過去



コンコン。
思考を遮ったのは一つのノックの音。
視線を向ければ、計ったかのように扉が開かれた。
「ラエ。」
「…お前か。」
顔を出したのはノジアだった。
相変わらず、感情は見えない。
扉の前に立ち尽くしたまま、言葉をこぼした。
「…今回は派手にやったな。」
「あぁ、こんなヘマ、久々だ。」
ノジアから視線を逸らせば、白い包帯が目に入った。
腕に巻かれた包帯。
見えないだけで、服の下にもまだある。
身体は重いが、自然と痛みは感じなかった。
じっと、視線を感じる。
「…何か言いたげだな?」
しかし、顔は合わせない。
静寂が病室を包む。
病室の白い壁。
そこに、音が吸い込まれるような。
なんとなしに壁を眺めていれば、ノジアが口を開くのが分かった。
「……じゃあ言わせてもらうが、お前生きる気、あるか?」
言葉が流れた。
それも、見つめる先の壁に吸い込まれるのだろうか。
しかし、待ってみても、言葉は消えていかない。
留まったままだ。
一度目を伏せる。
ようやく、言葉を飲み込む。
ノジアの言葉が反芻される。
生きる気など、言われなくとも。
自分の答えなど。
いや、そんなことより。
「…ノジアに、言われたくねぇなァ?」
歪に口元を歪める。
ようやく視線をくれてやれば、先程と全く変わった様子も無い。
「……なんてな、冗談だ。忘れろ。」
溜息を一つ落とし、顔を背ける。
静かに扉が閉まる音がした。





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