偶像



「だめよ!気安く人形を触ってはだめ!!早く捨てなさい!!」
レイラが声を荒げた。
拾い上げた人形から、レイラに視線を向ける。
「あなた、知らないの?人形はね、不幸になると人を呪うのよ」
眉をひそめて、距離をとる。
「乱暴に扱ったり、手入れを怠ったりすると人を恨むようになる」
人形の片腕は無い。
精巧に作りこまれたドレスは所々ほつれ、茶色く変色している。
「だからわたくしの国では人形を数多く持つことが幸福の象徴だった」
人形は、人の形だ。
偶像としては、最適。
多くのヒトが幸せになるのなら、そこには幸福しかないだろう。
「その人形のように野ざらしにされ、傷ついた人形は人を呪う」
だが、そのヒトが暖かい家庭から追い出されたらどう思うだろう。
怪我をしたら、どう思うだろう。
この子のように、片腕がなくなったのなら、どう思うだろう。
あったものが、なくなったのなら。
「その子を幸せにできないのなら、触れてはだめ!」
真理だ。
「オカルトにキョーミ無いって、言ってなかったっけ?」
へらりと笑って見せる。
わざとらしく、首を傾げて。
「早く捨てなさい!わからないの!?」
「えー、だいじょーぶだよ。この子には何も居ない。むしろなーんもなさすぎてカワイソーかなぁ」
手に持った胴体から垂れ下がる頭と四肢。
この子は、愛されていたのだろうか。
「何を言っているの…?」
レイラが少しだけ溜飲を下げる。
「あはは、ごめんごめん。こーいうことするから泡…」
『警告、アラガミ接近。対空警戒』
突然響いた声。
顔を上げれば、影。
この距離では届かない。
届かせることが出来るのは。
「っ!!バカ!!」
突然投げられた人形。
レイラが慌てて避ければ、それは真っ二つに裂かれた。
遅れて伝わる地が裂ける振動。
「ぇ!?」
舞う土煙。
そこから見え隠れする白い毛
煙が晴れる前に、神機を薙ぐ。
軽い。
空のみを切り裂き、開けた視界。
そこには、後ろに跳んでいく白毛のアラガミ。
一定の距離を開け、動きを止める。
目が合った、とでも言うのだろうか。
そしてまたこちらに背を向け、去っていく。
ビルの谷間を抜けて、視界から消えていった。
「逃げていった?無傷のアラガミが……?」
抉れた地面に残る、切り裂かれた人形。
この子は、知っていたのだろうか。





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