醜い感情を消して

苛付く。

毎日、日毎に不快感は募り、気が付けば任務中にも関わらず貧乏揺すりをする始末。
兎に角動いてなければ気が治まらず、私は常に身体の一部を動かしている。



腹が立つ。

大好きなあの人の傍で働く事が出来たのに…邪魔なあの子の存在がいつもちらついて。
当たり前のように彼の隣で笑っている彼女に、例えようのない怒りが込み上げて来る。

馬鹿みたいに微笑んで、うざったい程、可愛い仕草で彼に触れて。

どうひっくり返しても私は彼女のような可憐な可愛さを引き出すことは出来ない。
その嫉妬と羨望が、私を悩ませる。



私の恋焦がれる彼、十番隊隊長 日番谷冬獅郎。
彼は幼いながらも天賦の才の持ち主だ。

彼の名前は、彼が入隊してきた時から知っていた。
天才児と謳われた彼の噂は当時全隊に囁かれていたからだ。

初めは興味本位だった。

どんなに才能に恵まれた者だとしても、彼は自分より五つも下の子供だ。
当然恋愛感情など生まれる筈もなく、他隊長から一目置かれている彼の顔を拝もうと、遠目から見つめていた。

霊圧は完全に消しているつもりだった。
自信過剰と人は思うかもしれないが、私もそれなりの能力を持っていると自負している。

…それなのに、彼はあっさりと私の存在に気が付いた。

「…よく分かったね。日番谷君」

「うまく消したつもりでも、俺には通用しないぜ。なまえ」



一瞬で恋に落ちた。

話したこともない私の名前を知っていた事もあるが、何よりもあの美しい碧眼に目が離せなかった。

意思を感じさせる強い眼差しが好きだと思った。
綺麗で、真っ直ぐで、この人の心に入り込めたら…そう思った。

見る見るうちに彼は頭角を現し、異例の速さで隊長へと上り詰める。

その当時私は八番隊に所属していて、即効で異動願いを出した。
丁度、十番隊の第三席の誘いが以前から持ちかけられていたが、京楽隊長の下に働く事が居心地よくて自ら断っていた。

トントン拍子で異動の準備は進められ、私は晴れて彼の部下として働くことになる。
それが嬉しくて、しばらく眠れなかった事を思い出す。

…だけど身近にいればいるほど、彼の幼馴染の存在を目の当たりにしなければならない。
毎日彼女が詰所に来る事で、私の嫉妬心はどんどん膨れ上がって罪悪感で埋め尽くされてしまう。

彼女がもっと嫌な女だったら、私はこんな気持ちにはならずに済んだのに。

可愛くて、優しくて、それでいて強くて。
私には持ち合わせていないモノを沢山持ったあの子の存在が気に入らなかった。

それと、彼の普段見せない柔らかな表情が酷く気になった。
他隊員にはあんな穏やかな表情は見せない。…それが嫌だった。

醜くなっていく私の感情。
次第にそれは表情にまで出るようになり、私はそれを恥じた。

好きな男の前では可愛い女で居たい。
綺麗に着飾って、無償の優しさを持ち、彼に似合う女になりたいのに、彼女のせいでうまく笑えない。



「醜い、汚い」

どうして此処まで可愛くない女になってしまったの。
嫉妬なんてしたくない、彼の大切なものを私も好きになりたいのに。

隊長が彼女を大事にしていると、聞かなくても分かる。
彼女の為に戦い、彼女の為に血を流し、そんな彼をこの目で見届けてきたから。

好きにならなければよかった。
あの時、彼を見なければよかった。



醜い感情を消して。

確かに穏やかだったあの頃に戻して。



自分を見失うくらいなら、こんな想いは要らない。

END

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