結婚記念日は平日で、サボさんはその週の土日にちょっとした旅行をしようと提案してくれた。
だから当日は私が作るご馳走を食べて、いつも通りに過ごす予定になっている。
それとお小遣いを使ってささやかなプレゼントを購入した。無駄遣いはいけはいから本当にちょっとしたものだけど……


いつも通りの時間に玄関の扉を開ける音がした。
最後の料理をちょうど盛り付けていたところで、手をさっと拭いて飛び出すと大きな花束を持ったサボさんが少しだけ照れたように笑っていた。
思わず「わぁ!」と声を上げて駆け寄った。

「花束とか、大袈裟だったかな」
「そんなことないです!すっごく素敵…!」

派手すぎず大人っぽい可憐な花のチョイスがサボさんらしくて本当に素敵だと思う。さすが出来る男の人は違う!私の旦那様はやっぱり最高なんだ……!


ひとまず花束は水に晒しておいて、まずは腹ごしらえだ。サボさんはとってもたくさん食べる人だし、いつもお腹をすかせているから。
なんだか小さな子どもみたいで可愛い。

「すげぇ!おれの好物ばっかりだ!」
「本当ですか?良かったです!」

テーブルに並べられた料理を見てサボさんは目を輝かせた。昨日の夜からせっせと仕込んでおいた甲斐があった。
本当はサプライズにしたかったけれど、一緒に暮らしているが故に食材を大量に買った時点でバレてしまっていた。だから前日からの仕込みもサボさんの目を気にせずすることが出来たのだ。
もちろんメニューは内緒。だからサボさんに喜んでもらえて内心ホッとする。


以前買ってきてもらったピンク色の綺麗なお酒で乾杯した。サボさんから愛してる、とさらりと言われる事には慣れない。照れてお礼を言う私を彼はおかしそうに笑うのだ。
サボさんは意地悪してくる時がある。
でもなんだかそれはくすぐったくて、「やめてください」と怒りつつも内心嬉しかったりする。

今だって「照れてるナマエは可愛い」「もっと顔を見せてくれ」と言って、私が更に照れて赤くなるのを楽しんでいる。


「もうっ、サボさん…!」
「かぁわいいなあ」

いつもよりサボさんの顔がほんのり赤い気がする。
もう酔ってしまったんだろうか。

「おれだって、ナマエみたいに分かりやすくないかもしれねぇけど、照れたりしてるんだぞ」
「う、うそつき…」
「本当だって!今とかな?」
「今ですか?」
「こうしてナマエと結婚できて、無事に1年経って、目の前でナマエがにこにこ笑ってるのを実感するとなんかうわーー!ってなるんだ」
「なんですかそれ…!」

なんかよく分からないけど照れる。

サボさんがスペアリブを頬張りながら「へへへ」と笑った。口の周りがソースで汚れているのに全く気がついていないようだ。そういう無邪気な一面も大好き。


私からのプレゼントはありきたりかもしれないけれどネクタイピン。私には彼から貰ったネックレスがあるから、サボさんにも何か身につけられるものをプレゼントしたいと思っていたのだ。
サボさんは予想以上に喜んでくれて、両手にそっと乗せていつまでも眺めていた。



最近何かと仕事が立て込んでいるらしく、仕事に行くのが少しだけ早くなってしまった。それなのに疲れた顔を私には見せず、毎日こうして笑ってくれる。
いつか私に弱音を吐いてくれる日が来るだろうかと思う。けれど今の私じゃきっと駄目なんだ。
サボさんが自分の弱い部分も見せてくれるくらい、もっと立派な妻になりたいのだ。




休日の小旅行はブライトンへ行った。
昼間は街をぶらぶらと散策したり博物館を楽しみ、夜は有名なイタリアンレストランで食事。
海が目の前に広がるホテルで一泊した。
次の日は大きなショッピングモールで買い物。サボさんの仕事用のシャツを何枚か買い換え、ついでに新しいネクタイも購入した。
私に選んで欲しいと言うので、サボさんに似合いそうな鮮やかなブルーのものと少し珍しいパステルグリーンのもの。

それとサボさんは、私がぼんやり眺めていたワンピースをいつの間にか買っていたのだ。「絶対に似合うと思ったし、ナマエがキラキラした目で見てたから」なんて言って。

私はよく分からないがブライトンはサッカーチームがあり、試合のある日は列車も道も混むらしい。早めに帰ろうと言われて夕方には自宅に帰ってきた。

「ごめんな、今度はもっと遠くに行こう。それで目一杯楽しもうな」
「そんな!十分楽しかったです。お仕事忙しいのに、サボさんありがとうございました」

明日だってきっととても忙しいはずなのに。
素敵なワンピースだって買ってくださった。ホテルだって食事だって全部安くはなかった。サボさんのお給料はきっと一般的に見ても多いのだろうけれど、でも私はそんな事してもらわなくたって構わない。
サボさんとずっとずっと一緒に居られるなら、ほかに何もいらないと本気で思う。
いつかそれが伝わると良いな。







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