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 願掛け300円



「赤崎さん良かったら貰ってくれませんか?」

赤崎が椿に手渡された物は赤、白、黒の糸で編まれたミサンガ。
V字に編まれ、幅が太目で少々形が歪んでるそれは手作りの温かみを感じた。

「懐かしいな、どうしたんだそれ」
「その、俺が、作ったんです。」

そう言うと、椿は少し黙った、言葉を探してるように視線が泳ぐ。
やはり女の子同士だと抵抗なく渡せるが、男が男に送るものではないだろう。
ひかれないか、椿は心配したのだ。


「小学校の時、流行ったじゃないですか。
その時皆で作った事があって昨日突然その事思い出したんです。
・・丁度糸があったんで、つい、作りたくなって」

赤崎は貰ったミサンガを見て感心した。

「へー、お前案外器用だな。」
「いや、それは結構簡単なんスよ!」
「折角褒めてやったのに、そう言うときはだまっといて良いんだぞ?騙せるし。」
「え?あ、はい。ってか良いですよ、騙さなくって!!」

楽しげに表情を柔らかくする赤崎に椿は胸をなでおろした。
どうやら気持ち悪がられずに済んだようだ。



「そーいや休み時間女子がよく作ってたよなこういうの。」
「赤崎さん結構貰ったんじゃないですか?」
「いや、貰って無い。俺ずっとスクール通ってたから学校の部活やって無かったし。」


赤崎の腕にミサンガが絡む。
毎日太陽が降り注ぐ下で体を動かしてるわりに赤崎の肌の色は白い。
きっと日焼けしても黒く焼けない体質なんだろう。
黒糸と赤糸が白い肌に映えて、やっぱり赤崎さんはETUカラーが似合うなあと
椿は思った。

「悪い、つけてくれ」
「はい、左手でいいですか?」
「ああ」

「そう言えば結ぶ時、何か願い事しながら結ぶと切れた時願いが叶うって話ありましたよね」
「ああ、そう言えばあったな・・・それで流行ったんだっけ?」
「赤崎さんなら、どんな願い事しますか?」
「そうだな」

少し考えるような様子を見せたので椿は結ぶ手を止めた。
現実的な赤崎の事だ、てっきり流すだろうと椿は考えていたが真剣な顔になった事に椿は驚いた。
なにか、叶えたい思いがあるのだろうか。
そんなそぶり見せた事無いのに。

知らないという事は不安につながり易く、椿にとっても例外では無い。
ETU優勝といった楽しい思いなら別にいい、
心の奥底で重たい悩みを持ってないかが怖い。
もし悩みがあるなら迷惑かもしれないけど、力になれたらいいと椿は思う。

椿が手を止めたの事に気付いて赤崎が椿に視線をもどした。

「いいよ、結んでくれ椿。」
「はい」

端の部分を交差させて輪を作り、その内側に通す、結び目を作ってもう一度繰り返す。
単純作業を繰り返す椿を見ながら赤崎は少し先の未来を思った。



椿は人間関係の築き方が案外ドライだ。
いや、ドライでは意味が違ってくるか。
決して人付き合いを避ける奴でも冷たい人間でもない。

ただ、離れる事に対し肯定的のような気がして不安なのだ。
初めてその事を思ったのは石浜さんが移籍する噂が流れた時。
俺を含めほとんどの奴が残ってほしいと感情的になっていたあの時に
椿は落ち着いた表情で、現実を受け止めようとしていた。

俺は寂しさや、怒りでごちゃごちゃになっていたから
どうしてそんな涼しい顔でいられるか分からなくて、
八つ当たりと分かっていて苛立ちをぶつけそうになった時もある。
後になって聞いてみたら、ピッチを通して繋がっていられるから大丈夫なんだと椿は言った。
やはり俺にはその感覚が良く分からなくて、それが少し寂しかった。


そんな事があって以来、時々心の奥底で沈んだ疑念が不安と共に浮かび上がり気分を沈ませる。
離れる事になっても石浜さんの時みたいに涼しい顔で別れの言葉をいうのだろうか。
もし俺がサッカーを辞めてもお前の心に俺の居場所はあるのだろうか。
本当に願いが叶うなら、どうか、

「できました赤崎さん。」
「おう、サンキュ。」
「何願ったんですか・・・?」

恐る恐ると言った様子で赤崎の様子を気にする椿に対し、聞きたいか?と赤崎は言った。
その顔は涼しい真面目な顔なのにどこか茶化す色合いを含んでいて椿がたじろぐ。

「どうしても、聞きたいのか椿?」
「え、ええ?教えてくれるなら聞きたいですけど・・・」
「願い事って他人に話すと叶わなくなるらしいんだけどそれでも聞くのか。」
「そうなんですか、じゃあいいです!」
「ち。」
「な、何なんっすかその舌うち!」

気が済むまで椿の反応を楽しんでから、赤崎は言った。

「これが切れるくらいじゃ叶わないんだけどな。
なあ椿、これ切れたらまた新しいの作ってくれないか?」

「いっスよ、てかそんな大がかりな願い事したんですか?・・・いえ、聞きませんよ!」
「・・・・まぁな。」



どうかこの糸が切れるまでは離れる事が無いように
そしてまた椿が手渡せる場所に俺が居ますように。


新しい物が出来る度何度だって同じ願いをしよう。

▼おまけ・その後の会話



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