▼ ひらひら。と舞う
窓越しに映る君の麗しき姿。
陶器のように真っ白な肌を隠す、真っ黒な死覇装。
凛としたなまえの美しさを一層引き出してくれる。
例えるなら蝶だ。
漆黒の羽に浮き彫りになる彩り豊かな、幻想をイメージさせる美しい模様は、両の羽を重ね合わせる度にキラキラと光輝く。
その高貴で、何分感じさせる近寄りがたさは、まさに彼女そのもの。
ひらひらと四方八方に飛び交い、見る人々を魅了させる妖艶さを秘めた蝶。
それを彼女に当てはめれば妙に納得してしまう自分が居る。
「なまえ」
いつだって君は俺の手から逃げていく。
その手を掴もうとすれば、クスリと笑って悪戯に交わし離れていく。
「……まだ捕まるわけにはいかないよ」
そう吐き捨てて、細く、長い、しなやかな腕を隠す死覇装の袖をヒラリ。ヒラリ。と揺らしながら。
微笑する彼女に、また俺の心も揺れ動く。
お前は残酷だ。
友達以上恋人未満の曖昧な関係は、俺を狂わせる。
誰だって好きな奴には振り向いてもらいたい。
それが、共に心通い合った男と女ならば、何が何でも自分のものにしたいと願うのが世の常だろう?
手を差し出せば触れる処まで君は近づくのに、いざ身体を引き寄せ抱きしめようとすれば逃げてしまう。
なまえの笑顔と、しゃんと伸びた後ろ姿を俺の瞳に焼き付けて。
ふわり。甘い香りの余韻を残して。
そんな事を毎日繰り返されれば、徐々に自信も無くしてしまう。
お前は揚羽蝶のようだ。
極上の密を捜し求め、休むことなく徘徊する。
気に入らなければまた次、また次…と気紛れに人の心に刻みつけていく行動に、多少苛つきを覚える。
俺では駄目なのか?
なまえを愛する気持ちは誰よりも大きいと思ってる。
全身全霊で君を護る。深く愛するから、俺から離れるな。
「冬獅郎」
今日も変わりない日常が始まる。
だけど、なまえは俺の近くを行ったり来たり。
「素直じゃねえな」
本当は捕まえて欲しいんだろ?
これ以上逃げぬよう、つなぎ止めて欲しいんだろ?
思わせぶりな自分の行動に疲れたから、俺の傍に居たいから。
酷使した羽はもう飛べずに、俺の元へと立ち止まる。
「……捕まえたぜ」
「冬獅郎は私をずっと好きでいてくれる?」
「聞くまでもねえよ」
君が空に舞う蝶ならば、俺は美しき蝶を誘い受け入れる花になろう。
絶え間なく、色鮮やかな花を咲かせ続けてみせる。
“愛“という甘美な君だけの花を。
END
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