13話「手袋を貸すから」

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プレオープンの日がやってきた。
事前にプレスリリースをし、全国紙やテレビで何回か紹介をしてもらったため、予約が何件もあった。
既に予約は3ヶ月待ちだ。
錆兎とアルバイトの炭治郎は張り切っている。

プレオープン初日はカフェが賑わった。
噂を聞きつけやってきた若い女性客で店内はごった返し、鱗滝とアルバイトの禰豆子、また手伝いに来てくれた胡蝶姉妹がせっせと働いている。


義勇は錆兎と共にゲストハウスの事で手一杯だった。
次々に来る客に各部屋の説明、注意事項の確認、夕食や風呂の準備、やることはたくさんある。

鬼を切っていた自分が今の自分を見たら驚くだろう、と義勇は思った。
口下手なため、接客は基本任せっきりだ。
義勇は雑用や裏方の仕事を中心にやっている。


一階のカフェを覗くと、午前中よりも更に賑わっていた。
義勇に気づかずカウンター内で食器を洗っているしのぶの肩を叩く。

「昼休憩はみんなとったのか」
「ええ。鱗滝さんがとてもよく周りを見てくださって。無事に休憩はいただきましたよ」
「手伝うことはあるか」
「うーん、コーヒー豆が心配ですね。ストックを持ってきていただけますか?」
「わかった」


倉庫にある大量のコーヒー豆が入った袋がある。
鱗滝が自ら選んできたこだわりの豆だが、義勇にはさっぱりわからない。
袋を担いで持っていこうと扉に手をかけた時、勢いよく扉が開いた。

「名前が来たわ!」

胡蝶カナエが嬉しそうに飛び出してきた。
おかげで義勇は顔面を扉に強打し、その場にしゃがみ込む。

「あら、ごめんなさい。あとでお薬を塗ってあげるから…」
「それより名前は…」
「ああ!カフェに来たのよ!今、カウンターで座ってる!カフェラテとプリンを頼んだわ!」
「注文内容はどうでもいい」


コーヒー豆の入った袋をしっかり担ぎ、カフェへ向かう。
たしかにカウンター席に名前はいた。
気づかないフリをしてカウンター内に入り、豆を置いている棚に袋ごと押し込む。
すると後ろから「あ」と名前の声が聞こえ、振り返った。

「冨岡さん!」
「名前か…」
「約束どおり来ました。すごい大繁盛ですね」
「ああ、おまえのおかげだ」
「え!?いえ、私はそんな…!!」


ちょうどよく鱗滝が淹れたコーヒーが出来上がる。
鱗滝に目配せされ、義勇は自ら名前の目の前にカップをそっと置いた。


「ゆっくりしていけ」
「忙しそうですけど、お手伝いすることは?」
「おまえは客だ。必要ない」
「でも、手伝いたいんです。そのつもりで来たし…」
「……雪かき」
「はい?」
「外の雪かきでもするか?」
「やります!」


隣にいた胡蝶しのぶとカナエが「は?」と睨みつけて来たが、義勇は気にしなかった。
名前は目をキラキラさせていた。



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