監視



足音だけが、辺りに響く。
辺り一面の血の海。
瓦礫と混ざり、赤黒く淀んでいる。
そこに、一つだけ佇む玉座。
見上げる程のそれに腰掛けるのは、見慣れた青年。
あの日から、何一つ変わる事なく、眠ったまま。
もっとも強力な制御能力を有する脳髄の神骸の影響により、永久に目覚めることはないであろう。
目覚めた時は、霧が晴れる時でもある。
彼は霧が晴れることは望まなかった。
この牢獄を護りたいと、脳髄を受け継いだ。
ここから、永久に出られなくなるとしても。
髄骸を始めとする8つもの神骸をその身に宿し、未だ暴走の兆候は微塵も見られない。
各地に点在する神骸のうち、半数をその身に宿し、この世界を人知れず維持し続けている。
監視者としての仕事も減り、新たな継承者という犠牲も半分になった。
加えて赤い霧を維持するための血税ですら必要なくなったのだ。
彼は血涙すら必要とせず、眠り続けている。
少し揺すれば今にも起きてしまいそうなほど、あの日のままで。
もし、あの肩を掴んで思いっきり揺すれたのなら。
そんなこと、望むべきではないのは分かっている。
この世界を維持するのが、使命だ。
踵を返す。
反射する靴の音が、静寂を伝える。
一筋だけ繋がる橋を渡る。
暴走したシルヴァの影響で、崩れかけている橋を。
エレベーターに乗り込む。
足元のボタンを踏む。
「また来る」
けたたましい振動とともに、扉が閉まった。


速度を落としたエレベーターが、到着を告げる。
待っていたエヴァがこちらを振り返った。
「……ジャック」
「暴走の兆候はない。次へ向かうぞ」
歩みを止めず、事務的に報告を済ませ、目的地を定める。
無言で、エヴァも続いた。


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