25話「今度こそ」

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義勇は車の前に立ちはだかり名前の行く手を拒んだ。
いつも通りの無表情に困惑するが、このままでは森との約束のランチに間に合わない。
しかたなく車を降りる。

「あの、義勇さん…邪魔なんですけど…」
「どかない」
「は??!」

そこに突然名前のスマートフォンが鳴り出す。
客から電話だと思った名前は慌てて通話ボタンを押し、耳に当てた。
耳元から聞こえた「もしもし」は森の声だった。
森はすでに会社についたと言う。

「あの、ごめんなさい今から行くので…」

その瞬間、今まで微動だにしなかった義勇が動く。

「いかない」
「えっ…?!」

名前のスマートフォンを持つ手は義勇によって彼の口元へと誘われた。
義勇は森にもう一度「名前はいかない」と告げると電話をぶちりと切る。
突然の出来事に名前は呆然とするしかない。

「な、なに勝手にしてるんですか!?」
「話がある。他の男の元へは行かせない」
「自分勝手にも程があります!」

名前は義勇の手の中から自分のスマートフォンを奪い取る。
しかし森に電話をし直すどころではない。
今までの悩みや悲しみがどんどん溢れてくる。
止まらなかった。

「義勇さんは最初から意味がわからないんですよ!私に何がしたいんですか!?どうして義勇さんは私をこんなに混乱させることしかしないんですか!?」
「……落ち着け」
「落ち着いていられるわけないじゃないですか!」

義勇は取り乱す名前の左手をそっと握ったが、名前は必死に振り払おうとする。
しかし義勇はびくともしない。

「真菰は錆兎のだ」
「っ、私は代用品だったんですよね?!錆兎さんに想い人をとられて、それでっ」
「俺の想い人はおまえだ」
「なっ…」

突然の告白に名前は動きを止めた。
目の前の義勇は驚くほど冷静だった。
思わず体ごと背ける。


「おまえの夢を叶えられるのは俺だけだ」
「夢……?」
「結婚しよう、今度こそ」
「けっ、結婚!?!」


あまりの突然のプロポーズに名前は怒りも忘れて義勇と向き合った。
先程と変わらず冷静で真面目な表情の義勇に、なんだか笑いがこみ上げてくる。

冨岡義勇という男は、本当にどうしようも無い。


「…ふふふふ、もう、バカらしい」
「名前…」
「ランチしましょう義勇さん。それでちゃんと説明してください」
「!ああ」



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