最終話「ハッピーエンド」

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名前と義勇が正式に付き合い始めて1年。
真菰と錆兎は遠距離恋愛をやめ、結婚して2人でゲストハウス藤の花を運営することになった。
もちろん義勇はゲストハウスの従業員に変わりなく、名前も取り引き先の担当営業に変わりはない。


今年も冬がやってくる。
去年よりも雪の降り始めは早かったが、積もるほどではない。

凍える手を擦り合わせながら義勇は台所で朝食の支度を始める。
今日の泊まりの客は6人。
そして自分の分と錆兎の分、真菰の分。


「早いな義勇」
「ああ、おはよう錆兎」
「おはよ。今日って確か名前と打ち合わせあったよな?」
「そうだ。11時からだ」
「イベントのポスターとチラシ持ってきてもらうんだったか。運ぶの手伝ってやれよ」

そんなこと言われなくとも分かっている、と義勇は少しムスッとする。


誤解を解き、結婚を前提に付き合うことになった2人はそれからまたたく間におしどり夫婦のような関係になった。
過去の名前と義勇を知る者は皆口々に「あの頃のようだ」と言う。


朝の支度を終えると今日でチェックアウトした客の部屋に行き掃除。
ひと段落すると名前との打ち合わせのために鱗滝のいるカフェに向かった。


名前はすでに来ていて、モーニングを食べ終えた様子だ。
食後のコーヒーを飲みながら手帳を確認している。

「名前、すまん。待ったか」
「義勇くん!おはよう」

ぱぁぁと花が咲いたように笑顔になる名前。
とうとう「義勇さん」から「義勇くん」に変わった。

義勇がそう呼んでくれと言ったのだが周りには秘密だ。


「ポスターとチラシ、運ぶぞ」
「あ、それならもう炭治郎くんが手伝ってくれてスタッフルームに置いておいたよ」
「なに…」
「それより、はい。これ請求書ね」
「…錆兎に渡しておく」

2人席に腰をかけ、のんびりと打ち合わせを行う。
この時間が義勇にとって今のところ1番幸せなひとときだ。

「そういえば錆兎さんと真菰さんの結婚式、なに着ようかな…」
「前に買っただろう…」
「あれは春夏用!秋冬用も買いたいな〜。七分丈の。淡い紫のレースで」
「そういえば羽織も淡い紫だったな…」
「羽織?なんの?」
「…いや、やはり思い出さないんだな」


義勇は禰豆子が持ってきてくれたコーヒーに口をつける。
名前はもしかしたら幸せに死んでいったのかもしれない。
最近そう思うようになってきた。

思い返せば、過去の名前はいつも笑顔で幸せそうだった。
悲しそうな顔を自分が見た記憶がない。
彼女はいつも幸せを感じていたのかもしれない。
たとえ小さな幸せでも、彼女なら大切にしたはずだ。


「また来週、買いに行くか」
「義勇くん忙しくない?」
「大丈夫だ」
「そう?なら一緒に行きたいな」


目の前の名前は幸せそうに笑う。
過去では出来なかった分だけ、自分の一生をかけて名前に愛を注ぐと決めた。

「義勇くん何笑ってるの?珍しい」
「おまえといるだけで幸せだ」
「なにそれ」

名前は恥ずかしそうに吹き出した。


end


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