5話「夫婦と挨拶」

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「え?忘れ物?」

義勇が柱合会議のために家を出て数時間経った時、洗濯物を干していた名前の元に鴉がやってきた。
どうやら忘れ物をしたらしく、届けて欲しいとのことだった。

産屋敷邸までは少し遠いためか、連絡をよこせば義勇が迎えに赴くという。
中間地点で落ち合う提案に名前は悩んだ。

(急いではいないようだし、みなさんにご挨拶も兼ねて行ってみようかな…)

結婚式は派手に行いたくないという意見が一致したため、参加者は家族だけだった。
なので柱たちに名前は会ったことがない。
身内のいない義勇の元へは鱗滝左近次だけが来ていた。

しかし祝金だけは柱一同から貰っていたし、産屋敷耀哉からは祝福の手紙もいただいた。
さすがに挨拶をしないのは申し訳ないと義勇に言ってみたが、
「俺から言っておく」
とのことだった。

「でもやっぱり…」

名前は覚悟を決め、立ち上がった。
余所行きの着物に着替え、義勇の忘れた書類をしっかり鞄へ入れた。

鞄は結婚してすぐに義勇が名前に贈ったものだ。
きっと誰かにアドバイスを貰ったに違いない。
「流行っていると言っていた」
とボソボソ言いつつよこしてきたものだ。

名前はその鞄をぎゅっと胸に抱いて家を出た。


鴉に導かれ産屋敷邸へ辿り着いたのは夕方になってからだった。
額の汗を拭い、着物を正して門番へ事情を話した。
門の外でしばらく待たされていると、何やら騒がしい音が聞こえてくる。


「おまえ、あの宿の女中だったんだよな!俺のこと覚えてるか?」
「ほお!貴女が冨岡の奥方か!可憐だ!」

義勇が出てくるかと思えば一番先に顔を出したのは宇髄天元と煉獄杏寿郎だった。
そして2人の背後から一般人でも分かるほどの殺気を出した傷だらけの男が現れ、名前は硬直する。

「テメェが冨岡の女かァ」
「あ、あの……私…」
「みなさん、名前さんが怖がっていますよ。落ち着いてください」
「胡蝶さん!」

名前は胡蝶しのぶを見つけて安堵した。
背後にはいつも通り読めない顔をした義勇もいる。

名前を囲んでいた男達も一時大人しく下がる。

「名前、なぜ連絡をよこさなかった」
「柱のみなさんと産屋敷様へご挨拶したかったのです…。すみませんでした」

しゅんとしてしまった名前を見て周りがヤジを飛ばす。

「おいおい冨岡、嫁をいじめてんじゃねーよ」
「そうだぞ冨岡!まずは礼を言うべきだろう!」
「そうですよ冨岡さん。旦那様失格ですよ」

特に表情の変えない義勇のかわりに名前が「義勇さんは悪くないです!悪いのは私です!」とフォローした。

まだ門の前だと言うのに名前はとてつもなく疲弊していた。


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