君のオレンジ



俺は俺らしく真っ直ぐ心に忠実に、自然体で居ればいいのだ。



【君のオレンジ】



放課後の帰り道、其れは出逢いの宝庫だ。
時々俺に逢いたいが為に待ち伏せする奴が居る。
熱い視線と昂る情熱は、ふらつく事無く俺に一直線。
其れを感じる度、自分も捨てたもんじゃねえなと。

……思うわけ、ねーだろ。


「一護、また喧嘩したの?」

落ちる間近の夕陽が、夜を迎える準備を始めた午後5時。
土埃を払い制服の乱れを整えている最中で、同じクラスで向かいに住んでるなまえが帰り際に俺の姿に気付き脚を止めた。

「仕方ねえだろ、コイツらがしつけえんだ」

呆れ口調で地面に放っていた鞄を拾い上げながら、言葉を掛けてきたなまえに返事をする。
折角今日は機嫌良く帰れると思っていたのに、無様に這いつくばるコイツらの出現で俺はすこぶる気分を害す。

他校の不良共がこぞって俺に喧嘩を売ってくる日常は、何年も前からの盛大なイベントと化した。
コイツらにとって俺は最も倒したい大ボスなんだろうか、迷惑以外の何物でもない。
横チンだか縦チンだか知らねえが、全力で絡んでくるんじゃねえよ。

「無視すればいいのに」

なまえはピクリとも動かない奴等を見ながら、溜め息混じりに口を開く。
彼女にとっても今の現状に遭遇するのは初めてでは無く、怯える素振りも見せずに冷静さが板に付いていた。

「俺だってそうしてえよ。だけど此処まで身体を張って来られたら、其れに応えてやらねえと失礼じゃねえ?」

「……優しいんだか、非道なんだかワケわからないよ」

「コイツらも本望だろ」

苦笑気味に微笑むなまえを横目で見た後、俺は不貞腐れながら言葉を放ち遠くの住宅街に視線を向けた。
奴等に目もくれず歩き出すと、彼女も誘導されるかの様に隣に肩を並べる。

「一護も大変だね」

ゆっくりと家路に向かう途中で、なまえが眉を下げて此方を見上げる。
俺は彼女の同情の言葉を耳にして先程の暑苦しい因縁を思い出し険しい顔付きで物思いに耽った。
別に好き好んで喧嘩を買ってる訳じゃない。
派手な外見と少しばかり鋭い目付きで勝手に判断されて、勝手に相手が因縁を付けて来るだけだ。

「やっぱりこの髪の色だとどうしてもな」

前髪の毛先に触れながら自嘲気味に薄笑いを浮かべると、なまえの瞳が大きく見開かれる。
その後直ぐに彼女は俯き地面を見詰め、考え込む様に口を噤んだ。

あれ、何か神妙な雰囲気にしちまったかも。

勘違いでは無い重い空気を払拭せねばと、俺は焦りながらなまえに向けて言葉を掛け様と躍起になる。
彼女は数年来の付き合いで、過去幾度と無くこの髪色で嫌な想いをしてきた事を知っているから……、余計な心配は掛けたくない。

「私は一護の髪の色大好きだよ」

なまえに違う話題を振ろうと口を開こうとする前に、彼女の視線と共に穏やかな声が俺に向けられた。
告白みたいな台詞に身体を強張らせ、激しく高鳴る心臓に押し潰されそうな感情が襲う。

「なまえ……」

「私は一護の髪を見る度にいつも元気を貰ってるよ」

"だから染めたりしちゃ駄目だからね"と目を細めて笑う彼女の、夕陽の陰影によって形作られた唇が印象的だった。
コイツってこんなに綺麗だったか、優しく微笑む大人びた表情に胸がぎゅっと締まる。

「サンキューな」

礼を言い僅かに笑むと、なまえも応える様に満面の笑顔を見せた。
いつしか俺の淀んだ気持ちは晴れやかになり、きっと明日は晴れるであろう象徴であるオレンジ色の夕陽に視線を移した。

俺は万人に好かれたいとは思わないし、好かれ様と努力するのは性に合わない。
本質をくだらない事で隠すなんて馬鹿げてる、有りの侭の俺を理解してくれる人は小数でいい。

例えば、隣に居るなまえみたいな。


「さっきの台詞、告白みてえで何か照れるな」

「……告白、なんだけど」

「!」

お前が好きだと言ってくれたこのオレンジを、俺は初めて持って生まれて良かったと思えるよ。



END

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