?」
「俺と戦え!」

この二人も、同じではあるが違うナルト先生に興味津々のようだ。
ナルトは困った様に笑った。




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