それは、秘密を共有した日



カチカチ、時が音を刻む。
普段は拾わないそれが、急かすように絶え間無く降り積もる。
「トオガ…」
組み敷いた彼の首筋に顔を埋める。
いつもの彼の匂い。
「……なぁに?」
あやすように頭に腕を回された。
鼓動と同様に頭をポンポンと撫でられる。
「なんで…っ、お前に限って…」
告げられた真実は、到底すぐに受け入れられるものではなかった。
震える身体を抑えつける。
震えたら、認めてしまうような気がして。
「うん……」
トオガの声は穏やかだった。
いつから症状を自覚していた?
いつからそれを隠していた?
いつから、一人で耐えていた?
「ユウゴは?」
突然振られた話題に、顔を上げる。
「なんともない?」
そっと頬に手を添え、じっと見つめてくるトオガ。
こんなに近くで触れ合っているのに。
まだ触れ合えるというのに。
「あ、あぁ…」
なんとか声を絞り出す。
「良かった…」
その声に心底安心したように、トオガは頬を緩めた。
今心配すべきなのは自分自身のことであろう。
それでもこんなに、綺麗に笑うのだ。
この表情が見れるのも、この声が聞けるのも、あと何回だろう。
やっと、触れ合えるようになったのに。
やっと、夢の一歩を踏み出したのに。
それなのに。
息が、つまる。
「はっ…ん……」
振り払うかのように、唇に触れる柔らかな感触。
暖かい口腔内で絡まる吐息。
「なおら……ないのか…?」
名残惜しく離れる熱。
彷徨う指が、身体を伝う。
「……諦めは、しないよ」
トオガは否定も肯定もしなかった。
それが、如実に真実を物語っていて。
命が果てる瞬間など、何度も見てきた。
何も出来ずに無情に突き付けられてきた。
息苦しく、この現実に耐えてきた。
それでも折れずにいれば、救われた者がいたのもまた事実。
そうやって、自分達はここまで来たのだ。
「……ねぇ 、手、繋いでもいい…?」
ゆっくりと上がってきた手をベッドに縫い止める。
硬く結びついた指先。
しっかりと返ってくる力。
こんなにも力強く、生きてきたのだ。
生命を象徴するそれに、胸が詰まる。
指先に舌を這わせると、呼応してピクリと跳ねた。
一つ一つ、辿る。
「ね、ねぇ…」
迷った声。
顔を逸らしながら出された言葉。
無防備に曝け出された裸体。
「もっと…、もう、激しく…して……」
目を見開く。
そんな言葉、一度も聞いたことはなかった。
それでも出された意図。
それが意味するものとは。
激しく求め合えば。
ぐちゃぐちゃになれれば。
何も分からなくなれれば。
その涙は真実を認めたものではないと、言い張れるぐらいに。
「いま、だけ…っ」
縋るように合わせた視線。
ずっと綺麗に笑っていた顔が、初めて泣きそうに歪んだ。




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