9話「一緒にすごそう」
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一通り名前から用件を聞き、錆兎に伝えるためにメモを取った。
義勇から質問や要望など言うこともないので打ち合わせはかなり早く終わってしまった。
名前は次の約束までかなり時間が余っていると言う。
先程義勇に褒められ自分のことを心配されたからか、名前はいつのまにか彼に親しみを感じていた。
「そういえば、錆兎さんから聞いたんですけど地方の新聞に載るんですか?」
「ああ。元々ゲストハウスを始める前からSNSで告知していた。そこから知ったんだろう。あちらから取材の申し出があった」
「よかったですね。でも地方紙っていうのが少し残念」
「なぜだ?」
「ゲストハウスだったら世界中からお客さんが来た方が良くないですか?地元の人ばかりじゃなくて」
それを聞いて義勇はハッとした。
この世界のどこかにいる真菰に、届けられないか。
「どうしたらいい」
「え?なにがですか?」
「世界中に知らせるには」
もしかしたら異国にあるかもしれない。
もしどこかでゲストハウスの事を知り、さらにオーナーが錆兎と知ったら。
真菰は自ら来てくれるかもしれない。
名前はにやりと笑う。
「じゃあプレスリリースしましょう!」
「プレ…、?」
「簡単に言えば雑誌編集部、新聞会社、テレビ制作会社へお手紙を送るんです。ぜひうちのゲストハウスを取り上げてくださいって」
「なるほど……」
「基本的なテンプレートを用意するので、あとはそれに当てはめてゲストハウス藤ノ花の良いところをまとめてください」
さらに詳しく名前からプレスリリースの方法とポイントを聞き、これなら真菰にも届くかもしれないと思った。
目の前にいる名前はあの頃とは違って幼いが、頼り甲斐があるのは変わっていなかったようだ。
「やはりおまえはすごいな」
「え?」
「いや、仕事ができる」
「そ、そんなこと…どうしたんですか冨岡さん。いつも錆兎さんの隣で黙ってるだけなのに」
「いつもは俺の出る幕じゃない」
「そんなことないですよ。何か意見があったらちゃんと言ってください。私、できる限りのことをします」
ああ、記憶に残る名前だ。
懐かしくもあり寂しくもある。
「義勇くん」とはもう呼んでくれないのだろうか。
「冨岡さん」という呼び方に自分と名前の距離を感じた。