正午。
訓練を終え、シャワーで汗を流し、食堂で昼食に舌鼓を打つ。
一仕事終えた後の食事は、いつもより格段に美味である。
ちなみに、この後の予定はない。
窓から見える青空を眺めながら、これからの予定を考える。
朝早く起き、素早く用事を済ませた甲斐があった。
久しぶりの自由な時間だ。
澄んだ青い空。
雲がゆっくりと流れる。
「ここ、いいか?」
「うおぁ!?」
突然の声に肩を跳ねさせる。
空を眺めながらぼうっとしていたら、声をかけられたようだ。
振り返れば、驚いたような、困惑したような表情をしたジュリウスが立っていた。
その手には昼食の乗ったトレイを持っている。
「驚かせないでくださいよ隊長。」
「す、すまない。」
一瞬にして上がった心拍を抑えながら、ジュリウスに席を進める。
するとジュリウスはぎこちなく謝りながらイーギスの対面に腰かけた。
「隊長もご飯ですか?」
忘れていた昼食へと意識を戻す。
ジュリウスの前に色とりどりに並べられた食材。
彼は頷いた。
「ここのご飯おいしいですね〜。」
残っていた自分の小さなイチゴムースを頬張る。
「あー、幸せ…。」
ふんわりととろける甘酸っぱさに、思わず顔が緩んだ。
「…フライアにはもう慣れたか?」
声に視線を戻せば、小さく笑うジュリウスと目が合った。
フライアに来て、神機使いとなって、180度変わった日常。
それもまだ、最近のことだ。
確かにまだ慌ただしいが、悪いことばかりではない。
「ばっちりっすわ。ただ仕事は当分無理っすねー…。」
尻すぼみになりながら、スプーンを宙でくるくると回す。
わざとらしく視界を移せば、強烈な青が目に入った。
こんな色を見るのも、ここ最近からだ。
「それくらいがちょうどいい。仕事に慣れ始めて、油断したところが危険だからな。」
ジュリウスも倣って空を見つめる。
彼には、見慣れた光景なのだろう。
「用心しまくりますね!」
ぐっと親指を立てて見せれば、苦笑が帰ってきた。
「…しすぎて動けなくなるなよ。」
「ははっ。まぁ、訓練はしなきゃですけどね。」
もう一口、イチゴムースを掬い取る。
そろそろ底が見えてきた。
食べればなくなるのは当然だが、少し残念だ。
「…そういえば、今日の午後、訓練場が空いたそうだぞ。」
「あ、そうなんすか。」
言いながら、また一口頬張る。
残りはあと少しだ。
「…どうした?」
イーギスの空返事に気付いたのか、ジュリウスの視線を受ける。
「あー、いや、今日午前中に訓練しちゃって……」
最後の一口を嚥下した。
空になった食器。
「連続で使っても支障無いと思うが?」
「いや、俺病弱ですし?あんまり体に負担かけられないかなー…とか。」
両手を広げ、肩をすくめてみせる。
口元に半分笑いを浮かべながら。
しかし、それに気付いたのか、否か。
ジュリウスは少し目を丸くして、
「そうだったのか!?ならそうと早く言ってくれれば…」
「すいません!嘘です!!訓練行ってきます!」
ガンッと音がなるほどダイナミックに頭を下げ、自分の食器を引っつかんで慌てて駆け出す。
その場には、小首を傾げたジュリウスが取り残されていた。
「そ、そうか…?」
遠くで困惑した声が零れ落ちた。





――――――


あとがき


身から出た錆。
非常にイチゴムースが食べたくなる話でした。
隊長が何を食べるか悩んだ末の描写無しです。
ご自由にご想像下さい。





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