12話「今度、雪を一緒に見よう」

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ラーメン屋を出ると空はどんよりと曇っている。
今年はまだ雪が降らない。
名前の好きな雪が。

義勇の隣で名前は空を見上げている。

「雪、降らないな」
「そうですね」

2人は歩き出す。
息が白い。
今日は寒波が訪れていると朝のニュースで言っていたことを義勇は思い出す。
もしかしたら今夜は雪が降るかもしれない。

「降るといいな」
「ん?冨岡さんは雪が好きなんですか?」
「いや、俺じゃない」
「錆兎さん?」
「……おまえはどうなんだ」
「私ですか?好きですよ。白くてキラキラしてて」
「そうか」


なぜか安心した。
名前は名前だ。
違うところはあるし、記憶もない。
しかし名前といると、まるであの頃に戻ったような気持ちになるのだ。

好きなものも変わらない。
雪について話す名前は子どもの様に無邪気に見える。


「プレオープンの日、24日でしたっけ。晴れるといいですね」
「そうだな」
「私も行きますね。仕事ではなくプライベートで」
「そうか」
「…冨岡さんいつもそうなんですか?」
「…なにがだ」

名前は少しだけ唇を尖らせた。
あの頃と変わらない癖の一つを見つけて義勇は内心嬉しくなる。

「冨岡さんって女の人にモテなそうですね」
「…」

義勇より少し先を歩く名前はパッと振り返って笑った。

「どういう意味だ」
「いや、そのままの意味ですけど」
「そうか……」
「…怒りました?」
「おまえは今、恋人はいるのか」
「え!?」

いきなりのことに名前は咄嗟に頬を手で包んで隠す。
今は絶対に顔が赤くなっている。
そう思ったからだ。

なぜか冨岡に惹かれていく自分に戸惑う。
今までこんなにすぐに男性に惹かれることはなかった。
まだ会ってから3ヶ月も経っていないし、今日やっと知り合いらしい会話をしたばかりだ。

「い、いないです」
「生まれてから一度もいないのか」
「ち!違いますよ!さすがにいたことはありますよ!」
「……なるほど」

なにが「なるほど」なんだ!
と、名前はツッコんでやりたかったがそこは抑えた。
もう自分の乗ってきた営業車が見えてきた。
次の客との約束もあるため、そうのんびりもしていられない。


「ではこれで!今日はありがとうございました。冨岡さんと仲良くなれて嬉しかったです」
「ああ。くれぐれも気をつけて帰ってくれ」
「はい」

いつもの営業車に名前が乗り込む。
義勇に手を振ると振り返りもせず颯爽といなくなってしまった。
名前の車が見えなくなるまで、義勇はぼんやりとその場に立ち尽くした。




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