所在



カリカリカリ、紙とペンが擦れる音。
報告書に綴られていく文字。
それより斜め上に、コップが置かれた。
「…あぁ、悪い。」
一旦手を止めて顔を上げれば、見慣れたノジアの顔。
小さく頷いて、対面に座った。
その様子を一瞥して、ラエは置かれたカップに手を伸ばす。
香る苦み。
口に含めば、暖かさが広がった。
再び報告書に目を落とす。
先日行った遠征任務の内容が並べられている。
「ラエ。」
「んだよ。」
唐突にかけられた言葉に、適当に返事を返す。
この遠征任務では、何があったのだったか。
もう一度、カップを口に運ぶ。
「…そろそろ、いいか?」
「何がだ。」
主語を欠いた言葉に、思わず眉をしかめる。
ようやく報告書から視線を上げれば、ノジアと目が合った。
いつも通りの無表情。
そういえば、少し前にも同じようなことがあったような気がする。
「抱い…」
「ッ我慢しろ!!」
カシャンと乱暴な音が鳴る。
一気に顔が沸騰した気がする。
対して、目の前のノジアは涼しいまま告げる。
「そう言われて一週間は経ったんだが、せい…」
「ちげぇよ!アホか!!」
思わず、近場にあったペンを投げつける。
あっさりと掴み取られてしまったが。
「じゃあ、何だ。」
ペンを返却される。
何故コイツは眉一つ動かさずにこんなことを言えるのだろうか。
思えば、いつもそうだ。
こちらの冷静さを散々奪って、振り回される。
朝も昼も、夜でも。
「無理なら、それで構わないが。」
言葉に顔を背ける。
そもそも、何故返事をしてやる義理があるのだ。
あちらが勝手にしてきたことであって、誰も許可を出した覚えはないというのに。
了承するわけがないだろう。
「…分かった。」
素直な承諾に、秘かに視線を戻した。
何事も無かったかのように、コーヒーを飲みながら報告書に目を落としている。
まるで、先程のやり取りが抜け落ちたようだ。
癪に障るが、この会話は早く終わらせた方が無難だ。
報告書の続きを書こうと、ペンを取る。
遠征の内容が羅列されている。
ここで倒した新種はどのような動きをしていたか。
効果があった属性は何だったか。
確かあの時はノジアがバレットを試していて…。
目の前の男を盗み見る。
資料を追っているのが分かる。
空気は完全に元に戻っていた。
しかし何故だが、釈然としない。
居心地悪く、ペンを握り直す。
「……言わなきゃ、進まないと思うぞ。」
文字列から顔を上げずに、ノジアがポツリと呟いた。
驚いて視線を戻せば、かすかに笑っている。
この顔が指し示す答えは一つ。
「〜ッの、いつも許可なんか取んねぇだろうが!」
「無理はさせたくないからな。」
しれっと言い放つノジアに腹が立つ。
「今更だっての」
「それはつまり、どういうことだ?」
意地悪く作る、笑み。
この表情を見られるタイミングを知っている。
この先に、ある。
それでも。
「うっせ!絶対言わねぇからな!!」
精一杯、否定した。



――――――――――


あとがき

やるかやらないかの話でした。
随分時間が経ってしまいましたが、BL的なノジアとラエの絡みが見たいとの神のようなお声があったので、調子に乗って書きました。
すみませんでした。
そして、ありがとうございます。
こういう話は考えるのは好きなのですが、書くとなると恥ずかしくて憤死しそうになります。




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