21話「君の世界に」

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名前はずっと来たいと思っていた喫茶店で待ち合わせ中の友人を探した。
キョロキョロしていると一番すみの席に見慣れた髪飾りが見えた。

「ごめんなさい、待ちました?カナエさん」
「んーん!大丈夫よ名前!」


胡蝶カナエもまた、過去のように名前と仲を深めるために努力していた。
出会ってから何ヶ月も過ぎたが、カナエから必死にアプローチして今では毎日連絡を取り合う仲だ。

今日も名前がずっと行きたがっていたカフェに話があるからとカナエを呼び出した。


「それで、どうしたの?また義勇さん?」
「…まあ、そう言われればそうなんですけど」

名前はいつも義勇のことをカナエに相談していた。
カナエはあまり口出しするのも悪いと思い、名前の話を聞くだけにしている。

いつもは嬉しそうに義勇の話をする名前が今日はとても悲しそうに見えた。

「どうしたの?なにかった?」
「あの、義勇さんって、前も聞いたと思うんですけど、モテますよね?」
「そうね…」
「今までの彼女を知ってますか?」
「彼女?うーん、いたのかしら。私と出会ってからはいないわ。確か出会ったのは彼が20歳の頃かしら」
「じゃあ、6年間は彼女、いなかったんですね」
「そうねー」

カナエは何があったのか知りたい気持ちを必死に抑える。
あくまでも聞き役だ。
それに気を抜けば過去と現在どちらの話をしてしまうか分からない。


「実は私、3ヶ月前に会社の先輩に告白されたんです」
「え!?そうなの??」
「はい。森さんっていう、すごく優しい方で、前から気になってたんです。告白された時は断りました。でもまた最近…」
「名前、もしかして付き合うの?その森さんって人と」
「……どうしようかなって」


先日のことを思い出して名前は胸が苦しくなった。
義勇が目の前で、名前の知らない女性を抱きしめた。
それに「会いたかった」「待っていた」と言ったのだ。

確実にあれは義勇の大切な人なのだ。
自分は代用品だった。
きっと、あの女性が現れる前の代用品。

だから何ヶ月も友達以上恋人未満のような関係で、あんなに何回も出かけていたのに告白されなかったのだと思った。
何度自分から告白しようとしたことか。
それでも、やはり義勇からの告白が聞きたかった。

ずっと待っていたのに…。


名前は涙をぐっと堪える。
目の前にいるカナエを困らせたくなかった。



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