4話「らしくもなく焦って」
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なんとなくソワソワした様子の義勇に気づいた鱗滝左近次は、そっと近づいた。
「義勇、大丈夫か」
「…はい」
口数の少ない義勇が何を考えているのか、さすがの鱗滝でも分からない時がある。
義勇もなぜ自分がこんなに落ち着かないのか分からなかった。
しばらくすると女と錆兎の明るい声が聞こえてきた。
義勇は座っていた椅子から立ち上がる。
錆兎が2人を紹介した。
「こいつが話していた冨岡義勇。こっちはカフェを主に担当してもらう鱗滝左近次」
「はじめまして、株式会社ウィステリアの馬場知子と申します」
やはり知らない女だった。
名前の顔を見たことがない錆兎のことだから、もしかしたらとら思っていた義勇は少しだけ目を逸らした。
それから4人はテーブル席へ座り、少しの雑談をして本題に入った。
まずは名刺とプライヤー、チラシ、宣伝ツールについて錆兎がテキパキと話を進める。
もうほぼ完成しているらしく、あとは印刷のみであることを義勇は初めて知って感心する。
(さすが錆兎だな。俺には到底無理だが…)
一通りの大まかな話が終わった時、馬場が申し訳なさそうに時計を確認する。
「実は、私来月から産休に入ることになっているんです」
錆兎は知っていたようで「とうとうですね」と嬉しそうに笑った。
「それで今日これから、引き継ぎの者が来るはずなんですけど、ちょっと遅れてるのかしら」
「ああ、別々に来たんですね」
「ええ。彼女も今日予定が詰まっているみたいで。すみません」
義勇はそこで初めて馬場の腹が大きいことに気がついた。
鈍感にもほどがある。
しかしここで初めて義勇は口を開いた。
「女性、なんですか」
「え?」
「引き継ぎの方は」
「あ、はい、そうですけど…」
言葉足らずで突然発言をした義勇を馬場は不審そうに見つめる。
錆兎と鱗滝は「またか」と頭を抱えた。
「何歳ですか」
「な、………今年24歳の若い子なんです」
「…24」
馬場は驚愕を隠せなかったようだが直ぐに営業スマイルに戻った。
義勇は年齢を聞いてまた落胆する。
今日は期待して落胆しての繰り返しだ。
「半にはくるはず」らしい引き継ぎの24歳は40分になっても姿を現さない。
馬場が焦り出した時、駐車スペースに車が乱暴に入ってきた。