ひらひら。と舞う

窓越しに映る君の麗しき姿。
陶器のように真っ白な肌を隠す、真っ黒な死覇装。

凛としたなまえの美しさを一層引き出してくれる。



例えるなら蝶だ。

漆黒の羽に浮き彫りになる彩り豊かな、幻想をイメージさせる美しい模様は、両の羽を重ね合わせる度にキラキラと光輝く。

その高貴で、何分感じさせる近寄りがたさは、まさに彼女そのもの。

ひらひらと四方八方に飛び交い、見る人々を魅了させる妖艶さを秘めた蝶。
それを彼女に当てはめれば妙に納得してしまう自分が居る。



「なまえ」

いつだって君は俺の手から逃げていく。

その手を掴もうとすれば、クスリと笑って悪戯に交わし離れていく。


「……まだ捕まるわけにはいかないよ」

そう吐き捨てて、細く、長い、しなやかな腕を隠す死覇装の袖をヒラリ。ヒラリ。と揺らしながら。

微笑する彼女に、また俺の心も揺れ動く。

お前は残酷だ。

友達以上恋人未満の曖昧な関係は、俺を狂わせる。
誰だって好きな奴には振り向いてもらいたい。

それが、共に心通い合った男と女ならば、何が何でも自分のものにしたいと願うのが世の常だろう?

手を差し出せば触れる処まで君は近づくのに、いざ身体を引き寄せ抱きしめようとすれば逃げてしまう。

なまえの笑顔と、しゃんと伸びた後ろ姿を俺の瞳に焼き付けて。
ふわり。甘い香りの余韻を残して。

そんな事を毎日繰り返されれば、徐々に自信も無くしてしまう。



お前は揚羽蝶のようだ。

極上の密を捜し求め、休むことなく徘徊する。
気に入らなければまた次、また次…と気紛れに人の心に刻みつけていく行動に、多少苛つきを覚える。

俺では駄目なのか?

なまえを愛する気持ちは誰よりも大きいと思ってる。
全身全霊で君を護る。深く愛するから、俺から離れるな。



「冬獅郎」

今日も変わりない日常が始まる。
だけど、なまえは俺の近くを行ったり来たり。

「素直じゃねえな」

本当は捕まえて欲しいんだろ?
これ以上逃げぬよう、つなぎ止めて欲しいんだろ?
思わせぶりな自分の行動に疲れたから、俺の傍に居たいから。


酷使した羽はもう飛べずに、俺の元へと立ち止まる。

「……捕まえたぜ」

「冬獅郎は私をずっと好きでいてくれる?」

「聞くまでもねえよ」

君が空に舞う蝶ならば、俺は美しき蝶を誘い受け入れる花になろう。

絶え間なく、色鮮やかな花を咲かせ続けてみせる。



“愛“という甘美な君だけの花を。

END

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