絶対服従

愛という単語は生きる糧を与えてくれる美しいものだと連想する輩も少なくないだろう、しかし実際には相手の手の内が解せないが為に一喜一憂を強いられる。
想えば想うほど深みに嵌り、まるで蟻地獄のように足元を掬われて逃げ出せなくなる複雑なものだ。

多種多様に存在する其々の愛、その中でも異性間で育まれる愛情は何ともいえない。
愛に偽りはないのに、相手との愛が深まれば深まる程揺ぎ無い幸福感が込み上げて来るのに。
それにも関わらず、不安も同時に押し寄せてくるのは何故だろうか。

ある程度年をとってそれなりに経験を積んでくると、妙に人生を悟ってしまう癖が出てくる。
己の人生の先を予測してしまい、つい受身になっている自分が居る。
自分の範疇で何事も事が運んでいかなければ、向かって来る感情に対処出来なくなるからだ。
大人になればなる程、感情よりも理性で行動を取るようになり、そうして自分の身を護っているといっても過言ではない。

まだまだ成長過程の者達はそれを理解出来ずに戸惑うだろう、結局は何事も理屈で解決しているのであって、捨て身での行動が出来ない。
それでも感情剥き出しで立ち向かえないのだ、答えは自分が傷つくのを恐れているから、自分を見失いたくないからだ。

もう感情だけで乗り越えていける年でもない、そんな事で解決できるほど人は優しくないのだから。
だからどんな困難に遭遇しても僕はいつでも柔軟な態度で対応している、それが他人に認められる手段だと知っているから、プライドは何よりも男の勲章であると僕は思っている。

当然それは恋人の前でも忘れない、喧嘩なんて絶対にしない、例えそうなったとしても必ず僕から折れるようにしている。
本音と建前を使い分ける事が案外大事な事だったりするんだ、何時でも本音ばかりで接していたら人間疲れてしまうだろう?
それでも仮面を着け続けて生きていくのも嫌になってしまった、寧ろ無意識で作り上げてきた一つの人格のせいで彼女を好き勝手にさせてしまっているのだと、最近では思う。

まだまだ若い愛しい彼女、当然遊びたい盛りの彼女に色んな事を規制してしまうのは身体に毒だ。
それ故に私は今まで黙認してきた、異性と遊びに行く事も盛り上がって朝帰りもしばしば。
しかしそれをいい事に最近ではオフの度に出掛けてしまう彼女に不信感が募っていく、考えたくもない最悪の結末を頭で思い浮かべてしまう。

どんなに僕が君より遥か長く生きていても僕は君と同じ人間で、君と同じように感情だってある。
君が傍に居てくれないと、不安で仕事も満足に出来やしないんだ。
いい大人の嫉妬を隠しているが為に収拾がつかなくなる、それこそ押さえ込んでいた醜い感情で君を傷つけかねない。

君が離れていかぬようずっと我慢していたけれどもう抑え切れそうにない、君が本当に僕を愛しているのか、確かめなければ自分を見失ってしまいそうになる。

少し位それを教えても、罰は当たらないと思うんだ。



久々に朝から太陽がサンサンと照る気持ちのよい日だった、珍しく隊に届いてくる書類も少なく、僕は早めに帰って恋人であるなまえとお洒落な店で外食をしようかと考えていた。

「雛森君、今日は早めに上がろうか」

僕は自席で一生懸命業務をこなしている彼女に微笑みかけ穏やかに声をかける、雛森君は真剣な面持ちで動かしていた筆をピタリと止め僕に目線を向けた。

「珍しいですね。藍染隊長が早めに仕事を切り上げるなんて」

まるで豆鉄砲を食らったような大きな瞳で僕を見つめる、今にも飛び出してしまいそうな黒目がちな瞳に僕は小さく声を出して笑いながら話口を開いた。

「たまにはいいだろう。君は毎日頑張っているからね。せめてものお礼として受け取ってくれないか?」

彼女のおかげで定時で帰れると他隊員は常に賞賛の声を上げているのは確かだ。
しかし頑張り屋の雛森君に少しでも休息を与えるという名分で、本当は自分と恋人の甘い時間を過ごそうと目論んでいるとは口が裂けても言えない。

「……そうですね。それじゃ、今日は早めに帰りますね」

僕の計画に全く疑いを持たない純粋な彼女に小さく痛む胸を押さえてながら、僕は再び笑った。


恋人であるなまえとは付き合って半年になる、勿論その事は誰一人として知らない。
理由は二人の階級に距離があるからだ、僕は隊長、彼女は平隊員という差、話せば間違いなく死神達中の話題の的になると外野の目を欺く為に口外を避けていた。

やはり隊長クラスにもなると権力を目的に近寄ってくる女性は後を絶たない、もし僕には既に恋人が存在ししかもそれが席官でない者だと知れば、その矛先が彼女に向けられると簡単に予測できる。
何としでもそれだけは避けねばならぬと思った、僕のせいで想い人のなまえが危険に晒されるのは嫌だったのだ。
その為に僕となまえはこの関係に口を硬く閉ざしている、どんなに信頼している雛森君にでもこの事は一切話していなかった。
これを言ったら自惚れだと思われるかもしれないが、雛森君が僕に崇高に近い感情を抱かれていると自負している。
恋人の存在を知り、業務に支障をきたす事だけは避けたいので言えない。
何事にも巧く世渡りしていく事が重要だ、長く生きてきて僕はそれを悟っていた。



「それじゃ僕はもう帰るよ。君も早く帰りなさい」

僕は静かに席を立ち出入り口へと向かう、歩きながら彼女の頭に触れ、”ご苦労様”と労いの言葉を掛けた。

「……あの、藍染隊長」

颯爽と歩き部屋を出ようとした時雛森君に声を掛けられ、僕は優しく微笑みかけ如何したのか問い掛ける。

「何だい?」

「あ、あの。有難う御座います!」

「お礼を言われる程の事じゃない。また明日も頼むよ」

もじもじと死覇装の裾を弄りながら話す彼女にもう一度笑いかける、僕ははにかむ彼女に可愛さを感じながらも部屋を後にした。


「さて、なまえの隊に行くか」

早めにこの事を伝えて自室で彼女が来るのを待とう、僕はなまえの所属する六番隊へと急いだ。

「ちょっと失礼するよ」

六番隊へ到着して控えめに声を出すとこの隊の隊長である朽木隊長が視線を僕に向ける、しかし直ぐに目前の書類に目を戻し相変わらずの素っ気無さで僕に声を掛けた。

「何用だ」

全く見向きもしない冷めた態度に僕はクスリと笑うった、それに気を悪くしたのか眉間の皺を一つ増やして僕を睨み付ける。

「ああ、気を悪くさせたのならすまないね。なまえ君は此処には居ないのかい?」

腕を組んで袖口に両手首を入れると、朽木隊長は視線を書類に向けながら口を開いた。

「……なまえならば現世で任務遂行中だ。此処には居らぬ」

「そうなのかい、いや、ちょっと頼みたい事があってね。悪いが彼女が現世から戻ってきたら僕の部屋に来てくれるよう伝えてくれるかい?」

「解った」

彼に伝言を言付け僕は部屋を去ろうと踵を返す、勘のいい彼に伝言を頼んで少々不安だったが、例え知られたとしても口数の少ない男なので誰にも言わないだろうと思った。

「頼んだよ」

僕は出て行く直前に一言告げて振り返る、何の応答もなかったが既に仕事に専念している彼を見て相変わらずな男だと小さく笑った。

なまえと外食するのも凄く久し振りだ、最近では中々休みのタイミングも合わなかったし、一夜を過ごす余裕も無かった。
それ故にキチンとした二人の時間も取れずに、すれ違い気味の生活を送っていた。

「たまにはフレンチなんかもいいかな」

見た目によらず食い意地の張った彼女の事だからきっと喜ぶに違いない、僕は早速行きつけの店に予約を取ろうと足早に其処へ向かっていった。
目的の店へ赴き予約をして僕は早々と自室へ戻る、久し振りに見る彼女を思い浮かべながら愛読書に目を傾けていた。
凄く楽しみだった、年甲斐も無く胸は弾み頭の中はなまえとの楽しい時間で一杯になる、我に返れば緩みっぱなしの口元に僕は思わず声を出して笑った。


「……遅いな」

厚さ五センチはある本の後書きまで読みきってしまう始末、外を見ればすっかり日は暮れて真っ暗な世界に早代わりしていた。
チラリと時計を見れば短針は7の数字に長針は4の数字に掛かっている、予約したのは七時半、此処から予約先まで20分は掛かる為間に合いそうに無い。

「如何したんだろう」

まさか任務中に怪我でもしたのだろうか、しかしそれならば朽木隊長から通達があってもいいものだ。
心は不安が増殖し考えるのは最悪のシナリオばかり、僕は六番隊隊舎へと向かおうと勢い良く立ち上がった。


「あ、藍染隊長―」

私室から出て六番隊へ向かおうとした時後ろから機嫌のいい声が僕を呼んだ、その声の主を一発で理解した僕は即座に振り返って話し掛ける。

「なまえ、無傷かい!?」

「え?勿論ですよー。簡単な任務でしたからすぐ終わりました」

「では今まで一体何、を」

しかし途中で口を噤んた、何故ならば彼女の隣には副官の阿散井君が居て不思議そうな顔しながら僕を見つめていたから。

「遅くなってすみません。あんまりお腹が空いたので、恋次と先に食べてきちゃいました」

「……朽木隊長からの伝言を聞いてないのかい?」

「あ、聞きました。それでも腹が減っては戦は出来ぬっていうか、隊長?」

頼みたい事って伝えられたのならば、食事を後にしてでも僕の処に向かってくるのは常識じゃないか?
僕の言付けは君の空腹を満たすよりも取るに足らないものだというのか。
僕は君にとってその程度の人間でしか無いという事か、あんなに楽しみにしていた自分が馬鹿らしく思えてくる。

「隊長、どうしました?」

何でこんなにも想いに差が出てきてしまうのだろう、寧ろ付き合い始めは今と逆の立場だったというのに。

「あの、すみません。俺が悪いんすよ、俺が強引に夕飯誘ったから……、藍染隊長!?」

僕はなまえの腕を強引に引っ張って私室へと向かう、それを見た阿散井君は大きな声で僕を引き止めた。

「本当にすみませんでした!俺の責任なので怒らないでやってください」

「……君は悪くないよ。此れは僕と彼女の問題だから口出しは無用。帰りなさい」

「……だけど!」

「……帰れと言ったのが聞こえなかったのか」

ギロリと睨むと彼の身体は一瞬にして凍てついた、それでも構わず僕は牽制し続ける。

「……はい。本当にすみませんでした」

観念したように彼は踵を返して歩き出す、僕はそれを見守って未だ掴んだままの彼女に視線を戻した。

「隊長、怒っていらっしゃるので、……キャ!」

強引に私室に運び乱暴に床に叩き付ける、勢い良く押した反動で彼女の身体は一メートル後にまで倒れながら移動した。

「……隊、長……、いやあ!」

体制が戻る前に僕は彼女を組み敷く、ギリギリと力を込めて掴みその痛みでなまえは悲痛な声を漏らした。

「黙りなさい。なまえが悪いんだよ、僕を怒らせる事をしたから」

優しさなんて与えてやらない、代わりに僕を傷つけた罰を身体に叩き込んであげる。

「藍染隊長御免なさい。許して……」

なまえは此れからする事を解っているのだろう、思い切り左右に首を振って抵抗していた。

「そんな顔して謝っても今日は許さないよ」

自分だけが愛に溺れるなんて御免だ、君も僕の事だけしか考えられくなるまで唇を重ねて、僕の事だけ考えられなくなるまで抱き続けてあげる。
このまま僕の私室に閉じ込めてなまえを独り占め出来たらどんなに楽だろう、それでも周囲の目を気にして実行できない自分が情けなく感じた。


「いやあ!」

乱雑に衣服に手を掛けて無残に引き裂く、使い物にならぬ位にまで破った後、無惨に成り果てた布切れを投げるように床に捨てた。

「隊長……ッ。お願い、止めて」

手首を拘束されたまま悲しそうに僕を見つめる、美しい彼女の肢体に理性が吹き飛んだ私にはその表情が誘惑しているように感じとれた。

「今日は一切君に愛撫はしないから。この意味が解るかい、なまえ」

いつものような愛に満ちた触れ合いなんてしてやるものか、何もせずに勝手に濡れていればいい、身体を疼かせて居ればいい。
だけど身体を熱くさせる何かが無ければ繋がった時には痛いだけだ、だから僕はそれなりの権利を君に与えてあげる。
僕も総ての服を脱ぎ捨てて裸になる、此れからしてくれる彼女の行為で既に下半身は膨れ上がっていた。

「僕の命令には絶対服従だ。舐めなさい」

「……え……」

二度も言ってやらないよ、僕だってこんな台詞を吐くのは火が出るほど恥ずかしいんだ。
なまえは口を開けてゆっくりと身体を起こしながら呆然と僕の顔を見つめている、何を言われたのか理解していないようで、無性に腹ただしくなる。

「苛付かせないでくれ、二度は言わないよ」

「……ふぐッ」

気が立っている僕は強引に肉棒を彼女の口に捻じ込む、膨大に膨れ上がった性器はヌルリと粘液じみた唾液で更に大きく拡張していく。
なまえの頭に両手を添えて徐々に腰の動きを早めていった、無理矢理させているというのに愛情深い女にされる行為の気持ち良さは格段に違うと思った。

「んぐッ、……ん……ッ、く」

「ほらもっと舌を使いなさい。丹念に奉仕するんだ」

此れまで何度も身体を重ねてきたが彼女に奉仕させるこの行為は避けてきた、何となく主導権を奪われるようで嫌だったからだ。
やはり此処は男として彼女を気持ち良くさせることに念頭をいれてきたから。

「ンン……ッ」

「そう、中々上手じゃないか。もっと舌使って」

こういう展開になって少しだけ満足していたりする、なまえの意外な一面、恥じらいを捨てて奉仕し続ける謙虚さ、手放しでは喜べないがきっかけを与えてくれた阿散井君に感謝した。

時々なまえの頭を撫でながら僕は力一杯腰を動かす、不思議な事に性欲だけは年齢は関係ない、僕は快楽に身を委ねていた。

「……ン…ッンン…ッ」

すっかりその気になったなまえは自ら手を使いながら行為に励む、一体何処で学んできたのか棹部分を仕切りに擦り出した。

「……ッ」

巧妙なテクニックは次第に僕の顔を歪ませる、先程から襲い掛かってくる間の無い刺激で既に僕は絶頂寸前だった。

「すまない、もう……ッ」

その言葉と同時に何週間ぶりの欲がなまえの口内に目掛けて飛び出す、溜まりに溜まった精液は肉棒をビクつかせながら数回に渡って吐き出した。

「……んッ……うう……」

「全部飲み干すまでは抜かないよ」

泪目になって必死で離れようとするなまえの頭を引き寄せ総て胃に収めるまで肉棒を押し付ける、それに観念した彼女は嗚咽を吐きながら喉を鳴らして飲み込んだ。

「良い子だね」

総て飲み込んだのを確認して彼女の口から肉棒を離す、そっと口付けすれば精液独特の匂いが鼻を刺激した。

「隊長……」

泣きながら僕の顔を見つめ此方の顔色を伺っている、僕はその表情に見惚れつつ静かに床に寝転がった。

「あの……?」

「今日は君が動きなさい。たまには悪くないだろう」

含み笑いをしながら話しかけると一瞬にして彼女の表情が強張る、少なからずその顔に欲情した僕は乱暴に彼女を引き寄せて馬乗りにさせた。

「あ……ッ……厭ですッ、恥ずかしい」

「そんなの僕の知ったことじゃない。其れに言った筈だよ、絶対服従だと」

なまえの腰を少し上げてそのままいきり立った肉棒へと下ろす、先程の彼女からの愛撫で感じていたせいかすっかり其処は蜜で満たされていた。

「……あああ……ッ」

根元まで総て収めてそのまま停止する、動かなければ快感は生まれない、それを理解しているなまえは不満そうに僕を見下ろしていた。


「動かなければずっとこのままだよ。さあ、動いて」

「んああ……ッ」

なまえの腰を掴んで身体を押し付けると肉棒は更に奥まで入り込み、その刺激に彼女は大きく喘いだ。
僕の理不尽な命令に観念したなまえは体制を整えて上から腰を動かす、蜜液はどんどん溢れ僕の陰部を濡らしていった。

「そう、もっと腰動かして。下から見る君も悪くないよ」

捲くし立てるように言葉を紡ぎその気になったなまえは更に激しく腰を振っていく、動かせば動かすほど膣は締まり肉棒は硬く大きくなっていった。

「ああ……ッ、あん、あ……ッ」

両手を僕の腹に置きながらなまえは狂ったように動く、僕は一生懸命動く彼女の妖艶な表情を見つめながら絶頂へと近付きつつあった。

「んは……ッ、あっ、あっ、……隊長、隊長……ッ」

頬に泪を伝いながら縋るように僕を見つめる彼女が愛しくて堪らない、その顔に絆さた僕は頭を引き寄せて口付けを交わす。

「好きだよなまえ。もうあんな事は無しだ。解ったね?」

「んあっ、…隊…長…っ、…ああ…っ」

容赦なく襲い掛かる快感で喘ぎ声を出しながら頷く事しか出来ずにいるなまえに何度も口付けをする、舌と舌を絡ませ互いに行為に夢中になった。

「…あん…あっ…もう…駄目…っ」

「……ッ…僕もだ、一緒に……」

「…ああ…っ、…ん…、あ―――ッ」

機械が止まったように彼女の動きが途端に止まる、息を切らせながら思い切り倒れこんできたなまえを僕はきつく抱きしめた。

「……藍染隊長、御免、なさい……」

なまえはポロポロと泣きながら僕に謝罪を繰り返す、本当は此処で許すべきだと思ったが予約キャンセル料分の罰を与えてもいいかなと、損得勘定を考えてしまっていた。

「全部終わるまで許さないよ」

「……全部ってどういう意味ですか?」

「君には僕のこの猛りが鎮まるまで頑張ってもらうから」

「……分かりました。でもお互い明日も早いですし、隊長のお身体が心配です」


心配してくれて嬉しいけど迸る欲を総て発散しない限り眠気など生まれる筈も無い、明日休んでも構わないから沢山愛し合おうか。



END

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